第2話 好きは嫌いで嫌いは好き!? 其の二
いきなりの高収入を手に入れると人ってのは知らず知らずに、にまにましてしまうものらしい。
茶封筒を手に、この少年も例に漏れることなくにまにましていた。
一言で言えば意外だった。はっきり言って五万も貰えると思わなかった。ちょっと夢を見るように、微かな望みに手を伸ばすように宝くじを買うような感じでそれがまさかの四等(一〇万円ぐらい)が当たったような信じられない気持ちと少しだけ不安な気持ちが彰の頭の中を交差していた。
「――天邪鬼か……」
不安な気持ちがつい言葉に出てしまった。彰は鬼も少し苦手だが特にこの天邪鬼と言う生き物は苦手を飛び越し、嫌いに届く部類だ。
隣で歩いていた十四歳ほどの金色の髪を揺らしながら少女が話しかけてきた。
「苦手なの……?」
彰は顔を上げながら、
「苦手って言うか……あんまり会いたくないと言うか……」
「昔喧嘩した友達と一〇年来久々に会う感じ?」
「そんな微笑ましいものじゃないよ、ただ嫌なんだよ、アリス」
アリスは先ほどオカマな鬼の堕鬼に渡された耳栓を手に取りながら、
「そんなに嫌……なんだ、天邪鬼に会うの」
「うん……その耳栓失くすなよ。次から金取られるから。初回無料の怪しい通販の健康食品みたいに次はぼったくられるから。でも――効果はばっちりなんだけどな」
「そう、……なんだ、これって何に使うの?」
「天邪鬼に会えば分かるよ」
彰は茶封筒をポケットにしまうと代わりにぐちゃぐちゃに書きなぐった地図を取り出した。
「しかし――相変わらず汚い絵だな、これで場所が分かるって方が変じゃないか?」
これが地図と分かるのは多分あのオカマの絵を何度か見たことがある経験と勘。ひょろひょろと伸びたミミズみたいな線が幾さも交差して所々の地点には四角だか丸だかの何とか形が分かる幼稚園児の粘土細工のようなものがあり、ミミズみたいな線が道とするのならこの粘土細工みたいな丸や四角はきっと建物の場所なのだろう。そしてその幾つかある粘土細工のひとつにばってんのマークがある。
「ここ……か?」
曖昧な地図を頼りにふたりが来たのは日曜であるにもかかわらず子供の声が聞こえる小さな幼稚園だった。何度も道を行き来し、この宝の地図にも似た堕鬼の地図のばってんの場所がこの幼稚園だと言うことがやっと分かった。
砂遊びやら鉄棒やら幼稚園の敷地内で遊んでいる子供たちは大人の目もなく陽気に遊んでいた。人数にしておよそ一〇人くらいか。
その時点でおかしいとふたりは気付いた。
どうして子供だけなんだ。どうして子供以外誰もいないんだ、と。
この霧ヶ崎町の育児施設や学校はどこも日曜はイベントを除いて全てが休日になる。それには理由があるのだが――
そんなことよりもこの異変に彰は、
「お邪魔します」
とりあえず施設内に入って考えることにした。
彰が一歩幼稚園の施設内に足を踏み入れると異端のものを見るような目でふたりをぎろりと、幼稚園内にいた全ての子供が一斉に凝視した。
その後ろでアリスが一歩、彰の後につくと、
「――?」
不思議そうな顔で周りを見回した。外国にひとり取り残されたその国の言葉を話せない日本人のように周りをきょろきょろと見回す。
その様子に、
「どうした?」
そう彰がそう尋ねると、
「何か……変。分かんないけど変」
「変?」
「うん、空気が変わったみたいに変。よく分かんないけど」
「変――か」
ここに異変があるとするのなら目の前にいる一〇人ほどの子供たち。ぎろりと凝視したままふたりから目線を一切ずらそうとしない。殺気にも似た視線。
