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 ク、クレメンティーヌ。

 設定とはいえ不憫。

 いっぱい食べさせたいです。



 ヴィーが今までと違うと誰も気付かない、王太子宮の誰も。

 言葉や仕草はいつものままだし、私だって他の人に明確に何処が違うとは説明出来ない。

 自分を見る目に甘さを感じないからなんていう理由を言える訳がない。

 

 クレメンティーヌを気遣う様子も傍から見れば甘く感じると思う。

 これだけの美形男子は微笑むだけでも周りを魅了するんだから。

 それに私がクレメンティーヌに転移したという現象が無ければ、私自身も身体と中身が別人かもしれないなどと想像すらしなかっただろう。

 それにヴィーに誰かが転移した事を証明するのは私自身をクレメンティーヌを危険に晒す事にも繋がる。

 だから今私に出来るのは平静を装うことと秘密裏にヴィーに誰かが転移したのかを調べることだ。

 そう判断した私はクレメンティーヌらしい言葉を返そうとした。


 「殿下、わたく……」

 「フルーツだけ?マルリード侍女長、クレイは他に何を食べましたか?」

 「は?」


 言葉を遮り聞かれたのは朝食の内容。

 私も周りも一瞬静止する。


 「……っ、他には何も召し上がっておられません」

 「朝食のメニューに栄養価が高く消化の良いものを命じたはずだが?」

 「はい、確かに承っております……」

 「では何故……」

 「で、殿下!わたくしが欲しくないと言いましたの。ですから彼女達は悪くありませんわ」

 「……成程。だが私が命じたのは彼女達だ。君が食せるようにするのが彼女達の役目。ならそれを全う出来なかった彼女達は罰せられるのは当たり前なんだ。ここ王太子宮に勤める者達にとってはね」


 あわわわ、ヤバい。

 私の我儘で彼女達が罰せられるのは駄目だ。


 「い、今から頂こうと思っていたのです。先にフルーツをと我儘を言っただけですわ」

 「だが……」

 「まあ!なんて美味しそうなんでしょう!殿下の御前ですが頂いてもよろしいですか?」

 「うん、どうぞ召し上がれ」

 

 苦しい言い訳だが仕方ない。 

 きっとヴィーにはお見通しだろうけど押し通すしかない。

 ちらりと彼を見ると顔を背け片手で顔の下半分を覆って震えている。


 最悪!!

 わかってるわよ、大根役者だって!

 咄嗟の事で表情も作れず台詞は棒読みなのに、身振り手振りは大仰になってしまったのだから滑稽極まりない。

 きっと幼稚園児のお遊戯の方がマシだろう。

 羞恥と屈辱で熱くなる頬に耐えながら優しい味のする粥に手を付ける。

 公爵家のシェフも素晴らしいが王太子宮のシェフは更に素晴らしい。

 入らないと思っていたのにすんなりと食べきってしまった。


 視線を感じた私はいつの間にか対面に座っていたヴィーを見た。

 私が食べるのを見ていたらしい。

 その表情は穏やかで見守る様なもの。

 

 う〜ん、その表情って親が幼子を見るものに似てるんだけど、一体どういう心情なんだか。

 昨日までの糖度MAXの表情よりは私の心臓に優しいけれど、余りにも違い過ぎてどう対応すればいいのか。

 とにかく此処は周りに人も多いし無難に笑っておこう。

 にっこり微笑んだ私に軽く頷いたヴィーは目線で他の皿を見る。


 えっ?

 此処にあるもの完食するまでそこで監視するつもり?

 

 伺う様にヴィーを見ると返ってきたのは輝くような笑顔だった。

 

 こうして私は全ての皿を平らげるまで逃げる事は出来なかったのだった。



 ◇◇◇◇◇◇



 ヴィンセントに頼まれクレメンティーヌと言う少女の食事の監視……もとい食事を促す為に彼女の部屋に行った。

 丁度起きて食事をするところだったらしい彼女の目の前には少しのフルーツが載った皿がある。

 だが他の皿には一切手を付けた様子がない。

 まさかフルーツだけ?

 このヴィンセント最愛の少女は昨夜も思ったが細すぎる。

 少し力を入れれば折れてしまいそうな程に。

 しかも顔色は白を通り越して青白い。

 顔立ちが整っているのも相まってまるで精巧な人形みたいだ。

 これはヴィンセントでなくても心配する。

 この子の親や周りの人間は注意しなかったのだろうか。

 

 確か俺やヴィンセントと同じ15歳だったよな?

 15歳というには落ち着いた物腰に大人びた表情。

 会話を交わせば聡明なのもすぐわかった。

 なのに何故こんなに不健康で今にも倒れそうなんだ?


 ヴィンセントの記憶から彼女がこんな風に追い込まれる要因が数多くある事がわかる。

 その中から原因を突き止め対処したいというヴィンセントの気持ちも理解出来るが、まずしなければならない事は彼女を健康にする事だろう。

 

 公爵令嬢である彼女に意見を言えるのは親である公爵夫妻か王族くらい。

 だが公爵夫妻が止めていればこの状態にはなっていない。

 その上彼女自身がこの状態を望んだのなら誰も止められなかったのだろう。

 ヴィンセントが強攻策に出たのも頷ける。

 この案件に関しては俺も心底同意する。

 全力で協力しよう。


 ……それと時々出る素の彼女はあいつを彷彿させる。

 だから放ってはおけない気持ちになる。

 

 さて、まずは目の前のお嬢様に食事をしてもらおう。

 俺は圧を込めにっこり微笑んだ。

 

 



 次回の投稿は12/11(金)です。

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