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ちゃららら〜ん!
くれはのパーティに仲間が加わった!
「おはようございます、クレメンティーヌお嬢様」
そう言って部屋に入ってきたのは昨日の侍女ソフィアだった。
繊細な刺繍が朝日に透けて美しいローズピンクのカーテンを素早く纏めていく手際だけでも彼女が優秀なのが良くわかる。
流石悪役令嬢クレメンティーヌの腹心だと納得がいく。
恋金のクレメンティーヌのスペックは全ての女性キャラの中で群を抜いていた。
そのクレメンティーヌの腹心が凡庸などあり得ない。
それは今後の悪役令嬢ではないクレメンティーヌにも必要なことだ。
ゲーム開始は学園入学式だけど、今クレメンティーヌは奇しくも私の享年と同じ15歳。
学園入学まで後暫く猶予がある。
それまでに打てる手は打っておきたいし、自由に動けない公爵令嬢のクレメンティーヌの手足となって動いてくれる、裏切らない優秀な味方がいてくれるは非常に心強い。
「お嬢様、本日のご予定に殿下とのお茶会がございます。ドレスは如何いたしますか?」
何ですと?
いきなり攻略対象とのご対面ですか?
乙女ゲームで顔と性格は把握してるけど、公爵令嬢として会うのは想定外。
……やばい、作法とか大丈夫なのだろうか?
クレメンティーヌの身体と記憶が何とかしてくれる?
暫く様子見て、駄目そうなら仮病でやり過ごそう。
とにかく今はドレスか。
「ソフィアに任せるわ」
「本日はお天気も良いので淡いグリーンのものが良いかと」
「装飾品も全てソフィア、貴女に任せます」
「かしこまりました」
どうやらこれで何とかなりそう。
ソフィア、偉い。これからもこの調子で頼みます。
クレメンティーヌも偉い、こんなに優秀な侍女を持つなんて。
心の中で合掌し、拝んでおく。
隣接した衣装部屋からてきぱきとドレスや靴、装飾品を運んできたソフィアは、流れるように私を飾っていく。
気が付けば全てを身に着け、可愛らしくハーフアップに結われた髪に飾りを付けるところだった。
全身が映る大きな姿見の前に促され見たクレメンティーヌは溜息が出るほど美しかった。
癖の無い艶のある黒の髪はハーフアップにされ、すっきりしている。
意思の強そうな大きな瞳は紫がかった蒼。
宝石のようにきらきらと輝き、見る方向で色が変わる。
抜けるような白い肌はきめ細かく、すべすべだ。
小さな唇は口紅など必要ないほどの桜色でぷるんとしている。
ねえ、王太子様。
これだけの美少女なクレメンティーヌの何処に不満があるって言うのよ。
くびれのある細い腰も、歳より発達した豊かな胸(羨まけしからん!)も文句のつけようが無いでしょうに。
女の装いと化粧は武装だって何かの本で読んだ事がある。
クレメンティーヌの完全武装を目にした私は益々闘志が湧いてきて、昨日の決意を新たにした。
けど本当に美少女。
くれはがお目にかかった女の子の中でもダントツ。
昨日も思ったけど、これだけ美少女なら攻略対象の王太子に拘らなければ絶対幸せな恋が出来る。
……ってか、私大丈夫だろうか?
こんな美少女の評価は私の一挙手一投足にかかるんだよね?
…………ヤバい、ヤバすぎる。
全く自信ないんだけど。
えっ?好きにしていいって?
いや、駄目でしょ。
貴族令嬢なんてよくわかんないけど、クレメンティーヌは今まで大好きなお菓子さえ我慢して頑張ってきたんでしょ?
それを私が台無しにするのは、私が許せない。
しかし、そうは言っても脳内の会話だけだと心許ないんだよね。
…………。
ふふっ、クレメンティーヌもそう思う?
なら遠慮なく巻き込もう。
彼女なら全部話しても大丈夫そうだしね。
私は彼女を呼ぶベルを手に取った。
◇◇◇◇◇◇
「……おおまかには理解出来たと思います。ただ、クレハ様の世界の事で、詳しくお聞きしなければならない点がいくつかございますが」
流石、クレメンティーヌの腹心侍女。
理解が早くて助かる。
「もちろん!わからないこととかその都度聞いてくれたらいいよ」
「……まず最初に確認させて頂きたいのですが、クレメンティーヌ様がいなくなったわけではないのですね?」
「いる、いるよ。頭の中で会話してるから。どういう理由かはわからないけど、現時点では私、くれはの意識が表に出てるけれど」
「………………」
「う〜ん、それを証明しろって言われたら方法が……あっ、あるじゃん。この世界には魔法があった!ねえ、ソフィアさん」
「私のことはソフィアとお呼び下さい」
「じゃ、遠慮なく。ソフィア、魔法の誓約書を手に入れることは出来る?確か神殿でお金を払えば貰えるよね?」
そう、恋金は魔法がある世界。
魔法と剣と恋の世界。
次回の投稿は10/14(水)です。