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ソフィアVSヴィー
……勝負は始めからついてます。
一体全体、何がどうなってそうなった!!
事が大き過ぎて理解が追いつかない。
人間って驚き過ぎると思考停止するんだな。
きっと今私の顔は大仏様みたいだろうと思う。
『無』だから。
「クレイ、現実逃避しても変わらないよ?戻っておいで」
誰が現実逃避したくなる事をしたのか!
しれっとしている王太子様を睨む。
そして早く離して!
熱のせいか、まだ力の入らない手で押すけれどやっぱりびくともしない。
「くすっ、人慣れしてない仔猫のようだね。何て可愛いいんだろう」
「で、殿下!離して下さいませ!紳士のなさる事ではごさいません!」
私は力の入らない手足をばたばた動かしヴィーの拘束から逃れようと藻掻き、ヴィーはそんな私をくすくす笑いながらも離さない――といった中に物凄くドスの効いた低い声が落ちた。
「王太子殿下?」
この声はいつもよりかなり低く威圧感満載ではあるけれどソフィアのもの。
某映画『極○』の姉御のような?
ソ、ソフィアだよね?
「ソ、ソフィア!わかった、わかった!クレイを離すから手に持ってる花瓶を離せ!!」
緩んだヴィーの手から振り返って見たソフィアはいつものソフィアだ。
にっこりと微笑み……微笑んでる!?
その絶対零度の微笑みは何故か阿修羅像よりも恐ろしく、そう感じたのはヴィーも同じだったようで微かに震えている。
何が、とはわからないけれど何かが起こる気がする。
「ヴ、ヴィー、早く離して下さいませ!何かが起こる前にっ!」
「う、うん」
小声で交わされた会話でヴィーから開放された私はふらつくのを気力で支え身を起こし、ソフィアに手を伸ばした。
「ソ、ソフィア!」
「クレメンティーヌ様!」
私の手を取り引き寄せたソフィアはヴィーから見えない様に背に隠す。
「ソフィア、悪ふざけが過ぎた。反省するから睨むのを止めてくれ」
「…………」
毛を逆立てた猫みたいに警戒心を顕にするソフィア。
ヴィーは心底参ったという様子で額に手を当てて項垂れている。
からかわれたのはいい気分ではないけれど相手は王太子様だ。
此方が折れなければならない。
「ソフィア、大丈夫です。殿下も反省なさっているようですし、許してあげて」
「……ですが」
さっきの話も詳しく聞かなければいけないし、忙しい王太子様を長時間拘束しては誰に何を言われるか。
そんな思いを込めて繋いだ手に力を入れるとソフィアは小さく息を吐いた。
「クレメンティーヌ様が仰るのであれば……」
納得はいってないが何とか怒りは納めてくれる。
「ヴィー、反省なさって二度としないで下さいまし。それより先程のお話の詳細を説明して下さいませ」
「反省はするよ。だけど二度としないとは言わない。出来ない約束はしない主義なんだ」
「な、なんと仰いました?」
「クレイ……私達は婚約者だ。節度は必要だがある程度のスキンシップはあっておかしいものではないだろう?今までは我慢してきたけれど、もう15歳だ。私としてはもう少しクレイに触れたいと思っている」
「…………」
真剣な面持ちで言われた内容は正論で返す言葉は無い。
しかも相手は王太子様なのだ。
有無を言わさず好きにしても誰も文句など言える相手ではない。
むしろ此方にお伺いを立ててくれるのは誠実さの表れで譲歩してくれているから。
……だというのは理解できるけれど、たからと言って許容出来るかは別問題だ。
クレメンティーヌの感情は少しの嬉しさと大きな戸惑い。
確かに二人は書面も交わした婚約者だし、ヴィーの言ってる事もわからないではない。
ゲームの展開がこの先起こるかどうかも今の時点では未確定だ。
クレメンティーヌを裏切りヒロインを選ぶのが絶対ならヴィーの言葉など無視するけれど、今のヴィーはクレメンティーヌに甘過ぎるぐらいに優しいし愛情を感じる。
私にはどうするのが正解なのかわからない。
クレメンティーヌも今までの王太子様と違い過ぎて、困惑が大きい。
……方針を決める為の時間が欲しい。
「ヴィー。その事については少し時間を頂けませんか?」
「何故?私達は国王陛下が認めた婚約者だ。婚姻は成人し学園卒業後にはなるが、この婚約が反故になる事は有り得ない。何も子を成す行為をする訳ではないし、ただ恋人としての触れ合いをするのに問題は無いと思うけれど?」
普通ならそうでしょうが、それを貴方が無理矢理反故にするかもしれないんですよ!
まあ、今の時点のヴィーなら確かに有り得ないけれど。
「クレイ。私はね、君に情けない姿を見せまいと見栄を張ってきた。だけどそれは間違いだと気付いたんだ。君への想いを伝えず、君の心を聞かないでどうやって愛情が育つ?確かに私達は政略的な要素が大きい婚約者だ。だけどそこに愛情があってはいけないのかい?」
「いえ、あってはいけないなどとは思っておりませんわ。ですが婚姻まで後三年以上ございます。その間に御心が変わる事もござい……」
「無い。少なくとも私は無い。そしてあって欲しくも無い。……クレメンティーヌ、私は君が好きだ。王太子のヴィンセントが公爵令嬢のクレメンティーヌを好んでいるのではなく、ヴィーという男がクレイと女の子を好きなんだ。だからこそ愛情を育みたいと望んでしまうんだよ」
真っ直ぐに私を見るヴィーの瞳には確かな熱が籠もっていた。
恋愛偏差値が低い私は目を逸らさないでいるのが精一杯なほど、乞うような甘く熱い焔が揺らめいている。
普段は優しく甘いだけのヴィーの情熱的な求愛にクレメンティーヌの感情が昂ぶるのを感じ、私は更に困惑した。
どうしよう。
クレメンティーヌが一気にヴィーに恋情を抱いてしまった。
今まで何処か冷めた目でこの婚約者を見ていたクレメンティーヌだからこそ、私は断罪回避の方法を提案出来たのだ。
クレメンティーヌがゲームと同じ様にヴィーに執着したら離れる事は出来なくなってしまう。
例え私が身体を支配し強制的に離れる事が出来たとしても、クレメンティーヌの心が壊れてしまうかもしれない。
私はこのゲームとはかけ離れた王太子様の求愛と、ゲームと同じに王太子様に恋情を抱いてしまったクレメンティーヌに胸の中で頭を抱えたのだった。
次回の投稿は11/14(土)です。




