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 くれはVS光輝。

 軍配は如何に!?



 脳内会議が終了し、はたと我に返った私は現状を理解していなかった。

 かなり近い位置から聞こえる自分以外の鼓動と呼吸。

 ?

 これは一体どうなっているのか。


 ………!!!


 「ヴ、ヴィー!離して下さい!」

 

 膝の上に乗せられ抱き締めれている!

 自慢じゃないけれど恋愛スキルが0に等しい私には到底受け入れられない。


 「……ヴィンセントじゃない。もう、わかってるんだろ?俺が誰なのか、なあ、くれは?」

 

 っっ、現状に混乱しすぎて光輝だって言う事忘れてた!


 「こ、光輝なんでしょ?とにかく離れて!話はそれからだよ!」

 「嫌だ」

 「は?えっ、何で?」

 「逆にこっちが聞きたい位だ。何故お前を離さなくちゃいけないんだ?やっと捕まえたのに」

 「えっ?捕まえた?いや、何処にも逃げも隠れもしないから、とにかく離れてってば!」

 「しつこい。嫌なものは嫌だ、諦めろ。このままでも話は出来るだろ?」

 「話が出来る出来ないの問題じゃなくて……とにかく離せー!」

 「くどい。お前が叫ぼうが暴れようが離さないから。因みに外には聞こえないからな、結界張ったし」


 ……これは間違いなく光輝だ。

 光輝がこうなったらテコでも動かない。誰が言っても無駄。光輝のご両親や凄く怖いので有名なおじじ様でも駄目だったのを私は知ってる。

 私を離さない理由はともかく、心臓が過剰運転しすぎて頭がくらくらするから一旦離して欲しいんだけど。


 「ねえ光輝、ちょっとだけでいいから。こういうの慣れてないから心臓がもたないよ……」


 私が言ってることを確かめる様に顎を捉え上を向かされる。きっと顔は真っ赤になっているだろうけれど、本当だとわかってもらう為に我慢した。間近で目線を合わせた顔は色彩が違うだけで、とても光輝によく似ている。射抜くみたいに鋭い視線はヴィーではなく光輝のものだろう。時間にしたら一分に満たないに違いないが、私にはとても長く感じた。


 だって、ヴィーも光輝も俳優ばりの美形男子なんだよ?それに呼吸を感じる距離でガン見される私の立場になって欲しい。身じろぎ一つ出来ず、ただ光輝が納得するのを円周率を頭で考えても耐えた私は偉いと思う。


 「……本当に少しだけだぞ。すぐこの態勢に戻す、いいな?」

 光輝さん?何故そんなにこの態勢にこだわる?まあ、一旦離してくれるだけマシか。下手に何か言うと却下されそうだし黙っておこう。

 「この態勢にこだわってて悪かったな。……お前はこの態勢に何も感じないのか?」

 ……光輝もかっ!何も言ってないのに心を読むなっ!

 「心を読むまでもなく、顔に出てる。王太子宮でもクレメンティーヌの表情が出る様になったと侍女達が騒いでたぞ」

 「えっ?マジで?クレメンティーヌの評判下がっちゃった?」

 「いや、むしろ上がった。時々出る表情が愛らしくてたまらない、と言った類のものだからな」

 「それは上がったの?クレメンティーヌらしさからは程遠いのでは?」

 「そんなことより、下りなくていいのか?いいなら、このまま帰るぞ?」

 「っ!下りる、下ります、下ろして下さい!」


 渋々といった様子で私を隣に下ろす光輝。

 だけど何やら葛藤があるらしく、腰にまわした手は外さない。顔を見上げるときまりが悪いのか窓の外を見る振りをして顔を背ける。まあ、ある程度はこちらも妥協しないといけないかな。

 膝の上から下り、適度な距離を置いた私は心を落ち着かせようと深呼吸する。光輝やヴィーの顔はある意味兇器だ。さっきの心拍数は半端なかった。死んで転移したのに、また天国へ逆戻りするところだった。危なかった。


 「……いつ、気付いたの?」

 「お前が王太子宮に来た次の日」

 「何で私だって思ったの?」

 「あの時倒れた身体から半透明のくれはが出てきた」

 「何それ?他の人も見たの?」

 「いや、他の人には見えてないみたいだった」

 王太子宮の使用人は信頼度が高いとは言ってもソフィア程信頼出来ないし、する訳にはいかない。一つの小さな出来事が、クレメンティーヌのこれまで必死に築いてきた立場を呆気なく壊す可能性があるのだから、慎重にしなければならない。


 「……どうして今まで聞かなかったの?」

 「最初は俺もこの状況に戸惑ってた。だけど慣れてからはくれはの心身が万全になるまで待つつもりだった」

 「じゃあ、何故今?」

 「それは……理由は二つある」

 「二つ?何よ?」

 「お前……クレメンティーヌ嬢の振りをやめたらえらく違わないか?」

 「当たり前でしょ?此処には誰の目もないんだもん。完璧なクレメンティーヌを演るのって大変なんだよ?」

 「いやそれはわかるけど、此処に俺の目があると思うんだけど、それはいいのか?」

 「光輝に猫かぶってどうすんの。光輝は本当の私を知ってるのに。まさか猫被ったまま話すのをご所望ですか?王太子殿下様?」

 「………………はあ、もういい。何だよ、本当のくれはを知ってるとか、素で俺の胸をぶち抜いておいて無自覚だとか。先が思いやられる」

 「何ぶつぶつ言ってるのよ。早く理由を教えて」

 「はいはい、俺のお姫様は気が短いな」


 気安い会話はいつ振りだろうか。完全に交流を断った訳ではないけれど、独りで立てるまではと離れていたから。少しだけ『王子』の仮面の力を借りないと、普通になんて話せやしない。それでも内心は此処に、傍にいるのは光輝なんだと思うだけで嬉しくてたまらない。光輝らしい話し方や仕草が私の胸で凍っていた蕾を溶かしていく。

 前世では花開くこと無かった私の宝物。

 誰にも知られないよう、自分ですら騙し凍らせた。それでも枯れること無く今この時まであるなんて。


 ……思ってるより私は執念深いらしい。

 それを誇らしく思う自分に辟易するけれど今は置いておこう。今は光輝の『理由』を聞かなくては。ううん、違う。私が(・・)聞きたいから。


 期待と、もどかしさと恥ずかしさが入り混じった混沌とした私は催促すべく真っ直ぐ光輝を見たのだった。



 次回の投稿は2/4(木)です。

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