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 ……すみません、私の物語に神様は必需品(?)なのです!



 心が闇に沈み身体から力が抜けていき深く底知れない何かにずぶずぶと呑み込まれそうになった時、眩くでも温かく優しさに満ちた光が差し込んだ。

 それは私の周りを照らし全ての黒いものを吹き飛ばした。

 そして聞こえた声はずっとずっと求めていた彼のものだった。

 切実な痛みと哀しみを含んだ声は私の心を揺さぶる。

 悲しまないで。

 苦しまないで。

 何も彼は悪くない。

 なのにいつだって彼は自分を責めていた。

 私が側にいるから?

 だから彼は苦しみ悲しむの?

 彼が苦しむのなら彼から離れよう。

 彼には笑っていて欲しいから。

 そう決心した私の心は痛み悲鳴をあげたけれど、そんな痛みよりも彼の方が大事だった。

 だけど彼を好きだと想う気持ちを捨て側から離れることの心の痛みや悲鳴を我慢しながら生きるには私は弱かった。


 だから私は私ではない誰かになろうと思った。

 私ではない誰かの仮面を付ける事で痛みと悲鳴を誤魔化し日常を過ごすのは楽だった。

 でも自分の中にあるものを見ない振りをするのが上手くなって流れに身を任せていると『私』がわからなくなり、今この瞬間生きているのが誰なのかすら認識出来なっていった。


 此処にいるのは誰?

 私?それとも王子と呼ばれる少女?


 私という自我を押し殺し王子として少女達の求めるものに応えていけばいくほど曖昧になっていく日常。

 このままではいけないと自分を保つ為の期限とルールを決めた。

 この街を離れる時、王子の仮面を脱ぎ捨て私を解放する。

 そして少女達の求める理想だけでなく私が大切にするものを捨てずにいる事。

 それを決めた私は一縷の希望に全てを託し、全力で王子に徹したのだ。


 多分少女達を騙せる位は上手に演じていたのだろう。

 でも家族や彼を含む幼馴染には隠しきれなかった。

 家族は今まで以上に家で私を甘やかした。

 私の心が疲弊すると温かく抱き締め優しく撫でてくれた。

 私は器用な方で無かったから家族の前でも王子の仮面を外せなかった。

 一度外してしまえば外で外れてしまう可能性が大きかったから。

 だから申し訳無いと思いながらも家族の愛情を受け入れた。

 私からは何も返さず……家族の愛情に甘えたのだ。

 それは私が私を保つ為に必要だった。


 ただ何かつれ構ってくる幼馴染を無下にするのは心が傷んだ。

 けれど幼かった私には思い付ける事も取れる手段も少なかった。

 今思えばその時独りで悩まず、周りの大人や幼馴染に打ち明け助力を得た方がもっと良い方法があっただろう。

 だけどその当時の私は精神的に弱っていたせいか、かなりネガティブで視野も狭く後ろ向きだった。

 私の頑なな態度に愛想を尽かさず一定の距離を置きながらも常に気遣ってくれる幼馴染に、表面上は冷たい態度を取りながらも内心は深い安堵を覚えていた。


 私を見捨てないで。

 本当の私を忘れないで。


 そんな奇妙な日常は歪んで泥の様に全身に絡みつく。

 心は何とか保っていただけで、きっとほんの些細な事で砕けてしまう位に壊れかけていた。

 心の膿は溜まり続け腐り落ちようとしている事にも気付いていなかった。


 あのバスが落ちる瞬間、理解した。

 心はもうすでに壊れていたのだと。

 だって私は死を歓喜とともに受け入れたから。

 一瞬たりとも死に抗う事も生に執着する事も無かったから。

 ただ悲しかったのは彼までも死んでしまうという事だけ。


 最期の最期まで私を包んでくれた優しさと温かさは決して間違えたり忘れることなど無い。

 だから……。


 ヴィーの中に光輝がいるのは間違いない。


 光輝。

 くれはの人生で最も大切で愛しい存在。

 だけど再び会えて嬉しいと思う反面、私は心が痛かった。

 どうしてですか、神様。

 何故こんな状態で彼に会わせるのですか?

 私はクレメンティーヌで彼はヴィーというこの状態で。

 神様は私達を一体どうしたいのですか?

 私達がこの異世界に飛ばされたのに、私がクレメンティーヌである事に、彼がヴィーである事に何の意図があるのですか?


 答えてくれる相手では無いのをわかっていても問わずにはいられなかった。

 

 『そなたの思う様に生きなさい。そなたが望むが我が望む事。そなたが前世で出来なかったそなたらしい生き方をすれば良い。そなたは我の愛し子、加護を授けし者。いつ如何なる時もそなたの事を見守っている』


 へ?

 頭の中に響く声はいつものクレメンティーヌのものでは無くて、今この場に平伏しそうな程の畏怖があるものだった。

 も、もしかして神様?


 『……そなたが我に問うたのではないか。故に答えたのだが何故疑う?』


 ひっ!マジ神様?

 えっ?神様って本当にいるの?

 いやいやいや、有り得ない。

 ん?でも私の状況自体有り得ない事なんだから神様がいる事も有り得るのか?


 『……まあ、また相見える事もあろう。とにかく固く考えず思うままにすれば良い。クレメンティーヌとてそう言うておろう?』


 ……神様について考えるだけ無駄だし、聞きたい事聞こう。

 っていうか、これが1番大事な事だ。


 『問わずとも良い。そなたはクレメンティーヌであり、クレメンティーヌはそなただ。彼等も然り。いずれ時が経てば自ずと理解するであろう。この世界はそなたの世界のゲームと似ているが異なる世界。この世界での魔法や剣、スキルなどは同じだが未来は違う。各々が試練の時に選択する事で未来は幾通りにも変化する。決められた未来など無い。そなたとクレメンティーヌの未来も同じ事。自ら望む場所へと辿り着けるかは全て本人次第。……ただそなたは我の愛し子である故少しばかりチートではあるがな』


 あっ、そうなんだ。

 ん?待て、待て待て待て!!

 今最後に何て言った?

 余りの衝撃発言に畏怖やら何やらは遠く彼方に飛んで行った。


 『……我の降臨は世界に影響を及ぼす。またいずれ』


 えっ?

 ちょっと!言い逃げ?言い逃げするの?

 チートって、何なのよー!!


 叫べど答えは無く、さっきの神々しい雰囲気も綺麗さっぱり無くなっている。

 ちっ、逃げ足の早い神様だ。

 でもまあ聞きたい事は聞けたから良しとしよう。

 ……………?

 うん?

 え?

 はあ?


 私はクレメンティーヌでクレメンティーヌは私?

 どういう事なのよー!?


 



 



 次回の投稿は12/20(日)です。

 来週から年明け一週間は3日おきか4日おきの投稿になります。

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