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個性豊かな異世界召喚  作者: 佐原奏音
第一章『始まりの一ヶ月』
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13.『幹部、襲来』

 フラグ回収があまりにも早過ぎる。俺がフラグ臭い言葉を思った途端に幹部の襲来だ。俺、今何も準備できていないから勝てないよ? こんだけ人集まってるけど、俺何もできないよ? 役立たずだよ?


「ユウ兄! 幹部がやって来たんだよ!? もうちょっと、危機感を感じた方がいいんじゃないの!?」


「そう言われても、漢方薬で治ったとはいえ、俺は先日、ものすごい戦闘繰り広げたばっかだよ? 危機感なんて一々感じてたら、キリがねぇよ」


 ユミの注意を軽く流し、人混みに入る。中には屈強そうな兵士や騎士がゴロゴロといるのがわかる。そして、全員が冷静ではないことも。

 現勢力で最強のライドの姿が見えないのが気にかかる。どこかにいるのかと思うがやはり少しライドがいないと心配だ。


「おい! あれを見ろ!」


 誰かの声が聞こえた。言われた方向を見る。すると、何か大勢のものが近づいてきているのが見える。この場にいる全員が理解した。あれが魔王軍の軍勢だと。

 ざっと、五百はいるだろうか。対して、こちらは向こうの半分にも満たない数だ。圧倒的な戦力差がある。


「おらぁ!!」


 突然、誰かが指示も待たずに火の魔法を放った。放たれた火球はまっすぐに魔王軍の軍勢へと飛んで行く。防御するモーションは見せない。このまま避けないと食らうだろう。

 しかし、そんなことは起こらなかった。

 魔王軍の先頭に立っている人物が指を上へクイっとすると、大きな岩壁が現れ、自分等を守った。


「あら、ずいぶんといいご挨拶をしてくれるじゃないの」


 先頭の人物が語り始めた。その声からして、先頭の人物は女性のようだ。しかも、かなりの美声。身長も俺より高く、美女という言葉が似合うだろう。


「アタシは魔王軍幹部魔軍司令官、レジーナ。さっきのご挨拶は良かったわ。お礼としてはあれだけど、魔王様への手土産に殺してあげるわ」


 そんな美女の風体に合わない、恐ろしい言葉を口にする。レジーナは俺等の方を見て、何かを理解したように鼻を鳴らす。


「ざっと、二百かそこらくらいかしら? なんか虐めてるみたいで楽しくないわね」


「へぇ、数で相手の力量を見極めるんだ?」


 俺の呟きに気付いたレジーナは俺の近くへやってきた。


「はぁい。やって来ちゃった。あなた、名前は?」


「……ムクノキユウヤ、平凡な少年なのであまり俺相手に本気にならないよう、そこんとこよろしく」


 幹部と普通に会話をしてしまった。俺の迂闊さ加減もあれだが、レジーナは今、敵地のど真ん中だ。いざとなれば、総攻撃できる状況だ。だが、誰も動けない。相手が幹部というだけでも恐ろしいのに余裕でこんな所にいるのだ。警戒しないわけがない。


「ずいぶんと余裕なんだな」


「あら、あなたも私と相手になると考えてる時点で余裕なんじゃないの?」


 全然、そんなことはない。むしろ、逃げたい。てか、逃げられないから軽口を叩くしかない。内心はかなり動揺している。


「いやぁ、美女にここまで迫られるって悪い気はしないけどな。敵でなければの話だけどな」


「へぇ、私のことを美女と言ってくれるのね。口が達者ね」


「それが好きな子に使えたらいいんだけどな!」


 こちらから動くしかないと思い、レジーナの不意をつき、携帯していた鉄剣を振るう。しかし、レジーナはひょい、とかわし、臨戦態勢に入る。


「初対面の相手に対していきなり剣を振るのはいかがなものかしら?」


「生憎、敵だとわかってる奴に礼儀なんてもん使ってる暇は無いんでね!」


 風を鉄剣に付与し、新たに飛ぶ斬撃を二つ作り出す。


「あら、斬撃を飛ばすなんて考えるわね。でも、そんなちんけな攻撃じゃ、私に手負いを与えることなんてできないわ」


「別に手負わせられるなんて考えてねぇよ。何がお前に効くか試してたんだ」


 実際にレジーナ相手にどんな魔法が効くかわからない。相手のことを知らない状態で戦闘に移ったのだ。


「総員、あの少年が幹部の相手をしてる間にあの大群を片付けるぞ!」


「「おお--!!」」


 誰かの命令に全員が従い、俺以外のほとんどはレジーナの連れてきた大群の方へ向かった。


「ユウ兄! 私たちはユウ兄を手伝うよ!」


「そうだぞ、ユウヤ。お前一人に戦わせるわけにはいかねぇよ!」


 ユミとタクミが加勢に来てくれた。続いて、スズネ、リツ、アオイが俺と戦おうとしてくれた。他の勇者たちはあの大群の相手をしに行ったようだ。だが、充分なくらいだ。


「サンキュ、お前ら。このまま一気に畳み掛けるぞ!」


 俺の言葉に反応し、みんなが魔法を撃ち始めた。


「『シャドウニードル』」


「『コールドブレス』!」


「『雷切』!」


 スズネ、リツは魔法を、アオイは鍛冶屋に作ってもらった刀でそれぞれの個性を活かし、戦闘に臨んだ。そこへユミとタクミが追い討ちをかける。


「『セイクリッドランス』!」


「『ウィンドアロー』」


 ユミは魔法、タクミはアオイ同様、作ってもらった弓で攻撃し、レジーナに攻撃の隙を与えない。

 だが、その五つの多種多様な攻撃は一つもレジーナに当たらなかった。いや、()()()()()の方が正しい言い方だろう。

 レジーナは身体が柔らかいのか、ユミたちの攻撃を物ともせずに避けてかわす。


「あら、さすがに数の差で避けるので手一杯だけど、別に当たらなければ意味はないわ。魔力切れを待つだけよ」


「なら、魔力が切れる前に倒すだけだよ」


 前の方でも言ったように余裕があるように聞こえるが、全然そんなことはない。魔力切れなんて起きたら、攻防が入れ替わる羽目になる。そんなことは起こさせない。


「俺は、いや、俺たちはお前ら魔王軍を倒す為に召喚された勇者だ! お前のような初っ端の幹部に殺されるほどヤワじゃねぇってことを見せてやるよ!」


 俺はここまでの苦しさを糧にし、怒号を繰り出す。それが決戦の火蓋を切ることに繋がった。

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