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 今回視点がくるくる入れ替わります。 

 三人の視点です。


 ……かなりの難産でした。



 「クレイ?」


 ヴィーの呼ぶ声で我に返った私だが、未だ違和感を拭えず困惑した。

 だが王太子との面会、しかも深夜に突然来訪したのだから用件を言わない訳にはいかない。


 「あ、あの、ソフィアの事なのですが……」

 「うん、ソフィアがどうした?」

 「私をずっと見ていてはソフィアが休めません。命令を解いて頂きたいのですが」

 「ああ、それは失念していた。申し訳ない。ただソフィアもクレイから離れるのは嫌かと思ったのだけれど。ソフィアは良いのか?」

 「いえ、殿下の仰る通りでございます。ですがクレメンティーヌ様が心配なさいますので、暫く休息を頂けると助かります」

 「ソフィア!暫くではなくちゃんと休んで。わたくしの言う事を聞かないと言うのであれば、公爵家へ一旦返します」

 「ソフィア、少しマルリードと交代して休むといい。それとも公爵家に帰るか?」

 「……ご厚意に甘え休ませて頂きます」

 「うん、その方がいい。クレイもこれでいいか?」

 「はい……。このような深夜にお騒がせして申し訳ごさいません」

 「いや、王太子である私の命は私か父上、母上しか解けないから。だからクレイも私に言いに来たのだろう?」

 「仰る通りでございます……誠に申し訳ごさいません」

 「謝らなくていい。クレイの心情を汲めなかった私の落ち度だ。それより体調はどう?」


 やはり、違う。

 ヴィーじゃない。

 いや、見た目や言葉の内容はヴィーだ。

 だけど先程までのヴィーは言葉や態度の端々に意図的な甘さがあった。

 だけど今のヴィーには全くと言っていい程無い。

 寝起きだからかとも考えたけれどクレメンティーヌの記憶にあるヴィーは元々眠りが浅く、寝起きだからといって特に変わる事は無い。


 ここにいるのは誰?

 もしかして……私と同じくあの事故で転移した誰かなのだろうか?

 今すぐにでも問い詰めたいけれど、その場合私の事も打ち明けなければいけなくなる。

 打ち明けて違ったらその後どうすればいいのか全くわかない。


 暫く様子を見よう。

 あのバスに乗っていた誰かなら知らない人ではないからわかるかもしれない。

 ソフィアにも相談したいし、確証を得るまでは黙っていた方がいい。

 この身体はクレメンティーヌのものだ。

 賭けに出る様な真似はダメだ。


 私は逸る心を押し留めヴィーを見つめた。



 ◇◇◇◇◇◇



 クレイが気付いた。


 彼は私の記憶を元に上手く立ち回ってくれているが、幼い頃から長年一緒に居たクレイに隠し通せるとは思っていなかったけれど早い。

 だが、まだ確信が持てないからか現段階では静観、もしくは観察をするつもりらしい。

 クレイとの間に隠し事をするのは得策ではない。

 それは確実に不信へと繋がるから。

 時期を見て早々に打ち明ける方がいいだろう。


 近衛騎士や侍女長すら気付かなかったのに、こんなに早く気付くとは。

 

 ……嬉しいものだな。


 私がクレイを想う気持ちとクレイが私に寄せる気持ちは同じではないのはわかっていた。

 クレイ自身は私に恋情を抱いていると思っているみたいだけれど、クレイのそれは恋情よりも親愛や家族愛に近い。

 だけど私はそれに気付いていながらも黙ってきた。

 

 私は狡いのだ。

 クレイにそれを教えて恋ではないと自覚して欲しく無かった。

 いずれ夫婦になるのだし、私達の婚姻は政略的な意味合いが強いのだから恋情など無くても仕方ない事はわかっている。

 だけどクレイにも私に対して愛情を持って欲しいと願ってしまう。

 ほんの少しでもいい。

 巷の貴族の夫婦の様な愛情の無い仮面夫婦は嫌なのだ。

 出来る事なら愛し、愛される関係でありたい。

 クレイに執着する私はそう願ってしまう。


 だからクレイの勘違いを正す事が出来なかった。

 ……したくなかった。 

 彼女の心が少しでも私から離れるかもしれない事をしたくなかったのだ。

 勘違いでも、いつかは本物になるかもしれない。

 いや、してみせるつもりだけど。


 だから誰よりも早く、私の異変に気付いてくれた事が嬉しくてたまらない。

 それだけ私を見てくれているという事実が。

 

 奇妙で未だ解決方法など思いつかない状況だが、私は密やかに歓喜したのだった。

 


 ◆◆◆◆◆◆



 何かクレメンティーヌという美少女が俺をずっと見てる。


 バレたのか?

 まだわからない。

 どちらにせよ判断材料が少なすぎる。

 この身体の持ち主である王太子だというヴィンセントは、彼女に早々に打ち明けるつもりのようだが、果たしてこんな非現実的な事を信じてもらえるのか疑問だ。

 自分自身、今でもこの状況に現実味がないのに他人が受け入れるのだろうか。

 だけど頭の中で話すヴィンセントは最初こそ激昂していたがすぐ冷静に判断しだした。

 俺と同じ15歳だと言っていたけれど、この世界の人達は前世と基準が違うのか。

 ヴィンセントはとても思慮深く聡明だった。


 俺自身状況がわからず、わかった事は俺が他人の身体を支配している事と多分死んだという事だけ。

 頭の中でヴィンセントが叫ばなければ、その状況すら理解出来なかったに違いない。

 そしてヴィンセントの今までの情報が流れ込んできて、やっと夢ではないのだと確信したのだ。

 何がどうなったかは不明だが、ヴィンセントの身体を奪ってしまった以上出来る限りの事はすべきだと判断した俺はある提案をした。


 解決方法がわかるまで、出来る限りヴィンセントの生活を守ると。

 ただヴィンセントの王太子という身分やこの世界には不慣れだから、その都度助言はして欲しいと。


 この奇妙な状態が今後どうなるのかはわからないが、いずれにせよ生きて生活しなければならない。

 しかもヴィンセントは重責を担うこの国になくてはならない存在だ。

 そんな人間の身体を奪った責任は取るべきだ。

 そう思った末の提案だった。

 

 ヴィンセントの指示はわかりやすく的確だ。

 今まで会った人達は俺を何の疑いも無く自分達の王太子だと思っていた様に見えた。

 

 だから深夜に起こされ会う事になった、クレメンティーヌという婚約者の少女も大丈夫だろうと思っていたのだけど。


 それに深夜に王太子を起こした内容もヴィンセントの記憶にある完璧な令嬢の行動とは思えない。

 ヴィンセントの懸念もわかる。

 暫くは生活に慣れるのが先だが、彼女が変わった理由も探るべきだろう。


 ……やるべき事が山積みだ。


 俺はクレメンティーヌの痛い程の視線を受け流し、小さく息を吐いた。

 




 次回の投稿は2日空いて11/24(火)です。

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