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 ゲームでは描写のない登場人物の事情。


 設定だけではわからないですよね?



 「クレハ様にも複雑な過去があるのはわかりました。ただ貴族社会では女性だけでなく男性にもお気を付け下さい。純潔を奪われれば何もかもが終わってしまいますので」


 えっ?マジ?

 強姦まがいのことも平気でしてくる可能性あるの?


 ……やっぱり、この世界ヤバいかも。


 「わかった、気を付ける。ところでソフィア、魔法誓約書なんだけど手に入れてくれる?」

 「はい、神殿に行って入手して参ります。ですがクレハ様、私に対する誓約は必要ございません」

 「えっ?何で?」

 「先程申し上げましたが、私はクレハ様を信頼出来るに足る方だと判断致しました。……それに信用して欲しければまず自ら信用する、のでしょう?」


 あら?ソフィアってば意外に男前?

 益々気に入っちゃったかも。


 「ふふ、ソフィアやるね?でも嬉しいかも、ありがと。でも、じゃあ何の為に魔法誓約書を入手するの?」

 「何かの時の為にでございます。備えはあるに越した事はごさいません。クレハ様がクレメンティーヌ様の中に居るという状態はかなり特殊です。何も無く平穏無事に過ごせるとは思えませんので」


 まあ、そうだよね。この世界に多重人格とかの認識があったとしても、精神異常と思われてしまう状態だし。


 だけど……。


 「ねえ、ソフィア。私は今までのクレメンティーヌを壊したい。ううん、壊さなきゃ断罪回避は免れない。それとクレメンティーヌに15歳の女の子が感じる楽しみや幸せを知ってもらいたい。美味しいケーキを食べて、好きな本を読み、美しい風景に感動して……。色んなことをいっぱいさせてあげたいんだ。断罪回避の為に王太子の婚約者からは外れて貰うつもりだし、今までの分まで沢山の事するから!その為にソフィア、貴女の協力は不可欠だからね!」


 そう。

 断罪回避は当たり前として、クレメンティーヌにはもっと沢山の経験をして欲しい。

 前世の『王子』として生きた私ですらクレメンティーヌ程の縛られた窮屈な毎日では無かった。

 朝起きてから夜眠るまで、分刻みのスケジュールは年頃の女の子の生活には程遠く、くれはの世界だったら虐待だと訴えられるレベルだ。

 学園入学前だと言うのに日毎に多種多様な家庭教師がやって来て、空いた時間は王宮での妃教育か婚約者の王太子との交流で潰れている。


 クレメンティーヌ個人の時間など皆無に等しい。


 こんな生活を幼い頃から何年も続けていれば、そりゃあ情緒も育たないだろう。

 必ず腹の探り合いがセットの人間関係に、誰かを愛し慈しむ心が生まれるはずもないのは当然だ。


 恋金のクレメンティーヌは周囲の大人の配慮の無さと過度の期待、そしてそれに応える事が出来てしまった彼女の能力の高さが産み出した。


 ……この分だとゲームではわからない登場人物の事情が他にもありそう。

 王太子に嫌われて婚約破棄されれば断罪回避出来ると思ってたけど、ちゃんと調べないといけないかも。


 「クレハ様?難しい顔をされていますが、どうかなさいましたか?」

 「あっ、また顔に出てた?ごめんなさい、気を付けるって言ったばっかりなのに」

 「……私の前だけでなら良いのです。完璧なクレメンティーヌ様みたいには中々出来ませんわ」


 ソフィアもゲームではクレメンティーヌの完璧さを愛し崇拝して、他の令嬢達を見下してた。

 でも今私と話している彼女は、慣れない状況に戸惑う私を決して見下したりせず、気遣ってくれる優しさを持ってる。

 ゲームでの情報はあくまで情報としておいておこう。

 これから出逢う登場人物達を真っ直ぐに見ないとダメだ。

 先入観という色眼鏡で見てしまって、後で問題が大きくなるのは避けたい。


 まずはこの後のお茶会で会う王太子。


 後にクレメンティーヌに学園最大のイベントの卒業パーティという衆人環視の中、ヒロインへの悪事や隣国との関わり、或いは王位簒奪への関与を暴き婚約破棄を言い渡すとともに断罪する、クレメンティーヌが唯一慕った尊きプリンス。


 正統派王子だけど非情な一面を持ち、常に冷静な判断を下す。頭脳明晰、文武両道、眉目秀麗……この王太子もまたクレメンティーヌとともに完璧な人として周知されている。


 だけど、いやだからこそクレメンティーヌは王太子の心変わりを許せなかった。

 涼しい顔の裏で血を吐く思いで努力をしてきた者同士、理解出来るのは自分だけだと言う自負があったから。

 王太子自身もクレメンティーヌに対して理解を見せ、心を許しているエピソードもあった。

 クレメンティーヌにしてみれば王太子の心変わりは裏切りだったのだと思う。


 恋する相手に裏切られたというより、信用していた相手に裏切られたという方が近いのかもしれない。


 その裏切りがクレメンティーヌを暴走へと導く。


 そんな事はさせないし、絶対しない。

 だけど生身の王太子ってどんな人なのか?

 それをまず知らなければ、今後の対策も立てられないし。

 

 

 「この後、王太子殿下とお茶会だよね。で、ソフィア教えて?ソフィアから見た王太子殿下ってどんな人?」


 この完璧なクレメンティーヌを袖にするお馬鹿な王太子殿下をギャフンと言わせる為に、情報収集は欠かせないからね。



 次回の投稿は2日空きまして10/21(水)です。

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