表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/78

 38



 な、難産でした。

 甘々からのネガティブ……。

 苦手な方はご遠慮下さい。

 次回も続きます。



 あれよあれよと馬車に押し込められた私は、現在何故かヴィーの、いや光輝の膝の上にいる。


 いや本当にもう流れる様に引き寄せられ、抵抗する暇なく膝の上に座らせられた。馬車に乗る前の衝撃的な発言からお互い一言も発する事が出来ないでいるのに、光輝の腕は私を包み込むのを止めない。


 それに距離が近過ぎてお互いの息遣いや鼓動まで伝わってしまう。そう、お互い(・・・)のだ。光輝の鼓動も私と変わらない位忙しく大きい。


 これって光輝も私が好きって事なんだよね?

 そう思うと私の胸の鼓動は更に加速しだして、私は息苦しさを感じた。



 前世の幼い頃、小さな優しい箱庭で悪意や害意とは無縁で育った私は世界を知らない無知な子供だった。夢で編まれた揺り籠は大人よりも残酷な子供によって呆気なく粉々にされた。でも今思えばそれまでの環境が恵まれていただけで現実はそんなに甘くはない。ある意味、コミュニティに属する為の通過儀礼とも言えるだろう。だけど悪意や害意を知らず育った私の心はそれに耐えられなかったのだ。


 幼馴染の4人と私は親が友達で家族ぐるみでの付き合いで物心ついた時には皆と一緒にいた。

 女のコが私一人だったのと私の母(見た目は小動物、中身は漢前)が彼等の庇護対象だったのが重なってか、彼等の両親……特にお母さん達は私を可愛がってくれた。自分の息子達が私に何かしようものなら容赦無い鉄拳制裁をする位に。

 その教育の賜物なのか私の幼馴染達は非常に優しい友人に成長していく。そしてそれが当たり前のぬるま湯の中しか知らない私は、幼馴染の彼等が幼くても沢山の人を魅了する存在だと認識していなかった。

 幼い内はそれで何の問題も無かった。私達の関係は私達たけで構成されていたから。

 

 問題が浮き上がってきたのは幼稚舎に入園してからだった。


 そう、彼等は非常にモテたのだ。

 それこそ老若男女問わず。

 その彼等が囲む様に守る私は彼等を欲しがる人達の邪魔者だったのだ。

 

 入園したての頃は子供達も開け透けに私に意地悪を言ったり、したりした。それを受け私がベソをかく度に幼馴染達は相手に徹底的に報復し、二度と側に近寄らせなかった。

 しかし、子供とて学習する。

 彼等はやり方を変え、幼馴染達に隠れて意地悪をした。そして誰がしたかを幼馴染達や大人に告げれば、もっと酷い事をすると脅した。悪意や害意と無縁だった私は暴力やその言葉に抗う術がわからず、言われた通りにした。

 だけど身体のキズや私の怯えた様子に、幼馴染達はすぐに気付いて隠れて行われる意地悪の現場を抑え大人を巻き込む大事にした。私の両親も大層怒っていたが、それより幼馴染達の親の怒りは凄まじかった。幼馴染達の両親は全員、各分野で名を馳せている上、実家も影響力の大きい名家だったのもあり、私に意地悪をした子供は漏れなく幼稚舎を去らねばならなかった。

 だが、それは私の立場を更に悪くしてしまった。


 私は私の持てる力で解決すべきだったのだ。

 力がなければ努力し、自らの力を持つべきだったのだ。


 私への悪意や害意は以前より大きく酷くなった。


 幼馴染以外誰一人、私に話しかけない、教師ですら。

 そんな異常な状態を生む程に。

 だけど元々私達の関係は私達で完成していた為、それに何の問題も感じなかった。

 だから……。


 水面下で膨れ上がる私への悪意に私も幼馴染達も気付かなかったのだ。


 大学まである附属の幼稚舎から小学校に上がっても、顔ぶれはほぼ変わらない。そしてそれは膨れ上がった私への悪意もそのままだという事。いや知恵が付いた分、悪質さを増していた。


 そして事は起こる。


 些細な事だった。だけど、毎日少しずつ行われる偶然に見せかけた小さな悪意は私の中に確実に蓄積されていった。小さな針の傷も広範囲になればダメージは大きい。私は気付けば消しゴムが落ちる音や教科書を捲る音にさえ身体が反応してしまう程に神経質になっていた。

 一つ一つは些細な事なのだ。

 それを意地悪だと悪意だと断定出来る程の証拠もなく、更には教師すら相手の手中にある。

 幼馴染以外に仲の良い友人もいない私には、客観的に状況を理解する要素も入手出来なかった。


 だけど幼馴染達には言えない。

 言えば、また幼稚舎の様になるかもしれない。

 幼稚舎を去らねばならなくなった子達の、あの憎悪に塗れた瞳を思い出すと成長した今でも悪寒がする。

 それに……。


 私はやっと気付いたのだ。

 自分の居る場所がどれだけ特別な場所なのかに。


 幼馴染達のスペックはかなり高い。

 まだ小学生でありながら容姿端麗で頭脳明晰な上、身体能力も申し分無い。さらには各々に特化した技能があり将来が有望な人物なのだ。


 私が独占していい訳ない。皆、幼馴染達に近付きたくて仕方ないのに。周りからしたら、ハイスペックな男の子を侍らすビッチだろう。だって私は彼女達を納得させ黙らせる程の何も持ってないのだから。


 そんな私の卑屈な考えと過去のトラウマが、幼馴染達や大人に助けを求めさせなかった。

 

 自分がどれだけ弱く、そして弱さ故に自分が傷付けば、どれだけ周りを悲しませるかなど全くわかっていなかったのだ。


 

 そして弱い私は呆気なく壊れてしまった。

 





 次回の投稿は1/24(日)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