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 あけましておめでとうございます。

 今年も暇つぶしにも読んで頂けたら幸いです。


 


 

 ソフィアの機転により、何とか自室のプライベートを確保し始まった王宮生活は思ったよりも快適だった。

 過保護のヴィーに負けず劣らず王太子宮の皆も私に優しく、今までクレメンティーヌが必死に牽制してきた他の貴族達とのやり取りも一変した。


 まず極最低の社交しかしなくて良くなった。

 ヴィーとマルリード侍女長が厳選したものにだけ、しかも必ずヴィーかマルリード侍女長が同伴したから、誰も私に何も出来ない。

 嫌味一つ言う事すら出来なくなった。

 ヴィーは言わずもがな、マルリード侍女長も王家の信頼が厚い人物なので下手につつけば大問題となる。

 その二人がぴったりと私に張り付いているので、散々煩わされた貴族同士の争いに巻き込まれる事が無くなかったのだ。


 私が転移してからはなかったけれどクレメンティーヌの記憶にあるものは陰惨なものだった。

 いずれは私がそれに対応しなければならないのかと憂鬱だったものはあっさりと解決した。

 うん、恐るべし王家の権力。

 まあ貴族なんてものは権力の流れる方に容易く舵取りをするのは当たり前だし、王家があからさまに私、フォレスター公爵家を擁護してるのを見れば掌を返さない訳にいかないだろう。

 マルリード侍女長が私の側にいることで王太子のみならず王妃、ひいては国王が背後に付いているのではと勘繰ったに違いない。

 事実、国王や王妃は幼い頃からクレメンティーヌを可愛がっていたのだけれど、それをかさに着るのをクレメンティーヌが嫌がった為にあまり周知されていなかった。

 だけど今回クレメンティーヌが倒れ、王太子宮に滞在するにあたりヴィーがどうお二人に説明したのか、酷く心配された結果マルリード侍女長の随行となったのだ。

 クレメンティーヌの身体や精神状態を優先する故なので、今までの努力が無駄になると思うかもしれないが受け入れて欲しいとのお言葉まで頂いた。

 クレメンティーヌ自体は自分の状態が周囲にそこまで心配させる程なのだと初めて理解したらしく、すんなりと受け入れた。


 私自身、クレメンティーヌの身体を乗っ取っているにも関わらず健康を維持出来なかった事を反省したし、ヴィーの提案はクレメンティーヌに年相応の様々な楽しみを知る良い機会だとも思う。

 それにヴィーは実に優秀だった。

 クレメンティーヌも優秀だけど方向性が違う。

 人の心の機微に敏感で、相手が重荷にならない絶妙な匙加減であれこれしてくる。

 相手の不快に感じる上限や触れて良い限界を見極めつつ、少しずつ懐に入ってくるのだ。

 それはまるで懐かない野良猫を手懐けるのに似ているかもしれない。

 気が付けばヴィーが側にいることが私にとって極当然の日常になっていたのだから。


 クレメンティーヌが以前過ごしてきた日常とは違い、クレメンティーヌの足りない箇所のみの学習と鍛錬にした結果、殆どする事が無くなった。

 空いた時間をヴィーの空き時間と調整し、レベルアップの為ダンジョン攻略に行った。

 その帰りにドロップした宝物の中で必要の無いものを換金し、そのお金で食事したり買い物をしたりした。

 公爵令嬢として与えられる高価な物ではないけれど私もクレメンティーヌもとても満足していた。

 ヴィーは共に行動しても何かを強要したり貶したりする事は一度も無く、私もクレメンティーヌもヴィーといる事にいつの間にか慣れてしまっていた。

 

 真綿にくるまれる様にヴィーに守られている事に気付いたのは、そんな時だった。


 「これはこれは殿下ではございませんか、ご機嫌麗しゅう」

 慇懃に共にいる私には視線一つくれずヴィーにのみ挨拶をしたのはアレグロ・プレザント公爵。

 彼はこの国にある公爵家当主の中では最高齢。

 前国王時代から公爵位にあり現在もそうなのはこのプレザント公爵だけだ。

 野心家で権力に固執する余り、跡取りである自分の息子ですら信用せず公爵位を譲渡しないのは有名だ。

 周りが息子や婿に全権を譲り引退してしまっても頑として地位に執着する様子は異常な程だが、前国王時代の功績もあり国王も引退を口に出せずに今に至る。

 お金や権力に繋がらない事には一切興味を持たない彼がこんな街中にいるということは、ヴィーが此処にいるとわかった上での事だろう。


 「プレザント公爵、こんな所で会うなど奇遇だな」

 いつの間にか王太子仕様のヴィーを見ると違和感を感じる様になってしまった。

 私の前では王太子というよりは時々悪戯をしたり、私の反応に一喜一憂するただの男の子の面が多い。

 だけど、いざという時は間違いなく頼りになるそんな人。

 今は殆ど出ない社交の場で見る王太子然としたヴィーと接する時は私も令嬢モードだったから気にしてなかった。

 そうだ、ヴィーはこの国唯一の王太子だ。

 常に私やクレメンティーヌを優しく気遣うこの人は誰もが憧れる素晴らしい男性で、何もかもを手に入れることが出来る人。


 そして……私ではない誰かを選ぶかもしれない人。


 そんな一番大事な事さえ忘れてしまう程、私はヴィーに守られて甘やかされてきたんだ。

 それをプレザント公爵が気付かせた。


 「ほっほっ、まさに運命やもしれませぬな。ほれ、挨拶しなさい」


 彼の言葉と共に彼の後ろから現れた輝く金色の髪に見る者を魅了せずにはいられない美しい蒼い瞳の少女を見て私はそう思った。


 「輝く王太子殿下にご挨拶致します。プレザント伯爵家が娘のアマリア・プレザントでごさいます」


 恋金のヒロイン、アマリアを見て。



 



 次回の投稿は1/8(金)です。

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