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 くれははクレメンティーヌとソフィアのツボみたいです。

 『王子』ではなく『妹』属性で……。



 「本当にクレイと過ごす時間はあっという間だね。……もう帰らなくては」

 

 街のはずれで待ってくれていた公爵家の馬車に乗り込むまで、きっちりエスコートしてくれた王太子様が名残惜しそうに溢す。


 「今日はありがとうございました。助かりました」


 どんな態度をとれば良いのかわからなくなってしまった私は、定型文を淡々と紡ぐ。


 「……素っ気ないのも男心に火を付けるって、絶対わかってないよね?」

 「えっ?何か仰られましたか?」

 「いや、何でもないよ。じゃあ、気を付けてね。また明日」

 「は?明日?」

 「……クレイ。明日は私とのお茶会の日だよ。もしかして忘れていた?」

 「……っ、まさか、当然覚えていました」


 うん、まるっと忘れてました。

 前回父上と王太子様が週に一回にするとか何とか言ってたの。

 お忍び騒ぎですっかり頭から消えてた。

 だけど完璧公爵令嬢のクレメンティーヌは忘れてはならないのだ。


 「私がヴ、ヴィーとの約束を忘れた事などありましたか?」


 ……愛称呼び、何時までしなくちゃいくないのかな?

 呼びにくい。


 肩を震わせ下を向いた王太子様。

 誤魔化したのに気付いた?

 ……ここで認めてはクレメンティーヌに傷が付く。

 嘘も貫き通せば真実になる!?


 …………そして素早く退却するに限る。


 「ではっ、ヴィーまた明日。ソフィア帰ります、馬車を出して」

 「……っ、うん。また明日、クレイ。ぷっ、くくっ」


 私の意図を汲んだソフィアが失礼にならない程度の、しかし最速で馬車の扉を閉めてくれた事で、笑う王太子様を振り切ったのだった。



 ◇◇◇◇◇◇



 家族とのディナーも湯浴みも済ませた私は、だらしなくベッドに身を投げ出した。


 「ふぅ、今日は疲れた。でも楽しかった!……王太子様は邪魔だったけど」

 「……申し訳ありません。私だけでしたらクレハ様を満足させる事など出来ませんでした」

 「だからぁ、ソフィアは全然悪くない。そもそも突然言い出した私が悪いんだよ?次はもっとちゃんと計画的にしたら大丈夫だって。ね?だから次もよろしく、ソフィア」

 「……クレハ様。はい、次はちゃんと下調べもしてから案内致します。必ずやクレハ様を満足させてみせます!」

 「……ソフィア、気合入り過ぎだよ。それに私だけじゃなくてソフィアも楽しくなれる様なのがいい。その、……ソフィアとクレメンティーヌともっと仲良くなりたいから」


 頭の中でクレメンティーヌがくすくす笑うのがわかる。

 だって、女の子の友達なんて一人しか居なかったし『王子』でない私はどうやって人と付き合えばいいのかわからない。

 だから恥ずかしくても素直に気持ちを伝えるしか出来ないのだ。


 「クレハ様……。ああ、クレメンティーヌ様、お許し下さい。私は、私は……」

 「ソフィア?」


 顔を両手で覆い俯くソフィアに私は唖然となる。

 一体どうしたんだろう。

 何か悪いこと言ったかな? 


 心配する私にクレメンティーヌが語りかける。


 ソフィアに伝えてって。

 意味わかんないけど、そのまま言えばソフィアにはわかるって。


 「ソフィア、クレメンティーヌがソフィアに伝えてって。『同じ気持ちだから、存分に思うままに。わたくしの分まで』、ソフィア、意味わかる?」

 「……っ、クレメンティーヌ様。はい、クレハ様。クレメンティーヌ様の御心を理解致しました」

 「私にはさっぱりだけど、それだけでわかるなんて本当に仲良しだね。あっ、割込もうとは思わないけどちょっとだけ仲間に入れてね?」

 「……仲良し……。クレメンティーヌ様と私が仲良し……」


 ありゃ、ソフィアが固まった。

 あれ?クレメンティーヌも?

 何、この二人。

 自分達が仲良しな自覚が無かったのかな?

 前世で言う『親友』ポジだよね?


 不思議な思いでソフィアを見てた私はいつの間にか眠ってしまった。



 ◇◇◇◇◇◇


 「おはようございます、クレハ様。本日は殿下とのお茶会がございます。お召し物は如何なさいますか?」

 「うぅん、おはよ、ソフィア」


 昨日の固まりっぷりなど無かったみたいに、いつもの様に手際良くカーテンを開けていくソフィア。

 清々しい朝日に目が覚めた私は、いつになくだるい身体をよいしょと起こす。


 ?

 昨日のお忍びで疲れたかな?

 心なしか頭も重い気がする。

 う〜ん、少し熱があるかもなぁ。

 まあ、でもそんな大した事なさそうだし、今日は王太子様とのお茶会もあるしなあ。

 

 断罪回避の為に攻略対象と距離をおこうとは思っているけれど、以前と違うと言う王太子様を見極めなくてはいけない。

 それには私が会う必要がある。

 正確には私の中のクレメンティーヌが会う必要があるのだ。

 クレメンティーヌでないと何処が以前の王太子様と違うのかわからないから。


 「装いはいつもの様にソフィアにお任せで。……朝食は軽めでお願い。王太子様はいつ頃来る予定?」

 「ではお召し物などは私が。殿下はいつもより早く来られると先触れがございました」

 「じゃあ午前中には来るって事?ソフィア今何時?」


 この世界の時間の流れは前世と同じだ。


 「ただ今8時半でございます」

 「うわっ、時間無い!ソフィア、朝食抜きに変更。すぐ身支度しなきゃ!」


 この世界の身支度はかなり時間がかかる。

 最低でも小一時間は必要だ。

 前回11時ぐらいに来たのを踏まえて、それより早くとなると10時には準備出来てないと。

 ……あの王太子様だ。

 もっと早く来る可能性も否めない。

 今から準備して間に合うかどうか。


 「ですが、お身体に障ります」

 「王太子様、待たせる訳にいかないでしょ?クレメンティーヌなら絶対しない。ソフィア急いで!」

 「……畏まりました」



 この朝食抜きと微熱が後々大事になるなんて、今の私にはわかるはずもなかったのだ。



 次回の投稿は11/7(土)です。

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