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 そつない行動は王太子様だからか、イケメンだからか。


 



 「ほら、クレイ。時間が無くなるよ?」


 ……痛いところを突く。

 そう、あんまり時間は無い。

 ディナーまでに帰って着替えないといけない。


 「さあ、まずは何処に行きたいのかな?可愛いクレイは」

 「……無理に褒めなくて結構です。まずは小物を。あっ、普通の雑貨屋さんですよ?」

 「無理に褒めてる訳じゃないよ。本当に可愛らしいからそう言ったんだ。行きたい所はわかった。普通(・・)の雑貨屋に行けばいいんだね?」


 くだけた口調になる王太子様。

 街中ではこの口調にするみたいなので合わせる。

 確かに貴族の言葉は街では浮いてしまうだろう。

 更には私が言った普通(・・)を即座に理解している。

 ……臨機応変なのも、何故か腹立たしい。


 そして。

 前回のお茶会でもそうだったけれど、王太子様は流れる様にクレメンティーヌを褒める。

 さも当たり前の様に……。

 貴族なら当たり前の事かもしれないけれど、耐性の無い私には赤面するのに十分で。

 本当に困るのだ。


 だけど今はそれは考えないようにしないと。

 折角ソフィアが作ってくれた機会を無駄にしたくない。

 

 王太子様が来たせいで半歩下がって歩くソフィアに視線を向けると苦笑が返ってきた。


 ……ソフィアと姉妹みたいに街歩きするはずだったのに。

 沸々と湧いてきた怒りを隠すことなく隣の王太子様を見ると、若干気不味そうな顔になっている。


 「……ソフィアも一緒にいるじゃないか」

 「……ソフィアと二人(・・)が良かったんです」

 

 今度は王太子様が拗ねた様な顔をする。

 ……どういうことよ?

 男の子の拗ねた顔が可愛らしいって。

 ほら、横を通った女性が心配そうに、でも熱い瞳で見てる。

 向かいから来る同年代の女の子なんて目がハートだ。

 出来る限りゆっくり歩き、王太子様をずっと見てるよ。

 最後の最後に私を睨んで行ったけど。


 もう、ヤダ!このイケメン王太子様。

 今すぐ此処に放置したい!


 「……私は少しでも君といたい。もっと君を知りたいんだ」


 囁くような小さな声。

 ともすれば聞き逃してしまいそうなほど。

 その声につられるように顔を見れば焦燥にかられた瞳があった。

 その瞳は何故か哀しそうにも見えて私は思わず声を掛けた。


 「……ヴィー?」

 

 私の呼ぶ声にはっとした様に此方を見た王太子様は、さっきの焦燥感も哀しそうなのも全て綺麗に消し去ってしまっていた。


 「ごめん。さあ、行こう!」


 腑に落ちなかったけれど時間が無いのもあって、私は王太子様に手を引かれて街中へと歩き出した。



 ◇◇◇◇◇◇


 「私のお姫様は満足頂けたかな?」

 「………………はい、とても。楽しかったです」


 にこにこと嬉しそうに笑う王太子様はやっぱり眩しい。


 間が空いたのは私の心の葛藤の表れだ。

 肯定するのが悔しかったから。

 しかし結果的には王太子様の案内はとても助かった。


 ソフィアは公爵家に来るまで伯爵邸から一歩も出してもらった事がなく、公爵家に来てからもクレメンティーヌの側にずっと居たのでほとんど街を知らない。

 クレメンティーヌは言うまでもなく、二人で街を散策するなど王太子様の言う通り無謀だった。

 勿論、ソフィアは短い時間で街の情報を集めてくれていたのだけど、実際に来てみると違う事も多かったらしく、終始愕然としていた。


 ソフィアは悪くないから。

 突然言い出した私が悪いんだよ。

 そんな労りを込めてソフィアを見ると完璧侍女の微笑みなどなく、青褪めている。

 

 ……後でしっかりフォローしとこう。


 王太子様が連れて行ってくれた店はどれも私が行きたかった様な庶民的な店で、王宮育ちの王太子様がどうやってそんな店を知っていたのか疑問は残るが楽しかったのは本当だ。


 「くすくす。情報元は秘密だよ?だけどクレイに満足してもらえたのなら良かった。度々は無理だけど、また来よう。その時は今日とは違うお店に連れて行ってあげるから、楽しみにしてて」


 爽やかに笑うイケメン王太子様。

 さり気なく次の約束をしてるけど、これ拒否権無いやつだよね?


 全くもって意味がわからない。何故?何でこうなるのか。 

 

 私はクレメンティーヌの断罪回避の為に、このきらきら眩しい王太子様と距離を置く予定なのに!


 じとりと爽やか王太子様を見るけれど、そんなの見えないとばかりに一層きらきらした笑顔が返ってきた。


 ……帰ってから考えよう。

 今日は疲れた。


 溜息を一つついた後、持っていた包みを王太子様に差し出す。


 「ん?何?」

 「廉価なもので申し訳ないですが、今日のお礼です。いらなければよろ……」

 「ありがとう、頂くよ!開けても?」


 被せ気味に喰いついた王太子様はあっという間に私の手の中から包みを奪う。

 ……元々あげようと思ってたものなんだから、そんな慌てなくても。


 「どうぞ?今日連れて行って頂いた雑貨屋さんで見つけたものですが。私とソフィアの形違いです」

 「……っ、クレメンティーヌとお揃い?」

 「…………形違いです」


 そこ、大事。

 私とソフィアがお揃いで、それは形違い!


 丁寧に包みを開けた王太子様の手の上にあるのはガラスで出来た子犬。

 大きさは玉子位で、ペーパーウェイトに使ってもいいし、窓際に置いて飾ってもきらきらして可愛いかもと思って購入したもの。

 私とソフィアのは兎で、王太子様のは子犬。

 どちらもお座りしてるのが何とも愛らしく一目惚れしたのだ。


 この国の王太子様が使うには安すぎるものだから、要らなければ私が使おうと思ってたんだけど……。


 「クレメンティーヌ、ありがとう!大切にするよ。これを収納する宝箱を注文しなくては!」

 「ま、待って下さい。本当に廉価なものなのです。宝箱にしまわず使って下さい。ペーパーウェイトにするか飾るかしか出来ませんが」

 「使う?クレイが選んで私に贈ってくれたものを?あり得ない、壊れたらどうするの。これは私の宝物だよ?厳重に保管しなくては」

 「ですから、これはヴ、ヴィーに渡すのもどうかと迷ったようなものなのです。宝物ものなどと……そんな大した物ではありませんので壊れても問題ないかと」

 「馬鹿なこと言わないで。クレイが贈ってくれる物に価値などつけられない。どれも私にとっては宝物なんだ。値段の問題ではないんだよ」

 「………………」


 ダメだ。

 これは聞いてもらえないパターンだ。

 王太子様、本当に今はクレメンティーヌが好きなんだな。


 えっ?

 クレメンティーヌも今までに何度か贈り物をしたけど、こんなのは初めてって?


 ……この間もそんな事言ってたよね?

 

 王太子様が変わった?


 目の前で本当に嬉しそうに笑うイケメン王太子様。

 私がクレメンティーヌに入る前に王太子様に心境の変化があったのか?


 調べないといけない事が増えた私は小さく溜息をついた。


 



 次回の投稿は2日空いて11/5(木)です。

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