その瞬間、
「これは、もしかすると」
彰が小さく呟くと一〇人ほどの子供の中の一人が、
「お兄ちゃんたちだれ?」
そう聞いた。その言葉を聞くと彰は片耳に小さな耳栓を右耳にあてがった。
子供がもう一度、
「お兄ちゃんたちだれ?」
そう聞くと彰が、
「やっぱりか、はあ……」
うなだれながら肩を落とす。アリスは小首を傾げ、
「どうしたのショウ?」
そのアリスの問いかけに彰は振り向かずに自分の右耳を指差した。
その合図が何を意味するかをすぐに理解すると堕鬼から貰った耳栓を両耳にあてがう。すると、
「お兄ちゃんたちだれ?」
アリスは何が起こったのかを理解出来なかった。一瞬耳疑い、次に頭を疑った。先ほどは可愛らしい子供の声できょとんとした仕草に心奪われてしまいそうなほどだったのに。
「ここに何か用なの」
聞き間違いである可能性はこの一言で消えた。今度ははっきりと聞こえた。子供の声に重なるように重低音の大人の男の声が。
「これが天邪鬼だよ。天邪鬼は特徴がふたつある。そのひとつが思ってることは絶対に口に出さないのが人だろうと人外だろうと最低限のマナーなんだけど、天邪鬼はそんなことお構いなくに言葉にしちゃうんだよね。ま、普通にしてたら聞こえないからこの耳栓使うんだけどね」
見た目だけなら無邪気な子供たちがすくっと音もなく立ち上がり始める。そしてじりじりと羊を追い込むように距離を詰め始める。
「何しにここに来た」
リーダー格のような一人の子供がそうふたりに尋ねた。彰は一度息を吸うと、
「ここは貴方たちの場所ではなく、持ち主がいると言うことを知っていますか? 知らないのであれば今すぐにここから立ち去っていただきたいのですが」
彰の言葉に天邪鬼がけらけらと笑い始める。一人が笑い始めると二人が笑い、二人が笑うと三人が笑い始める。まるで機械のように無表情に、でも、あざけ笑うように。その笑っているのに無表情な顔がどうしても苦手だった。
あざけ笑うなら本気であざけ笑えばいいものを、感情を知らない人形のように無表情で笑う子供と言うものは何よりも不気味だった。
無機質な笑い声のBGMがこのまま延々続くかと思われた。
ふっと、何かをきっかけに笑い声がぴたりと止んだ。見定めしていた眼は梟のように眼球をぐりぐりと動かしてあたりを見回し、
「お前たち……だけか?」
子供と大人の声が混じったような機械的な声で一人が彰に聞いてきた。それに彰が小さく頷くと、
「かかかかかかかかかかかか――」
再びけらけら笑い始める。面白い冗談でも聞いているように子供たちだけはどっと沸いている。
「お前たちだけかっ! かかかかか、面白いねえ、面白いよ。お前たち! 俺たちの正体ぐらいは分かってるみたいだけどな。暇なんだよ、暇なんだよ! お兄ちゃんたち遊ぼうよ! 俺たちが鬼やるからお兄ちゃんたちは狐になってよ、狩られる狐にさ!! それが嫌なら喰われる豚でもいいからさ、とにかく俺たちに遊ばれてよ!」
「特徴二つ目、相変わらず喧嘩早いな! 早漏が――、」
黄色い帽子が似合う子供の皮膚がぼろぼろと崩れ落ちるとそこからは人間の筋肉のようにはっきりとした筋や脈動が分かるようなくすんだような赤い鬼特有の皮膚が現れ出す。明らかな殺意と明らかな笑み。その全てが楽しむ気配を感じさせる。遊びを――
じりじりと汗が蒸発してしまうような殺気の中彰はそれに怯えることなく、
「落ち着いて、貴方たちがここから立ち去ってくれたらそれでいいんですから」
子供をあやすように落ち着けと言い聞かせるが彰の顔は引きついている。
子供ではなく完全に天邪鬼になった一〇人ほどが全員が笑いながら、
