プロローグ 幼き日の約束
深く暗い森の中。
その暗がりの中に小さな少女の姿が見えた。
「……」
まずは長く綺麗な黄金の髪が。木々に劣ることのない鮮やかさ。
続けて白い端整な顔。
ほっそりと華奢な体には青く染まったワンピースに身を包んだ少女の姿が。
外見年齢は十四、十五歳ぐらいの少女なのだが、いくつもの修羅場を乗り越えたことのあるような貫禄が少女を大人びせる。
しかしどこか生真面目そうな様子が大人びた雰囲気よりも幼さを強調させる。
「……やっと」
清澄とした幼い少女の声。懇願した願いが叶ったような嬉しくも、夢心地な声。
蒼く深く輝くラピスラズリのような瞳。その瞳で空を見上げる。
「私も……なれた……」
たおやかな指に小さく光るシルバーリングに少女は接吻を交わす。
「この証はきっと、私の宝物」
聖域のような森の中に雑音が広がっていく。殺気を放ち、何かを探している者たちの汚い雑音が聖域を汚す。
「見つけたぞ! 死霊アリス!」
十人ほどの男が少女を囲む。その手に剣や弓などを持ち、少女を殺そうとする意思が見える。
少女は静止したまま動かない。そして男たちに目をやる。そして笑う。
「違う……」
男たちは身構えた。いつでも飛びかかれるように。
「違う……私は“ヒト”。アリス」
刹那の出来事。
少女の周りには動かなくなり赤く染まった男たちの姿。
「……いや、今は……そう」
少女は無表情に顔を上げる。黒い空を仰ぐ。月が笑っているようだ。
柔らかな声が空気を震わす。
「私は……ただのアリス」
頬に飛んだ小さな濁点のような赤い汁を少女は幼くも妖艶な舌で舐め取る。
くしゃくしゃになった小さな紙切れを取り出す少女。紙切れには黄色いクレヨンで大きく汚い文字が書かれていた。
“ぼくのおよめさん”
「そしてただの……お嫁さん」