本当に、悪い妹だ
好評だったので、急いで書き下ろしてみました。
主人公兄、アーサーの話です。
2人は双子ですが王家の子供ということもあり、兄妹関係がはっきりしています。
短いですが、よかったら見てください!
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一生〜と並んで日間短編ランキングと日間異世界(恋愛)ランキング入りありがとうございます!
感想や誤字報告もしてくださったりと、読者の皆様には本当に感謝です。
世界の中でも屈指の軍事力を誇る大国、ノルンステ王国。
私、アーサー・ノルンステはその国の王太子として生を受けた。
どの国も同じようなものなのだろうが、王家というものはどうも家族縁が薄い。
王家という一族がもつ権力や責任が大きすぎるゆえか。
そしてそれは勿論、私の生まれたノルンステ王国も違わなかった。
ノルンステ王国は一夫一妻制で、現国王とその妃である両親は政略結婚で結ばれた。
そして私を含めた二男一女をもうける。
しかし、私達の育児に両親はほとんど関わることはなかった。
私達は生まれた時から乳母に育てられ、公務に忙しい両親と会うのは年に数回の式典の時くらい。
両親に悪意はないのだろう。
ただ、両親にとって一番大事なのは国や国民で、私達子供は次に国を支えるための駒程度の認識なのだと思う。
幼い頃から王太子として帝王学を教え込まれてきた私はその事に不満はなかったのだが…双子の妹は違った。
両親に直接訴えることはしなかったものの、その分周囲への反動がすごかったのだ。
妹は昔から高慢なわりに心が繊細な子だった。
普段高慢な態度や口調でメイドや乳母を突き放すのに、近くに誰もいなくなるとお気に入りの花畑に行って1人で静かに泣く。
その行動が普段とあまりにも違うので、しばらく誰も気づくことが出来なかったくらいだ。
当時の私は泣くくらいならばそんな態度をとらなければ良いのにと呆れていたが、今思えばあれが妹なりの甘え方だったのかもしれない。
周囲は勿論、双子の私でさえ到底理解できないものだったが。
理解者がいない妹はどんどん孤立していって精神的に追い込まれた頃、王妃のお茶会に参加する母親についてきたウィルノーと出会った。
ウィルノーはよく言えば素直、悪く言えば馬鹿なやつだ。
だからこそ妹と相性が良かったのかもしれない。
誰にも知られないまま2人は仲を深めていき、妹が10歳の誕生日パーティーにプレゼントとして公の場で強請って婚約が成立した。
あんな泣き虫の妹がそんな度胸をつけることが出来たのもウィルノーがいたからだろう。
その時も妹が琥珀色の瞳を潤ませながらウィルノーにくっつき、ウィルノーも妹を庇うように立っているのを見て、ウィルノーになら妹を任せられると安心したのは懐かしい思い出だ。
その後の社交の場でもウィルノーの側から離れないのは変わらなかったが、妹はウィルノーという存在を得て確実に強く成長していた。
そんな妹が1人でカイス達と言い争い、打ち負かすほど強くなれたのは何故か。
それは私達が12歳を迎えて間もない時、ウィルノーの母親の死が全てのキッカケだった。
ウィルノーの父親と母親は政略結婚だったが、私達と違い、ウィルノーは母親に愛されて育った。
ウィルノーは魔法や剣術があまり上手くなく、頭が良かったわけでもないせいか、父親からあまり興味を持ってもらえなかった。
そんな中での母親の病死はまだ幼いウィルノーに大きなショックを与えたに違いない。
その上、追い打ちをかけるかのように父親の隠し子、カイスの存在が発覚する。
カイスが自分と同い年の上、ウィルノーより優秀だと父親に褒められる様子を見せつけられたウィルノーは更にショックを受け、変わってしまった。
かつての勇敢な姿は消え失せ臆病に、卑屈な考え方をするようになってしまったのだ。
そのあまりの変化に周囲はウィルノーを腫れ物扱いした。
私は腫れ物扱いこそしなかったものの、そんな友人の変化にショックを受け、前のように気軽に接することは出来なくなった。
