第8話 空 其の三
畳が敷き詰められた修行堂で一人彰は考え込んでいた。
「ったく、あのロリコン……何考えてんだ」
何年経ってもあの親たちの考えていることが分からない。魔法だなんて言葉を信じて家を飛び出す時点で親失格と言ってもいいが、ただそれだけで親と認めないのも少し我侭な気がするから――、それはまあいいとする。
それでも家族でも知り合いでもないあの小さな女の子を巻き込むのはどうかと思う。
無口で自分の意思を通すのが苦手そうなあの子を見てると本当に無理やり連れてきたんじゃないかと思ってしまう。
「本当に変わってないのな」
それだけはなんだか安心した。安心してしまった。他人を巻き込む豪傑さ。自分勝手すぎる理屈。何もかもが変わらない。
ただ、変わらないからこそ不安も感じていた。
六年間の歳月を重ねてもまだ、『魔法』なんてものを追い求めているのだろうか。
親がどうして『魔法』なんて今の時代幼稚園児でさえ夢の候補にも上げない非現実に手を出したのか分からない。非現実を武器にして戦っている青鬼家の人間が言うにはあまりにも馬鹿らしいが、さすがに『魔法』だけは信じるわけにはいかない。
「久しく会ったっていうのにお前は相変わらずきついな」
その言葉も変わらない、六年前から。
いくら年月が経っていても親はやはり親なんだ。
「変わっていないのはそっちもだろ?」
振り向かずに答えると修行堂の扉を開けて肖一が入ってきた。久しぶりに帰ってきた肖一にとって、この青鬼家の修行堂の中も珍しく懐かしいのか、堂内を見回しながら彰に近づいてきた。
「埃一つなしか。相変わらずのきれい好きなのか、それとも几帳面なのか。どちらにせよ瞬鬼の清掃能力は世界一か」
青鬼家の本家には春と瞬鬼の二人だけしか住んでいないためにほとんどの家事などは瞬鬼が行っている。はっきり言ってこの家の全ての家事をこなすだけで凄いと思うのだが、その全ての家事を完璧にこなしてしまう瞬鬼に感心する前に、呆れさえする。
「まあここはたまにしか使わないから瞬鬼もあまり掃除に来ないけど」
「そうか……」
肖一は何かを考え込むように一度だけ息を吸うと、
「……あの子のことなんだがな」
真剣な瞳で語り始めた。それを見て彰は何だか気押しされてしまい黙りこくってしまう。
「私と秋は意外にも本気だ」
「何が?」意味が分からないと言ったように彰が呟いた言葉が肖一の耳に届いたのか届いていないのか分からないほどの妙な間が開くと、肖一は言った。
「……、まあ、なんだ。養子という奴なのか――、つまりは彼女を君の妹にしてやりたい」
長らくの間会っていなかった親父殿はそう言った。