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 お待たせしました?

 待ってくれている方がいると信じています!

 ……願望?



 「紅い紅い紅葉。私はそれをどうしたい……」

 「天ぷら」

 「私の大好物、それは……」

 「○○デパートのガラス瓶入りプリン」


 さ、最後まで言わせてよ!

 でも間違いない!!


 「優!」

 私は座っていた椅子から立ち上がり、優へと近付こうとして……つんのめった。

 私の腰にしっかりとまわされた腕がストップをかけたのだ。その腕の持ち主は光輝。それを理解した私は光輝を睨んだ。

 「離して」

 「却下だ」

 「はい?」

 「とにかく座れ、話はまだ終わってない」

 腰にまわされた腕は苦しくはないけれど逃れられそうにない力が込められている。私が優に近付こうとするのを止める理由がわからない。だが意味無く止めているのではないのだと、光輝の瞳は語っていた。 


 「プレザント伯爵令嬢が東條菜月だと言うのは間違いがなさそうだが、何故俺達がこいつに会う必要があるんだ?優、お前なら今の俺達の立場は理解してるだろう?」

 「そうだね。この国の王太子とその婚約者である公爵令嬢。しかも双方共に周囲に目を配らなくてはならない状態で、プレザント伯爵令嬢の祖父プレザント公爵はその最たる人物。ここまでは合ってるよね?」

 「そこまでわかっていて何故こいつを連れて来たんだ」


 柔らかな物腰と口調を保つ優と、冷静だが瞳に剣呑な光をのせて話す光輝。

 一体光輝は何を心配しているのか。考えても私にはわからなさそうだ。


 「まあ、落ち着いてよ、王太子殿下。私がくれはの害になる事をするわけがないだろう。それにあの事故でこの世界に転移した人間同士なんだから少しは交流してもいいんじゃない?」


 そうだ。私はこの世界で運良くソフィアという理解者と光輝に出会えたけれど、もしそうでなければ心が押し潰されていたに違いない。事故で死んで目が覚めたら異世界でした、なんて小説なら楽しめても実際そうなると、そんな簡単な事ではない。今まで持っていた全てが消えてなくなり、しかも頼れる肉親さえいない。常識も何もかもが全く違う環境にいきなり放り込まれて、さぞかし不安だっただろう。

 それに、前世では色々あって関われなかったけれど、私は東條菜月という人物が嫌いではない。むしろ話してみたかった一人である。なんの因果でこの世界に来たのかわからないけれども、ある意味いい機会かもしれない。

 なんて事を思っていたら、すぐ隣から冷気が漂ってきた。


 「……偶然この世界に転移した俺達が、これまた偶然こんな立ち位置で、更に言えば俺にとっては嬉しくない状況になる事が間違いないのに、前世の誼で助け合いをしろ、と優は言ってるんだな?」

 「そう、ツンツンしないで。確かに光輝の立場だと私はともかく、プレザント伯爵令嬢である東條さんと交流するのは色々と騒がしくなるね。でもくれはが、フォレスター公爵令嬢がプレザント伯爵令嬢と仲良くなるのは利がない事ないんじゃない?」

 「チッ」


 冷気を放ち圧をかける光輝を笑顔と正論で飄々といなす優。前世でもよく見た場面がこの世界でも繰り広げられていた。

 ……大抵は優に丸め込まれるんだよね。


 光輝は優に勝てない訳ではない。頭の出来も回転も良く弁舌に長けている光輝は勝とうと思えば勝てるだろう。だけどいつも光輝は勝たない。優が光輝に何か言う時は光輝が負けても良いと思えるものがあるのだと思う。

