(6/8)いい加減にしろ
そしてとうとうその日がやってきた。
その日は雨で、ミツヒコが車を出してくれた。片道2時間くらいのわりと遠くの屋内施設に出かけるのだ。
道中赤信号の時にミツヒコが箱のポテトチップスを出した。コンソメとプレーンの2種類。
「お好きな方どうぞ」と言われた。
紗莉菜はもう返答する元気がなかった。好みのわからない彼女のために2種類用意したわけだ。ていうか車出してくれてるわけだから、お菓子は自分が用意するべきだったんじゃないの?
自分のふがいなさに泣けてくる。
返事がないので『ん?』と思ったのだろう。
「あ、ごめん甘い物の方が良かった?」と『m &mチョコレート』を出してくれた。
なんか喜ばないと。ハムスターは機嫌がいいくらいしか取り柄がない。
「『m &mチョコレート』! 懐かしい! 好きなの!?」とはしゃいでみた。
「チョコレートとして特に好きなわけでもないけど、手につかないからね」
なるほどー。
紗莉菜は小学校3年のとき。コンビニで買ったチョコレートをかじりかけのまま車の座席に放置したことを思い出した。翌日ドロドロになって発見された。親にこっぴどく叱られた。あのときアタシは『m &mチョコレート』を買えば叱られなかったのか。
施設につくと「ちょっと待ってて!」と言われた。『なんだろう?』と思ううちに助手席が開いた。傘をさしかけてくれている。
そのまま施設まで傘をさしてくれた。濡れないようにだろう。髪の毛ごと腰を抱き込んで守ってくれる。
彼女は178センチあるのでミツヒコを見下ろす形になった。ミツヒコの右肩が濡れていくのが見えた。
花沢、王子様なのである。
紗莉菜は天気予報を見たことがなかった。家を出た時に雨が降っていれば傘をさすし、晴れていればささない。天気なんてそのくらいのものだ。途中で降るなら濡れればいいのだ。
しかも『傘1本で施設まで行った理由』が『傘2本さすと施設内で邪魔だから』ということなのだった。
お前は、将棋指しか。何手目まで予測して行動してるんだ。
そして帰りに花沢の家で『フルーツの盛り合わせ』を出された瞬間爆発してしまったのだった。
「いい加減にしろーっここはホストクラブかーーっ!!!!」
【次回】
『気が利きすぎなんだよ』です。