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 な、何とかネガティブ回終わりました。

 次回、また砂糖投入出来るといいのですが。



 壊れた瞬間だけ、はっきり覚えている。


 「あんたがいなければ!あんたさえ消えたら私は幸せになれるの!全部ぜんぶ!あんたが悪いのよ!!」


 普段は大人しい彼女の何処にこんな激情が眠っていたのか。想像すら出来ない程の憎悪が籠もった叫びは、すでにひび割れて崩壊寸前だった私の心に対して、最後の一撃となるには十分過ぎる程の苛烈さを持っていた。


 私の存在そのものを全否定する言葉の刃。


 きっとそれを言った彼女は刃をふるったなど思ってもいない。例え理解したとしても後悔も反省もしなかっただろう。子供とは残酷なまでに自分の欲求に素直で、その欲求の為に他者を踏みにじる事に大人程、罪悪感を感じず周りの目も気にしないのだから。ただ己の欲求を叶える為の過程にすぎない。


 『弱肉強食』、子供の世界はこの言葉に尽きる。

 彼女は強者で私は弱者、ただそれだけだったのだ。


 居心地の良い優しい場所で、生きる上で必要な心の強さを身につける事をしなかった私の過失だ。集団に属する以上、何かしらの諍いはあり、それを対処する術を学ぶのは当然の事だ。仔猫でも身を守る為に小さな爪をたてるのに私はそれすらしなかったのだから。誰かが助けてくれるのを何もせず待つだけになっていた私が壊れたのは必然だった。


 彼女の言葉を最後に私の意識は外界から遮断した。


 ぼんやりと覚えているのはとぎれとぎれに繋がった外界の場面。それは全然足りないパズルのピースの様で今でも思い出す事は出来ない。哀しそうな両親の顔、窓の外に見えた桜、何かを話しかける幼馴染、腕に付いてたチューブ……そして痛いくらいに手を握る光輝。


 外界との交わりが完全に断ち切れなかったのは、きっと光輝いたから。


 幼すぎて、当たり前で意識すらしなかった。

 いつでも一緒にいて、それが失われる事があるなんて欠片も思わなかった。


 私の好きなものは光輝にあげたかった。素敵な事は光輝教えたかった。悲しい時は光輝と居たかった。光輝の笑顔を見ると私は幸せになれた。

 だから、光輝もそうなんだと思っていた。

 

 知らなかった。

 光輝があんなに沢山の人達から好かれているなんて。 

 光輝がとても素晴らしく輝く存在だったなんて。

 

 私が光輝の隣を独り占めしてはいけないのだと、私は知らなかった。


 だけど……その事実を理解しても、私が光輝に見合う何かを持っていなくても、私は光輝の隣を誰にも譲る事は出来なかった。ううん、したくなかった。弱くて何も出来なくても、何も持っていなくても光輝の隣を歩く事だけは止められなかった。


 ……彼女は光輝が好きだったんだと思う。

 何の取り柄もない私が光輝を独占していた事が大人しく優しかった彼女を豹変させた。きっと彼女もわかっていたはず。私を排除しても幸せになどなれないって。それでも、そう言わずにいられない程、光輝が好きだったんだろう。そんな風に光輝を慕う沢山の人に、恨まれ傷付けられても背筋を伸ばして立っていられるだけの強さが私には無かった。


 だから。

 意識がはっきりした時、決意した。

 独りで立てるまで光輝から離れよう、と。


 だけど、現実は甘くはなかった。

 ありのままの私の心は柔く、容易く傷付く。強くなるまで心を守る必要があった。そうして『王子』は生まれた。私の求める理想の自分になれるまで『王子』として振舞う。『王子』もまた私の理想の一面でもあった。


 『王子』と言う仮面を被っていて、その時受けるダメージは無いのだと自分に言い聞かせた。心がじくじくと痛む時も意思の力で抑え込み、少しずつ少しずつ心を鍛えた。今まで守られてばかりだったから、身体も鍛えた。言いたい事も恐れず言い、時には喧嘩だってした。自分の中に眠っていたらしい正義感とか義理人情的な事も出していく。


 心と身体が軽くなっていく。

 重く纏わり付いていたどろどろした何かが剥がれ、内側から風が吹いているみたいに。自由に、思うがままに振舞うというのはこんなに清々しいのかと驚いた。このまま頑張って、いつか『王子』の仮面を外そう。そうして、以前とは変わってしまったかもしれないけれど、くれはとして光輝の隣に居たいと言おう。その時は駄目だと言われても食い下がれる位の根性もついているに違いない……なんて事を考えていた時に事故にあったのだ。


 だから。

 今、ヴィーの中に光輝が居るのだと確信出来て嬉しくない訳がない。いや、むしろややこしい環境が無くなってフラットになったのだから、やりやすいのでは?


 ……っは、だ、駄目だ!

 この身体はクレメンティーヌのものだ。私の私利私欲で自由にしちゃいけない。


 えっ?

 そ、それは……。

 い、いや、クレメンティーヌさん?

 う、ゔゔ、そ、そうですね。私もそうかもとは思ってたけれど、クレメンティーヌもそう思う?

 

 そう。

 私とクレメンティーヌは徐々に一つになりつつある。感情や記憶の境目が曖昧になってきていて、今感じているのはどちらのものなのかもはっきりしない。このままでいけば後何ヶ月もしないうちに一緒になるのだと思う。


 ……クレメンティーヌごめん!

 一度だけでいい。くれはとして光輝に告げたい事があるの。きっと光輝もヴィーも誰にも言ったりしないと思う。クレメンティーヌの立場を悪くしたりしないか……。


 は、はい、ごめんなさい。

 い、いや、クレメンティーヌってば怒らないでよ。

 わ、わかりました!不肖くれは、玉砕覚悟で特攻します!


 へっ?

 光輝が断ったら、クレメンティーヌが成敗するって?

 ああ、そっちもありそう。

 ソフィアも怒ると怖いからねぇ……って、いや、光輝にだって選ぶ権利があるからね?


 ……まあ玉砕したら、う〜んと慰めて甘やかしてよ。

 実を言うとクレメンティーヌとソフィアに甘やかされるの、かなり好きなんだよね。


 うん、最初で最後のくれはの想い。

 私でなくなる前に光輝に言うね。


 この世界に来て良かったよ。

 

 


 


 


 





 次回の投稿は少し空いて1/28(木)です。

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