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 とうとう登場です!?



 「ヴィー、ヴィー!」

 「何、どうかした?」


 腰をホールドされたままずるずるとその場を後にした私は、はっとしてヴィーを止める。


 「プレザント公爵様をあのままにして大丈夫でしょうか」

 「いいに決まってるさ。大体こんな所まで押し掛けて来る方が悪い。どこで情報が漏れたか精査する必要があるけれどね」


 いや、そういう問題ではなくて。


 「そんな事より、クレイは後でお仕置きだね?わかってる?」

 「お、お仕置き?」

 「そう、お仕置き」

 「何故ですか?」

 「何故?それは私がクレイに怒っているからだね」

 

 はい?

 さっき私ほとんど喋ってないし、何もしてませんが?


 「はああ〜、クレイ鈍い、鈍過ぎる!さっきヒント、って言うかほとんど答えをあげたんだけど?」

 「………………わかりません」


 そんなジト目で見られても本当にわかんないんだってば!

 

 「さっきプレザント伯爵令嬢が現れた時、何を思った?」

 「うっ、それは……」

 「私の心を疑ったよね?」

 真顔で紡がれた言葉はその通りだったから、咄嗟に返せない。

 

 「クレイ、まだ足りない?どうしたら私を信じてくれる?私の心が君に見えればいいのに」


 憂いを含んだ溜息をつくヴィーは色気に溢れていて直視出来ないくらいだった。

 この完璧な美少女のクレメンティーヌより美しいかもしれない。


 「クレイ、何度でも君に請うよ。私は君が欲しい。君しかいらないんだ」

 王太子宮に滞在している間に、気が付けば愛を囁くようになっていた。

 それにいつの間にか私は慣らされていて、愛を囁くヴィーを当たり前に受け入れる様になっていた。

 

 ……慣れとは怖いものである。


 「ヴィー、その疑ったというか……」

 「いつもなら許してあげるところだけど今日は駄目だ。悪いと思うのなら相応の償いをして欲しい」

 「償い……ですか?文書にするとか、罰金とか?」

 「何でそっち方面にいくのかな。今の流れだと違うよね?……まさかわざとか?いや、クレイだからなぁ」


 ぶつぶつ呟くヴィーを見ながら思う。

 何をしても、どんな格好でも輝く光を放って見る者を引き寄せる。

 それは光輝も同じだった。

 二人とも容姿もさる事ながら、人を魅了するところまでよく似ている。

 ヴィーにしろ、光輝にしろ決して聖人君子ではない。

 どちらかというと腹黒の部類に入ると思う。

 それに敵とみなした相手には容赦もない。

 そんな冷酷なところでさえ女性には魅力的に映るのだから質が悪い。

 

 ……一歩間違えれば、ただの女誑しではないだろうか。


 「クレ〜イ?また、よからぬ事を考えたね?」


 それに人の心を読むなんて!

 くれは、考え直すなら今だ!

 クレメンティーヌもそう思うよね?

 っっ!!

 ねえって、何で答えてくれないの!


 ぎゅっ、と痛くないけれど逃げられない力が私を包んだ。

 逃げられないとわかるのは、それだけこの腕に抱き締められ知ってるからだ。


 …………やっぱり慣れって恐ろしい。


 「はあ、戻ってきた?クレイは思考の渦に沈むと禄な事考えないんだね。うん、そうだ。罰はこれにしよう。クレイ、今日が終わるまで何処か一箇所でも私に触れている事、それが罰だよ」

 「は?そ、そんな事嫌です!」

 「君に拒否権は無いよ。仮にも王太子の言を疑ったんたからね?処罰としては軽いでしょ?」

 「プ、プライベートだと言ってたではないですか!」

 「王太子にプライベートなら何をしても良いと?」

 「い、いえ、そういう訳ではありませんが……」

 「だよね?たった一日だよ、今はもう昼過ぎだし後半日?すぐ終わるよ。ああ!言い忘れたけどクレイ、君が自主的に私に触れてね。もう一度言うけど否は無しだからね」

 「ヴ、ヴィー、あんまりです。他のことでは……」

 「否は、無しだ」


 にっこり微笑んだ麗しの王太子様の瞳は笑ってなくて、こういう時のヴィーは何を言っても聞く耳を持たないのもここ最近で学習した私は大きく長い溜息をついたのだった。


 「……手を出して下さいませ」

 「はい、どうぞ、私のお姫様」


 渋々ながらヴィーの手を掴んだ私は最後のあがきをした。

 掴んだヴィーの手の袖を摘み、手は離す。

 ぽかんとするヴィーに私は内心ほくそ笑む。

 ふんっ!

 黙って素直に従うと思った?


 勝ち誇った様にヴィーを見遣ると我に返ったらしいヴィーが、それはそれは綺麗に笑った。

 さっきプレザント公爵に向けた微笑みよりも美しく冷たい微笑みで。


 「クレイ、覚えておくといいよ。恋する男は煽られると燃えるという事を。そして、その焔はきっと火傷する位、とてもとても熱いって事をね」

 そう言い終わる前に手を繋がれる。

 今までに一度もした事の無い繋ぎ方。

 前世で言うところの『恋人繋ぎ』という、指と指の間に互いの指を絡める手汗必至のあの繋ぎ方で。

 更には先程よりも身体を密着させて腰を引き寄せられた。


 な、何!

 こんな抱き締められ方知らない!

 ヴィーの見た目にはわからない逞しく筋肉質な身体の形まで感じる程抱き締められた事は初めてで……彼の鼓動や息遣いまで感じる事に私は混乱した。


 「あ、あ、ヴ、ヴィ……」

 「君が、悪い。私は何時だってこうしていたいのを我慢しているのに。君を私の腕の中に、いや、誰にも見られないように閉じ込めてしまいたいのを我慢してるんだ。そんな私を煽った君が悪いんだよ?」

 「そ、そんなつもりは……」

 「今日は優しくしてあげられない。……馬車を此処に、宮に帰る」


 何処から出てきたのか護衛の騎士達が慌ただしく動くのを、ヴィーの腕の中からぼおっと見る。

 頭は恥ずかしさで沸騰して動かないけれど、胸の鼓動はいつになく忙しく速くて苦しい。

 私を抱き締めているヴィーにはきっと伝わってるに違いない。


 「クレイ、悪いけれど予定変更だ。宮で話をしよう。……俺だって我慢したくないんだよ、くれは」

 「光輝……」



 初めて確信出来た光輝の言動は、何故か切羽つまっていて苦しそうだった。

 

 

 

 

 

 



 次回の投稿は1/16(土)です。

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