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第3話 青鬼と赤鬼の輪舞曲 其の二

 赤い絨毯じゅうたんが廊下にまっすぐ伸びていた。天井には煌びやかに輝く小さめのシャンデリアが鮮やかに全てを照らしていた。

 廊下には二人の影があり、影は廊下に並ぶ部屋をひとつひとつ開けては『違う』『ここじゃない』などと話しながら何かを探していた。

「いたか」

 ひとりの少年が声をあげると、向かいの部屋から、

「いない――そっちは?」

 疲れきった少女の声が聞こえてきた。その少女の声に答えるように少年は、

「こっちもいない」

「まったく使えないんだから。覗きしか能がないわね」

 炎にも似た赤い髪のポニーテールを揺らしながら少女が部屋から出てきた。

「俺だって宍戸さんがいなくなるとは思わなかったんだよ。仕方ないだろ。それと覗きって言うのはやめて、お願い」

「覗きに覗きって言って何が悪いの? 覗き魔さん」

 にっこりと笑いながらポニーテールの少女が少年の隣に立つ。隣に立つと分かるのだがお風呂上りの石鹸の匂いや女の匂いが鼻に香ってくる。少年は思わず息を呑んでしまい、少女がそれを怪訝に思う。

「どうかしたの彰。まさか私の言ったこと気にしてるとか?」

「そんなわけないだろ、陽菜」

 彰はそう言いながら陽菜から二、三歩後ずさった。彰が少し気まずく思っていると、

「ショウ。やっぱりいないよ」

 床からずずっと陽菜よりも少し小さめの体型の少女が現れた。

 ふたりはそれに驚くこともせずに、

「ご苦労様、アリス」

 ただ小さく首を傾げた。

「どこに行ったんだ?」


 三人は消えたこのホテルの支配人の宍戸を探していた。どこの部屋に問題があるのかを聞こうと彰が宍戸を尋ねにホテルのフロントに向かったところ、そこには宍戸ではなく陽菜がいた。

「あれ、陽菜?」

 陽菜は彰の声に気付くと、振り向き、

「これはこれは……どこの誰かと思ったら露天風呂で会った覗き魔さんじゃないですか」

 皮肉たっぷりの笑みを浮かべて彰を出迎えた。

 彰は申し訳なさそうに頭を下げ、

「悪かったって」

「なんてね、冗談」

「え?」

 頭を下げていた彰は思いがけない言葉にびっくりして一瞬顔を上げられなかったがすぐに顔を上げた。

「まぁ……もう謝ってるんだし、京都の女じゃないんだからねちねち言わないわよ。今度はちゃんと気をつけてよね」

「ん、ああ。分かった。で」

「ん?」

 一番気になってることを彰は聞いた。

「何してたの?」

 陽菜は彰の質問に蚊が鳴くような声で、

「いないのよ」

「いない? 何が」

「文句言いに来たんだけどさ、支配人がいないのよ」

「え?」

「何で私たち以外がいるのよっ! ってね。仕事は私とこの子だけって聞いてたからね」

 そう言いながら陽菜の肩に透過していた小さな子猫のような鬼の子の頭を人差し指で軽く撫でた。

 撫でられた子鬼は本当の子猫のように小さく嬉しそうに鳴いた。

咲鬼さきか。いたんだ」

「いたんだ……って、あんた思い切り殴られたでしょうに」

 陽菜は彰を見付けた後に一発お見舞いした。見事な右ストレートだった。

 彰は苦笑しながら、

「あのことは忘れたい。記憶喪失になりたいぐらいにね」

「情けない」

「ごもっともで――そんなことより……宍戸さんいないの?」

 話題を変えるように彰がそう尋ねると、

「そうなのよ。まったくどこ行ったんだか。支配人どころか人の気配がまったくしないのよね」

「それは俺たちが来たときからそうだったな。宍戸さんひとりで経営しているのかと思ってたけど。宍戸さんがいない?」

 彰は受付に近づき、受付に置いてあったガラス製の鈴を鳴らす。音は静かに鳴り響くだけで返事が返ってくる気配など微塵も感じなかった。

「あれ?」

 鈴を鳴らしても何の返事も返ってこないことに首を傾げていると、陽菜が近付き、

「ね。いないでしょ? 私もさっき鳴らしてみたんだけどさ、返事が無かったから妙だなってね」

「どこ行ったんだろ? 買い物かな?」

「そんなわけないでしょ。もしそうでも客を残して買い物に行くような失礼なホテルならとっくに潰れてるわね。もしかして困ってる問題ごと、このホテルを潰そうと爆薬を仕込んでとんずらしたとかじゃない?」

 陽菜のとんでもない発言に彰は、

「そんなわけないだろ。あの人そんなに悪そうな人じゃなさそうだったし」

 陽菜は肩をすくめながら、

「どうだか? 善人ぶった悪人かもよ」

「失礼なこと言うなよ! とにかく探してみない?」

「しょうがないわね」


「ねえショウ?」

 首を傾げているふたりよりも深く首を傾げ、アリスが彰に尋ねてきた。

「どうした?」

「そういえば聞くのを忘れてたんだけど……この人誰?」

 視線を陽菜の方に一瞬だけ移すとすぐに視線を彰に戻した。彰は納得したように小さく頷くと、

「陽菜だよ。赤鬼陽菜あかぎような。同業者ね」

「同業者ってことは……?」

 アリスが深く首を傾げる前に陽菜が、

「そう。彰と同じ霊能者のひとり。よろしく――?」

 陽菜がアリスと挨拶の握手を交わそうと手を伸ばしたとき、アリスの異変に陽菜が気付いた。

 陽菜の肩で気持ちよさそうに警戒心を薄めていた咲鬼が急に怯えるようにアリスを睨んだ。まるで何か奇異のものを見るかのような目つきだった。

 その様子に陽菜は気付かずに、

「この子、何? 霊力はかなり微量だし、角はないし」

 不思議そうにアリスを眺め、アリスの力を見極めていた。霊能者としての勘と実力で。

 実力だけなら陽菜の方が数年ほど上だ。彰はつい先月に霊能者としての活動を始めたまさにひよっこだ。自分で立つことすらままならないほどに経験が圧倒的に陽菜には劣っている。

 その陽菜がすぐに妙と感じた。さすがというべきか、何というべきか。

「言えることはふたつ。名前はアリス、あと鬼じゃない」

「はあ? 鬼じゃない?」

 呆れるように大きくため息をつくと、

「相変わらずね、その鬼嫌い」

「悪かったな」

青鬼あおき赤鬼あかぎの者は鬼を従え、人外じんがいを罰し、人外を指揮し、人外を守る“鬼つかい”に誇りを持て。人外を守ることが人を守ることになり、人を守ることが人外を守ることにもなる。この言葉、忘れたわけじゃないでしょうね」

「瞬鬼の言葉だろ? 忘れるわけないだろ」

 この言葉は瞬鬼と言うか、青鬼家と赤鬼家の両家が掲げた文句みたいなものだ。生業と同様に何万回と聞かされた言葉だ。

 聞かせているときの瞬鬼の顔はそれはもう嬉しそうに、誇らしそうに話す。自慢話を延々聞かされるように耳に入った言葉のほとんどを聞き流していたので、よくは知らない。

少し遅れて申し訳ないです。更新はだいたい二週間をめやすにと考えております。これからも暇なときに目を通していただくとありがたいです

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