表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

(2/8)お前はたかがデートにどれだけ調べてくるんだ

「聞いた? 花沢のこと!」

 総務部の宮野カオリの声に中原紗莉菜はギクっとした。花沢光彦と中原は付き合っている。社内恋愛はいろいろ難しいので誰にも言ってない。


 社食の『鯖の味噌煮』を崩しながらカオリはおかしそうに笑った。


「あいつさー。またやったらしいよ」

「なになに!? 『花沢王子』でしょ!? また地獄エピソード?」


 同期の太田美穂が前のめりになる。彼女の昼食はちくわうどんだ。


「地獄、地獄。昨日さー。花沢、清水さんと出張に行ったらしいんだけどさー」

「同じ部の先輩でしょ? えーっと確か5期上」

「そうそう出張先でにわか雨が降ったらしいんだけどさー」


 その日は1日『曇り』と天気予報ではなっていたので、先輩の清水は特に傘の用意はしてなかったらしい。雨が降るような感じでもなかった。


「花沢あいつ、傘2本持ってたらしいよ!! そんで先輩にそっと渡したって〜!!」

「かぁ〜! なんだあいつほんと『地獄のように』気が利く!」


 花沢は言ったらしい。

『たまたまです……』

『置き傘をカバンにいれたの忘れて今朝もう1本入れてしまいました』


「「そんなわけないじゃんね〜!!」」

 宮野カオリと太田美穂は声を揃えた。


「「あの『地獄のような』花沢王子がたまたま傘もってるわけないじゃんね〜!!」」


 キミたち。何も分かってないな、と中原紗莉菜は思った。

 入社式で出会って1年。更に彼氏彼女になって4ヶ月のアタシが断言しよう。


 ぜっっっっっったいわざと!!!


 あのみっちゃんが。ミツヒコが置き傘を『うっかり』『2本いれてる』なんてあるわけない。

 わざとわざと。あいつはどこに行くにも1日天気予報じゃなくて『1時間ごと』の天気を見るようなやつだよ。とにかく『地獄のように』気が利く。骨身にしみている。


 中原紗莉菜が花沢光彦に違和感をもったのは初デートの時であった。



「中原さんさぁ」とミツヒコは言った。

「ランチなんだけど。ピザが美味しいお店と、デザートが充実してるカフェと、サムゲタンで有名な店どれがいい?」


『なんですと?』中原は一瞬目が点になった。

 思わず心の中で五、七、五を読んでしまう。


 飯なんて 食えりゃなんでも いいんじゃね?


 まあそうは言っても1年も片思いした花沢との初デートだ。ここはしおらしく言っておかねばならない。


「ああ〜。どれもいいなぁ。迷うなぁ」


 なるべく女の子っぽくなるよう語尾を伸ばした。なんかこう甘える感じで言っとけ。それにしてもサムゲタンとはなんぞや?


「ああ〜。そういえば『サムゲタン』て何? 初めて聞いたー」


 語尾を伸ばせ語尾を伸ばせ。とにかく花沢にちょっとでも『可愛い』と思ってもらいたい。


 花沢がにっこり微笑んだ。


「韓国料理だよ。サムゲタンは『参加の参』に『鶏』に『お湯の湯』って書くのね。薬草が入っててお肌にいいらしいよ」


 しゃらくせぇ〜!!!!


 韓国料理っつたら『焼肉』一択だろ! カルビジュージューのタンぱくぱくのホルモンもくもくでビール一気飲みの『かぁ〜っウメエ〜!!』に決まってんだろ!!!!


 と、思ったが初デートでそんなこと言えるわけない。


「あ、じゃあピザいっちゃおうかな? ピザ大好き!」と笑顔になってみた。


「ピザね。イタリアから取り寄せた本格的な窯で焼くらしいよ。美味そうだしそこにしよう」

 と手を差し出したので、思わずつないでしまったのである。まぁ嬉しいのだが。


 中原紗莉菜はひっそり思った。

『ピザってあれでしょ? ひと切れを何口で食べるか競うやつ』

 彼女にとって『ピザ』とは食べ放題の店で友達と『何枚食べられるか』を競争する商品だった。



 更にである。

 翌週のデートは同じショッピングモールで買い物だった。

 前回は映画を2本みてしまったのでお店を見回るような余裕はなかった。


 ミツヒコは当然のように手を繋いだ。とても嬉しい。


 ある店に差し掛かったときだ。

「ああ〜残念だったね〜」とミツヒコが行った。「バーゲン終わっちゃったねー。先週までだったんだ」


『ん?』


 となったのである。


 なぜバーゲンが終わったことを知っている?


 同じショッピングセンターとはいえ、映画館やランチの店とは棟が違う。絶対に先週は行ってない。なのになぜバーゲンのことを知ってるんだ?


 カマをかけてみた。


「みっちゃんここよく来るの? 詳しいねー」と。すると花沢は驚くべきことを言った。


「え? このショッピングセンターは先週初めてだけど?」


 だから! なんでバーゲンのこと知ってんだよ!! 100回来たみたいに詳しいけどもよ!!


 家に帰ってからショッピングセンターのホームページを開いてみた。ちなみに彼女は店のホームページなど人生で一度も見たことない。彼女にとって店とは行ったときにたまたま閉まってたら『ちっ! ついてねぇな!』と思う程度のものだった。


 ずらーっと並ぶ飲食店を眺めて気づいた。ミツヒコが示したあの3店『女子受けする店上からベスト3』だ。


『先週初めて来た』という言葉に嘘はないだろう。そんな嘘ついても仕方ない。


 つまり『先週バーゲンがやってることを知っている』ということは、先週のデートの前にあのショッピングモールの店を全部チェック………。


 ギャーーーー!!!!!


 どんだけアタシとのデートに力入れてんだよーーー!!!!!!


 ウワサには聞いていたが、本当に『地獄のように』気が利く。


 中原紗莉菜はパソコンの前で呆然とするしかなかった。

【次回】

『花沢王子』です


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] >しゃらくせぇ〜!!!! >韓国料理っつたら『焼肉』一択だろ!カルビジュージューのタンぱくぱくのホルモンもくもくでビール一気飲みの『かぁ〜っウメエ〜!!』に決まってんだろ!!!! めちゃ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