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タイトル回収ですが終わりではありません。
時間にしたら一分も経っていないはずだけど、私にはとても長く感じた。
触れるだけの優しいキス。
それでも私にはいっぱい、いっぱいだった。
呼吸をどうしたらいいのかわからず息を止めてたから、軽く光輝を押して離れる。
でも。ごめん、これ以上は無理!
恋愛スキル0の私にはもうどうしていいのかわからない。キスが嫌とかでは無くて、心臓は破裂しそうだし頭は沸騰してまともな思考が出来ない。
その意志を言葉ではなく、光輝の胸に顔を埋める事で示した私に光輝は小さく笑う。
「くっ、今はこれで我慢するさ」
さっきとは違い柔らかく包む様に抱き締める光輝は、何をどうしたのか膝の上に私を移動させていた。
「さっき言ったよな?すぐこの態勢に戻すって」
言ってた、言ってたけどっ!
この態勢だと顔が隠せないのよ!
目線を合わせようとする光輝を避けて、肩に顔を埋める。今は勘弁して下さい、頑張って慣れるから、もう少し待って欲しい。……慣れるのかな?
『王子』生活の長かった私だけど、これからは普通の女のコみたいにこういう事を出来るように……。
…………ん?
流れるままにキスしちゃったけれど、何か忘れてるような。
?
!!
しまった!
この身体は私のじゃない。クレメンティーヌのものなのに。
光輝に想いを告げる事への了承は取ったけれど、キスの許可まで貰ってないし、そんなの頼めるはずもない。
何て事してしまったんだろう……。
怖くてクレメンティーヌに話し掛ける事も出来ない。
きらきらと胸に膨らんだ蕾がしおしおを萎れていった。
浮かれてる場合じゃなかった。
ヴィーが光輝だとわかっても、私達には未来がない。それがわかってたから、せめて想いだけは告げたいと、そう思ってた。なのに……。
「何でキスしたのよ」
「は?したいからだよ。他に理由なんかない」
ええ、ええ、そうでしょうとも!
私だって嫌じゃなかったし、幸せでしたよ!
でもね!
「この身体は私達のものじゃ無い」
「……そうだな」
「っ、そうだなって!そんな簡単な事じゃないでしょ!」
私はクレメンティーヌの身体に、光輝はヴィーの身体に居候させて貰ってるだけなのに、そんな自由な事許されるわけない。なのに、何で光輝は……。
「くれは、理由は二つだって言ったよな?」
「それ、今関係なくない?」
「いや、大ありだから話してる」
「意味不明なんだけど」
ふわふわキャピキャピな頭から一気に冷えた私は、自己嫌悪も手伝ってかなり不機嫌な対応になってしまった。だけど光輝は全くもって冷静だった。
「もう一つの理由。お前も感じてると思うが、俺達はどうやら前世で言うところの人格統合するみたいだ。記憶や感情がどちらのものか曖昧になりつつあるはずだ」
「……それが何で理由になるのよ」
「俺達の記憶が全て無くなる訳じゃないだろう。だが俺達が俺達である時間はもうそんなに残ってない。だから俺はずっと焦ってたんだ。俺が俺である内に、お前がくれはである内にって」
「だけどっ!身体は彼女達のものだよ」
「俺はそう思ってない」
どういう事?間違いなく、これはクレメンティーヌの身体だし、今触れているのはヴィーの身体だ。
光輝は何が言いたいのだろう。
「俺だけのくれはへの想いを伝えたい、そう思って焦ってはいたし、今も焦ってる。時間がある限り、俺がどんな風にくれはを好きだったか、今もどれだけ好きか知って欲しい。でもな、根拠も何もない推測ではあるが、多分俺とお前がこの身体の軸の精神になるんだと思う」
「軸?」
「簡単に言えば精神を占める割合が多いって事だ」
そうかも、しれない。
私がこの身体に転移してから一度だってクレメンティーヌが身体を動かす事は出来なかった。そして時間が経つにつれ、クレメンティーヌの性格が私に寄ってきている気がしていた。クレメンティーヌらしい感情が私にも湧いたりした事はあったけど、ほんの少しだけ。
「思い当たる節があるだろ?根拠のない確信なんてのは、あんまり信じる方ではないけど、俺はそう思う。俺がくれはにキスしたいと思う気持ちと、ヴィンセントがクレメンティーヌ嬢にキスしたいと思う気持ちは同じだって事だよ。くれはが俺を受け入れたなら、多分クレメンティーヌ嬢もヴィンセントを受け入れてるんだ」
「そんな、そんな都合のいい転移なんて」
「俺もそう思うがな」
いつだったか、夢現の間で誰かに言われた言葉を突然思い出した。
『そなたの思う様に生きなさい。そなたはクレメンティーヌでもある』
確固たる何かによる強い言葉。
理由も根拠も証拠も何も無いのに、絶対的で疑う余地などないと信じられる。今まで忘れてたのが不思議なくらい、この世界で生きるのに最も重要もの。
そうか、私がクレメンティーヌあり、クレメンティーヌは私なんだ。
それは今までうじうじ悩んだ事が馬鹿らしい位にすとんと胸におち、私を納得させた。
そして、光輝の焦る意味もまた理解出来たのだ。
私達が一つになる前に、前世の私達の想いを、出来なかった沢山の事をしようとしてるんだね。
残っている時間は光輝が言う様にそんなに無いだろう。だけど、だからと言って前世の私達の想いをそのままにしたくない。だから光輝は全身全霊でぶつかって来てくれてるんだ。
ああ、光輝を好きになって良かった。
光輝が私を好きになってくれて良かった。
そうだね、光輝。
残り少ない時間でも前世の私の恋、精一杯しよう。
私も頑張る。
クレメンティーヌ、それでいいんだよね?
だって、貴方もまた私だから。
ふふふ、こんな言葉あったな。
命短し恋せよ乙女って。
この世界ではクレメンティーヌ、私は悪役令嬢だから、命短し恋せよ悪役令嬢かな?
うん、もううじうじするのは止めよう。
何もしないまま終わるのは御免だ。
短くても鮮やかに咲き誇ってみせよう。
その後は違う私達がその恋を綴ってゆくから。
恋金?アマリア?ヒロイン?攻略対象?
蹴散らしてあげる。
私は私の物語の主人公なんだから。
私は私らしく、仮面なんて捨ててしまおう。
さあ、大好きな光輝。
私と恋をして?
どんな物語でもない、私達の物語を始めよう。
準備は出来たから。
次回の投稿は2/11(木)です。