「暇なんだって」
「暇だって」
「だから」
「遊ぼうよ!」
地を思い切り蹴って五メートルほどの距離を一気に詰めて、細くもきっちりと筋肉の発達した赤い腕を空気を裂くように彰目掛けて一気に振り下ろした。
一人の天邪鬼の腕が彰を通り過ぎ硬い土の地面に直撃するとドンッ! と、地震が起きたような強い衝撃が足元を震わせると、クレーンで地面を無理やりえぐったような深い傷跡が残る。それを見て彰は大きな息を吐いた。
あの細い腕の一つ一つが小さなクレーンのようなもので一つでもまともに当たれば骨どころか内容物を吐き出すほどの威力があるとこんな状況に会ったことのない子供ですら分かる。それに恐怖する前に呆れた。話をきかないところはそのまま子供みたいだなと。
「あくまで抵抗すると……」
冷静に彰は言った。そして「仕方ないな」とアリスにも天邪鬼にも聞こえないように呟くと、ポケットから“何か”を取り出した。その“何か”はどこにでもあるようなものですごろくや手品などにも使うような玩具屋にでも一〇〇円ショップにでも売っているようなもので、
「“さいころ”?」
アリスが見たことのある“それ”が頭の中の記憶を辿っても“それ”が“さいころ”にしか見えなくて口に出したことでそれで何をするのかを理解出来なくなった。“さいころ”で出来ることなど遊ぶということぐらいでそれでクレーンのような力を持つ天邪鬼に対抗出来るなどとは思わない。
それでも彰は愛想笑いを浮かべたままで、
「わんぱく坊やたちにはお兄さんからの折檻でもしてやらないとな」
「それでか! かかかかか」
天邪鬼たちが笑うのも当然な気がする。彰が手にしたのは殺傷能力のある刀や銃などではなく子供の玩具の“さいころ”。さいころに爆薬を仕込んでいる高性能な手榴弾や焼夷弾と言う訳でもない。
そのただの“さいころ”を親指の上に乗せると、
「さあここからは種も仕掛けもある楽しいマジックショーの開催しまーす。用意するものは二つ、まずはこのさいころを――」
指を天邪鬼に向けるとコインを弾くようにピンと指を屈伸させてさいころを天邪鬼に向けて飛ばした。
「出演者の一人にこのさいころを受け取ってもらいます! さあどうぞ」
条件反射のように飛んできたさいころを見事キャッチする天邪鬼に彰が、
「ナイスキャッチ! そんないい子に注意だ、出た目は六。無数の光弾にご注意ください」
そう叫ぶとさいころを思わずナイスキャッチしてしまった天邪鬼が慌ててさいころを放る。放ったさいころが天邪鬼から五センチほど離れると空中で音もなく四散すると、そこから白い光が六つ、ぽつぽつと蛍の光のように現れる。その光が何かを天邪鬼が聞く前にその光は銀色の弾丸が射出されるように人間の動体視力では見ることの出来ない速度で天邪鬼の寸前を通り過ぎる。
光は天邪鬼には当たらずに天邪鬼の後方に見えていた幼稚園の本館の白い壁に銃痕のような傷を残す。その傷は銃で撃ったように壁が剥がれたみたいだとか少し焦げているだとかそう言うものではなく、綺麗に銃痕サイズの穴が綺麗に空いているという方が正しい。その傷は壁を貫き、その奥には綺麗な背景が見える。
一つ一つの破壊力は天邪鬼のクレーンにも似た腕の力よりも確かに劣るがそれを補うさいころの目だけの光を放出出来る力というのは確かに脅威ではある。銃を同時に射出したように一発一発の力が蓄積されるとその威力はクレーンよりも遥かに増すと天邪鬼たちは確かに悟った。
だから目を細め、足に力を入れ、本能をむき出しにする。