きっと妹は更に大きなショックを受けたに違いない。おそらく婚約は破談になるだろう…そう思って妹達の様子をしばらく見守っていると、むしろ2人の仲はより強固なものになっていることに気づいた。
今までのそれぞれの立場と入れ替わるように、かつて妹を支えていたウィルノーが妹によって守られることでお互いの精神的なバランスを保っていたのだ。
そして妹はウィルノーを守る為にとっくに卒業した高慢な王女を演じるようにまでなった。まるでそれが本当の自分かのように。
そしてウィルノーの母親が死んでから5年後。
あれからすぐ学園に入学した私達は月に一回は起こるウィルノーとカイス達の争いに振り回されていた。
といっても私は騒動が始まる前にはその場から去るため、関わっていないが。
今日だって食堂でウィルノーがカイスに話しかけた瞬間から魔法を使って、さも自分もその場にいるように勘違いさせてから教室へと避難した。
我ながら完璧な魔法だったはずだ。
しかしそんな完璧な魔法も同じ血を分けた妹には通じなかったらしい。
放課後図書室で1人読書をしていた私をわざわざ探し見つけた。
そんな妹がお気に入りの扇子で口元を隠し、私の目の前に立ちはだかる様子を見て私は読書を止める。
何故なら扇子で口元を隠している時はイラついている時だと長年の付き合いで学習しているからだ。
「お兄様。かなり前から思っていたのですけど、騒動が起こる前に消えるのは何故ですの?
卒業も近いことですし、そろそろ将来の家臣の躾くらいご自分でなさって欲しいですわ。」
「アリスティア…お前の言いたいことは分かるが、あの騒動に私は一切関わるつもりはない。」
5年間で積もった不満からか、妹は扇子をパチンと閉じ、あからさまに頬を膨らました。
いかにも不満だという意思表示だ。
学園の生徒達がこんな妹を見たらきっと驚くだろう。
妹は普段厳しい表情しか周囲に見せないから。
その態度は王族らしさを追求しなければならない王女としては失格だが、このように妹が表情豊かに対応するのは限られた人間だけだと私は知っている。
そして私がその中に含まれているのだと思うと悪い気はしないし、今この図書室には私と妹しかいないのだから注意する必要もなかった。
「ならば、その理由を教えてくださいませ。
…お兄様もウィルノー様に非があるからとお思いですの?」
「いや、それは違う。
ウィルノーに非があるなど、私は思っていない。
そうだな…一言で言えば、私が1人の人間である前に王太子だからだ。」
私は読み途中だった本を元の場所に戻し、妹と向き合った。
妹も先程の表情と打って変わり、真剣な表情になる。
「身分の話題というのは、私にとって容易に触れがたいものだ。
王太子という立場上、王家の名の下に身分制度は守る義務がある。
身分制度とは秩序でもあるからな。
かといって国の根幹である平民達を身分が低いからと軽んじて良いわけでもないのだ。
実力があるのなら尚更のこと。」
「…つまり、実力に差のある純貴族のウィルノー様と庶子であるカイス様の争いには絶対に関わることが出来ないのですね。」
「そうだ。
だから私は立場上どちらの味方になることもない。
だから…お前を守ることは出来ない。」
そう言うと妹はキョトンとした顔をして、突然笑い始めた。
何がおかしいのか全くわからない。
何故兄として妹を守れないと謝ったことでそんなに笑っているのだろうか。
「ふふふっ自覚がないのかもしれませんけど、お兄様も随分と私に毒されましたわね。
タリオンは私が可愛がったせいか、かなり影響を受けてしまいましたが…王太子であるお兄様までもとは。
王家としては良くないことなのでしょうけど、私としてはとても嬉しいですわ。」
タリオンとは10歳離れた弟のことだ。
何故か赤ん坊の頃から妹が構い続けた為、妹にひどく懐いている。
前回学園から久々に戻った時なんて妹に抱きつき、「お姉さまはタリオンのものなの。」と可愛さと幼さを利用してしばらく離れなかった。
私達の幼少期とは違い、どこか末恐ろしいものを感じさせるタリオン。
そのタリオンと私が同じ…?
