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 ……似たもの同士?



 本当に本当に大切で大好きだった。

 上手く言葉にも行動にも表す事が出来なくて、いつも自分自身がもどかしかった。

 物心ついた時には彼女は心の真ん中にいて、いつだって俺のお姫様だった。


 彼女が俺のせいで心が壊れる寸前まで傷付き『王子』と呼ばれるようになってしまっても、諦める事も忘れる事も出来ない位に。


 後悔ばっかりの俺の想いは最期の時だけ満たされた。

 護る事は出来なかったけど、最期の一瞬まで傍にいる事が出来たから。



 ◇◇◇◇◇◇


 彼女を抱き締め墜落していくバスの中でブラックアウトしたはずの俺は何故か目が覚めた。

 

 死んだのに目が覚める?

 

 周りを見回すと全く知らない部屋で……ってか何だこの部屋?


 俺が寝ているのは相当大きいベッドで天蓋が付いている。

 布団も間違いなく上質なもので、肌に触れるもの全てがそうだ。

 着ているものを確認しようと上げた腕にまず驚いた。


 白い。


 どう見ても黄色人種の色では無い。

 外国人の白さだ。


 飛び起きた俺はベッドから下り鏡を探す。

 部屋はホテルのスウィートでも此処まで広くないだろうという程の広さがあり、置いている調度品も高価そうなものばかり。

 戸惑いつつも探し当てた鏡の中に映る人物に固まった。


 誰だ、これ?


 俺より若干高い身長。

 やや細身ながらも鍛えてあるらしく、しっかりとした筋肉がついている。

 そして。

 金髪に金の瞳に白い肌。

 間違いなく日本人ではない。

 顔の造作は俺に似ているが色彩が全く違う。

 その時突然声がした。


 『お前は誰だ!私の身体を返せ!』


 ……俺の頭の中で。



 ◇◇◇◇◇◇


 

 頭の中で聞こえる声はこの身体の持ち主だった。

 ヴィンセント・ラグナ・ルミエール。

 この国の王太子らしい。

 そもそも此処は俺が居た世界とは異なる世界、いわゆる異世界だ。

 それを確信したのはこの身体が魔法を使えたから。

 そうでなければ異世界だと信じるのはもっと時間がかかっただろう。

 しかもヴィンセントの記憶が俺に流れ込んできたし。

 何故こんな事態になったのか、どうすれば元に戻るかは不明だが、ヴィンセントの身体は今俺が支配していて彼は指一本動かす事が出来ないらしい。

 だけど時間は容赦なく過ぎていく。

 だから俺はヴィンセントに見えるように生活しなければならない。

 それを教えてくれと言うとすぐ冷静に指示を出し始めた。

 憤っていたのは最初だけで、その後出された指示などを聞けばヴィンセントが如何に優秀なのかわかる。


 ……厄介だな。

 俺にヴィンセントの代わりが務まるだろうか。


 そこそこにはどんな事でも出来ると自負していたが、どうやらヴィンセントはかなり優秀な王太子みたいだ。

 俺の一挙手一投足がヴィンセントの評価になる。

 しかも王太子などという立場など想像すら出来ない俺は不安を覚えた。

 

 『誰か一人でもこの事を共有して協力してくれる人間はいないか?』

 『悪いがそれは無理だ。確かにお前を現実的に補佐してくれる人間がいる方が事が露呈する可能性は減るだろうが、逆にそれは弱味となる。秘密を知る人間は少なければ少ない方がいい。出来るだけサポートするから我慢して欲しい』

 『………………』


 即答で返された内容に絶句する。

 俺の生きてきた常識は通用しないと思った方が良さそうだ。


 ……王族って大変なんだな。


 兎にも角にもヴィンセントに直近でしなければならない事を聞いた。

 ヴィンセントは俺と同じ15歳だというのに連日分刻みのスケジュールをこなしている。

 しかも政務は多岐にわたり、それに関わる貴族への根回しや、現場視察まである。

 それに加え人選や物の選別まで。


 一体この国はどうなっているんだ。

 確かにヴィンセントは優秀だと思う。

 だが15歳の王太子に此処までさせなければならないとは、各部所は重鎮と呼ばれる者達は何の為に存在しているのか。

 俺はかなり苛ついた。


 『私を思いやってくれて有り難いが、そう怒らないでやってくれ。お前達の暮らしていた世界ほど、この世界は洗練されてない。官僚の制度もまだまだ見直さなければならない箇所だらけなんだ。貴族が力を持ち過ぎているが故の現状を打破するには大きな改革が必要だ。私としては身分に関係なく優秀な者を雇用したいが如何せん、今はまだ無理だ。私が国王となるまでに下準備をし、国王となってから少しずつ変えていくつもりではあるが貴族の反発は相当なものだろう。何しろ自分達の立場も利益も損なわれるのだからな。だから一気に変えるのではなく少しずつしなければならない。その間に反対する貴族達が悪事でもしてくれればやりやすくなるしな』


 こいつ、かなり腹黒い。

 この容姿は柔和な優男といった風情なのに中身は牙をむいた獰猛な獣だ。

 それを笑顔で隠し通すなど普通の人間では絶対無理だ。


 経験上、こういう奴に逆らわないようにしている俺は押し黙った。


 『あれ?もしかして引いた?けれどお前だって中身は同じ種類じゃないか。私は利用出来るものは全て利用する。自分の容姿もその一つにすぎない。真っ直ぐにぶつかるか、策を弄するかの違いはあっても私達の根本は似ていると思うが?』

 『……そこは認めざるをえないけどな』

 『ははっ!お前は本当に素直だな。だが何故それを彼女に……』

 『あいつの事は言うな!!』

 『失言した。気を悪くしたのなら謝る』

 『いや、俺も悪い。だがあいつの事は言わないでくれ。……せめて気持ちの整理がつくまで』

 『了解した。そんなお前に頼むのは心苦しいが……』

 『わかってる、クレメンティーヌという女の子の事だろう?お前が心底大事にしてる。彼女を暫く王宮に留めて生活改善をさせ、健康にする。それは最優先でやるから心配するな。俺だってお前の記憶で知った彼女の状態が良くなく早急に対処が必要だというのはわかる。細かい指示は頼むが出来るだけ優しくするさ』

 『悪いが頼む。彼女をクレイを失う訳にはいかない』

 『ああ、わかってる』


 切実な想いが込められたヴィンセントの言葉に俺は胸が痛むのを堪えた。

 

 


 



 次回の投稿は2日空いて11/29(日)です。

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