 それに光輝自体、心底困っている人間、しかも知り合いを放置できるタイプではない。口では冷徹な事を言っていても、何処かお人好しなところがあるから。

 光輝はバレてないと思っているみたいだけど周りの人間はそれを理解している。

 勿論、優も。


 この勝負もきっと優の勝ちだ。


 「プレザント公爵としても王太子への駒にしたい伯爵令嬢を王宮に近付ける手段として、その王宮にいるフォレスター公爵令嬢と仲良くするのは容認するだろうし、自身以外の令嬢を王太子の側に招き入れることでフォレスター公爵令嬢の評価も変わる。しかもプレザント公爵へのスパイとして、彼女以上の人物はいないだろうし」

 「くっ」

 「更に言えば王太子宮に隔離されたくれはの話し相手として、彼女以上の適任者はいないよね?前世、今世、どちらの事も話せるし、社交界での噂も拾える人材なんだから」

 「っっ、ふんっ!好きにすればいいだろう!だけど……」

 「勿論、全てはくれは次第だってわかってるよ?だけど味方は一人でも多いに越した事はないと思うけど?」


 ああ、やっぱり。今回も優の勝ちだ。

 しかも優は私が東條さんに興味があるのもわかっていそうだ。私が断る可能性など全く考えてない。

 まあ、その通りなんだけど。


 「で、くれははどうしたい?」

 前世と同じ柔らかな微笑み。顔は似てるけど全く色彩が違う為、別人だとはっきりわかるのに、私にはキリアが優にしか見えない。それほど優の存在は私にとって大きい。


 「答え、聞く必要ある?優は全部わかってそうだけど」

 「ふふっ、それでもちゃんと聞かないとね?万が一違っている可能性もあるから。私はくれはの意思を尊重したいから」

 「ははっ、そうか、そうだよね。りょーかい。私は東條さんともっと話してみたいな」

 「っっ、森川さん……」

 頬を紅潮させて瞳を輝かせた東條さんもといヒロインの言葉を遮るように光輝が話しだす。

 「……本当にいいのか?」

 短い問い掛けには様々な意味が含まれているのだろう。冷静な表情とは裏腹に美しい金の瞳は心配そうに揺れている。

 「大丈夫だよ。光輝、ありがとう」

 「……お前がいいなら、それでいい」

 やや不服そうではあるけれど、納得したらしく腰にまわされた腕の力が緩んだ。


 「えっと、これからよろしくお願いします?」

 前世での因縁、今生含め微妙すぎる間柄の私と森川さんだから良い挨拶もわからなく疑問形になってしまった。

 「ふふっ、何故疑問形なのですか?あっ、失礼致しました。此方こそよろしくお願い致します」


 !

 流石ヒロイン。思わず、といった笑顔が可愛い。小花のエフェクトが見えるようだ。……ヒロイン、マジ可愛い。


 !!

 腰にまわされた腕の力がまた強くなった。怪訝に思い隣りを見ると、忌々しげにヒロイン、もとい森川さんを睨む光輝がいる。


 ……恋金的にヒロインを睨む攻略対象って有り得ないんだけど、これって如何なものか。


 まあ、なるようにしかならないだろうし、今は新しく出来た友達と仲良くなれるように頑張ろう。


 初めての恋。

 初めての友達。 

 初めて尽くしだらけのこの異世界。


 前世ではどうしても出来なかった事が、この世界で叶えられようとしている。


 ……ごめんね、お父さん、お母さん、皆。

 きっと私が死んで悲しんでいるだろう。

 でも、私はこの世界でやりたかった事をやってみたい。

 だから、思いっきり悔いの無いように生きようと思う。

 泣いて、笑って……全力で。


 だから、会えないのを悲しむのはもう止めるね。

 

 今を精一杯生きる。


 きっとその方がお父さんもお母さんも嬉しいよね?



 目尻に少しだけ溜まった涙は溢れること無く乾いたはずなのに。

 光輝は空いているもう一つの手で私の頬を撫でた。

 


 


 

 




 

 



 次回の投稿は4/20(火)です。


 データが消えて改めて読み返してみて、色々と思う事もあり方向性を思案中です。

 時間がかかりそうです(T_T)

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