「面白い! 面白いよお前、お前は狐じゃない! お前は鋭く牙を剥く草食動物に認定してやるよ! だからもっと歯向かえ、そのぼろぼろの牙で俺たちといっぱい遊ぼうよ!!」
きゃっきゃっと新しい玩具でも与えられるように天邪鬼たちは歓喜する。目の前には豚でもなく狐でもなく、追い詰められた草食動物のように見た目とは違う脅威を放つ最高の玩具がいるのだから。
ある者は手を叩きながら。ある者は足を踏みながら。ある者は精神を昂ぶらせながら。
喜びを思うままに表現する。
その様子に彰は大きく息を吐く。諦めたように、大きく、そして疲れたような息を吐いた。
「お前たちさ……あれで本気だなんて思ってないよね」
その言葉に天邪鬼がまたけらけらと笑い出す。
「あれで本気に決まってるだろ! あれが人間の限界、あれが草食動物の限界!」
あくまであれが彰の限界と決め付けた。自分たちの方が彰よりも一〇〇倍、いや一〇〇〇倍強いと思い込んでいる。その様子にアリスが我慢出来なくなり口を出した。
「あんたたち馬鹿? それともただの世間知らずのお坊ちゃんですか?」
小金色の髪を鬱陶しそうに掻きあげながら、
「あれが本気だと思うならあんたたちはこの“日本最強”には永遠に勝つなんてことは出来ないわね。蟻が象に勝てる? 赤ん坊が有段者に勝てる? そんな次元。あんたたちが勝てる見込みなんてこれっぽっちもないわよ」
指と指で薄っぺらいコピー用紙でも挟むように小さく隙間を空けていたその隙間をぐりぐりと指で潰す。お前たちが勝てる見込みなど〇だと、お前たちが勝てる訳がないと、そう言う意味。
それに腹を立てた天邪鬼たちが地団太を踏む。本当の子供のように、それを信じることなで出来ずに、悔しそうに。
「俺たちが人間に負ける? ありえないね、ありえるかよ! かかかか、さっきお前のことを草食動物だなんて言ったがな。……撤回だ、撤回! お前は何にも出来ないただの人間だよ、ああ。最低ランクの人間様だよ! 遊ぶのも疲れた! だからさ、死ねよ!!」
頭に血が上りきった天邪鬼たちは遊ぶのを止め、殺意と敵意をむき出しにした肉食動物のように獲物に一直線で駆けていく。
目の前しか見えない。アリスも他の何も見ずに、ただ、獲物である彰に目標を定めた。
天邪鬼が地を蹴ればそこには落石でもあったような強いひびが入り、土埃も舞う。そんな様子を眺めていた彰がアリスを戒める。
「アリス、俺、嫌なことは初めに言っておくタイプだから言っておくけど」
「何?」
「二度と“日本最強”だなんて言わないでくれよ」
「どうして? 名誉なことじゃないの? だって“最強”なん――」
アリスの言葉を遮るように大きく土を踏み、そして“さいころ”を四個ほど振った。その顔はどこか寂しげで、どこか苦しそうで、
「嫌いなんだ、その言葉」
さいころの目はその全てが六。まるで綺麗な絵でも見ているようにその全てが綺麗な数字を出した。さいころが数字を出すとそのさいころが四散する。
そのさいころから現れた光の弾が彰に突っ込んでくる天邪鬼たちを見つけると彰が大きく指を突き出し、
「賽の式・鬼弾! 敵を捕らえろ」
その指を台風の目にするように指ごと腕を振り、そして台風のように何度も回転させると、光の弾も彰の指に反応するように、大きく回転し始める。風が唸りを上げるように大きく鳴き、土を舞い、天邪鬼を台風の目の中に閉じ込めていく。
台風の目の中にすっぽりと天邪鬼たちが入ったのを確認すると彰は指を横に切ると、もう一度、“さいころ”を一つ台風の目の中に入れた。
「これで終わり。賽の式・五。結界」