よく理解できないが、一通り笑い終えた妹は満足そうだったので何も言わないことにした。
「ありがとうございます、お兄様。
おかげさまでスッキリしましたし、予期せぬ嬉しいことを知れました。
本当に、今のお兄様といると心が落ち着きますわ。
昔は違ったのに…お互い、変わりましたわね。」
そう言って微笑む妹を見て、そういえば私もいつからか妹といると心が穏やかになるようになったなと思った。
こうなる理由はよくわからない。
ただ一つ分かっているのは、妹がウィルノーに出会ったことで、私と妹の接する機会が増えたということだ。
私達は元々双子で、通じ合うところは確実にある。
しかしそれを阻んでいた王太子と一王女という壁をウィルノーがいつのまにか壊してくれたのだろう。
私は今では滅多に話すことのなくなった友人の姿を思い浮かべた。
妹を困らせるなんて、本当にバカなやつだ。
ウィルノーじゃなかったら今頃婚約を破談させていた。
「アリスティア。
お前も分かっているだろうが、カイスは一筋縄ではいかないぞ。
あいつは賢い上、人を味方につける才能に優れている。
本来ならば敵に回すべき相手ではない。
下手するとお前が失脚に追い込まれるだろう。
王家としてはお前を切り捨てらざるを得ない。
…その覚悟はあるんだな。」
「ええ、全て承知していますわお兄様。
ですが私はウィルノー様をいじめられるのを黙ってみていられませんの。
ウィルノー様が追い込まれたのであれば、私が追い込まれたも同然。
それはお兄様が一番よくご存知のはず。
それに、何かがあったとしても私はこの国の王女ですもの。
その時はこの首をかけて、責任を取らせていただきます。」
暗に私や王家には迷惑をかけない、と言いながら夕日を見つめる妹。
その横顔が儚げに思えたのは、学園中を飛び交う噂のせいだろうか。
妹がウィルノー関係で様々なことを言われているというのは私も知っている。
そしてそれらはおおかた良くないものだということも。
きっと多くの生徒がカイス達を正義とし、ウィルノー達を悪と考えているからだろう。
まだ十分に身分の大切さを知らない学園の生徒達だからこそ、庶子なのに自分より優秀だからと異母兄に僻まれ邪険に扱われるカイスのような者に惹かれてしまうものだ。
おそらくそのイメージをカイスは意図的に作っている。
最初に気づいた時は無害そうな顔をしてよくやるものだと思わず感心してしまうほどに、彼はそんな事をするような人間に見せない事が上手だった。
味方であるエレノア達でさえ、それに騙されている。
だからこそ、彼は恐ろしい。
貴族…ましてや王族の妹にとって悪い噂は広まれば広まるほど致命的だ。
保守派の貴族もそれが分かっているからこそ既に負ける可能性の高いウィルノーの味方につくことはないだろう。
妹の戦いは厳しいものになると容易に想像できる。
しかしそれが分かっていても私は立場上、妹を守ることが出来ない。
王太子という名は私に名誉や権力を与えると共に、様々な枷を嵌めた。
だから私は妹にこんな忠告をすることしかできないのだ。
「アリスティア、くれぐれも死に急ぐようなことはするんじゃないぞ。」
「…ええ、もちろんですわ。
お兄様こそ、私ごときにつまづかないようにしてくださいませ。」
それは、何かあったとしても自分は捨て置いてくれということ。
私の立場と思いを理解した上でわざと不遜に言う聡い妹に心が揺れる。
なんてもどかしいんだろう。
私は去っていく妹の背を黙って見送った。
王太子である私にとって一番大事なのは国や国民である。
それが揺らぐことは一生ありえない。
だが、その次に大事なものを並べるとしたら?
女、美食、財宝、権力…それらを並べた国王は数え切れない。
しかし、私の大事なものはそんなものではなく、もっと得難いものだ。
王太子としてではなく、私自身が本当に大事に想う…高慢でいて、どこか不器用な私の片割れ。
それが失われることがないよう、今の私は切に願うことしかできない。
「兄をこんなに心配させるとは。
本当に、悪い妹だ。」
2人は男女なので二卵性ですが、髪の毛や瞳の色、目のつり上がった美形というのは国王である父親譲りです。
唯一タリオンだけが父親から赤い髪、母親から緑の瞳を受け継いでいます。
アリスティアがきつい感じのつり目のナイスバディ美人で、アーサーはクールな高身長イケメン細マッチョをイメージしてます。
タリオンは…全体的に甘い雰囲気の女たらしになるかも?笑