確かに数字は五だった。それを見ることの出来たのは天邪鬼と神だけだったと思う。“さいころ”が地面に着くよりも早く、彰は言った。“さいころ”の目が五だと、そうなると――
それはもう運だとかそう言う問題じゃない。まるで出る目が彰の思うままに動くように。運が彰に服従するように、“さいころ”の目が彰に従った。
“さいころ”がパキンと、ガラスとガラスが触れ合い、そして砕けるような儚くも綺麗な音が鳴った時には天邪鬼たちを取り囲んでいた台風の光の弾たちは跡形もなくなり、代わりにあったのは透明のカーテンのような物の中に取り残されている天邪鬼たちの姿だった。天邪鬼がその綺麗なカーテンをいくらクレーンのような破壊力のある腕で破壊しようとも風に靡くカーテンのような物がその行動を全て受け流すように天邪鬼の一撃には見向きもしない。
そして刹那、彰が息を止めると、
「な、何だ! 何をした人間!」
透明なカーテンが見る見る内に圧縮していき、カーテンから透明な水晶のように形を変えていく。その透明な水晶の中に蜘蛛の糸でも捜している罪人のように悲願する天邪鬼たちの顔が凍結していく。
「狭いけど我慢してくれよ」
野球のボールぐらいまで縮んだ透明な水晶を拾いあげる彰を見ながらアリスは体が震えているのを感じた。
これが彰の強さ。圧倒的なまでの運のよさと言うべきだろうか。“さいころ”を振って望む目が出る確率は簡単に計算しても六分の一。確かに何回かはその望む数字が出ることも、運がよければ可能ではあると思う。でもそれが何度も何度も繰り返されるとそれがもうすでに運ではなくなる。
普通の人間が“さいころ”を振る時に「出ろ〜一、出ろ〜」などと何の根拠もないまじないを言ったとして“さいころ”がそれに応えることなどまずありえない。“さいころ”はまじないなどには一切応えずに馬鹿のように確率と言う物に従う。何分の一かは場所、振る時の手の角度や、振った後の余韻のようなものがその確率を更に複雑化させ、人間が一〇〇回“さいころ”を振って、一〇〇回とも望んだ目が出ることなどありえない。山に篭ろうが、一〇〇〇回振って、一〇〇〇回同じ目が出ることはない。
しかしそれを彰は簡単に、当たり前のように成し遂げた。
きっとこの運のよさと言うか、運を支配出来る力が彰を“日本最強”と言わしめることが出来る。この“日本最強”の名が伊達ではないと納得せざるを得ない。
「ショウ、それどうするの?」
しゃがみながら何かをしていた彰にアリスが話しかけてきた。彰はひらひらと何か一〇〇〇円札ほどの大きさの紙をアリスに見せると、
「手品の最終段階だよ、もう一つの仕掛けはこれ。堕鬼お手製の転移札。これを結界に閉じ込めた天邪鬼たちに貼り付ける、すると――」
札を貼った水晶を空に放り投げると吸い込まれるように空の中に消えていった。
「どこに行ったの?」
「うん、オカマのところ」
「オカマ……って、あの変な生き物のいる」
アリスは震えながらあの奇妙で珍妙で奇奇怪怪でUMA的で近づきたくもないあの変な生き物のことを思い出して、体がバイブ機能でも持ったかのように震えだした。がたがた震えるアリスの肩にぽんと彰の手が乗ると、アリスのバイブ機能は停止した。
「まあ、そういうこと」
「でも……さ」
アリスは一つだけ不思議だった。
「どうしてあの天邪鬼を……」
殺さなかったの? そう聞きたかった。でもそれを聞いてしまったら嫌われてしまいそうで、口に出すことが出来なかった。だから、
「ショウ」
この言葉を口に出してみた。天邪鬼になったつもりで、背中を彰に向けながら、
「大嫌い」
思ってることを口にせずに――