第五話 就寝
もう夜だ。
彼女は
「高校時代から何も変わっていないわね。あなたは」
と言った。そして
「私も何人も付き合ってきたんだけど、あなたのやさしさは今でも感じるわよ」と言ってくれた。そして
「結ばれたい」と言ってきたのだ。
その言葉に私は驚いた。今日、何年かの時を経て偶然出会ったのに、まるで昔から付き合いたいようなそぶりを見せたのだ。
「うふふ」と彼女が笑った。
そして結ばれた。
私は彼女に「ありがとう」と言った。そうして公衆便所を後にした。
そして眠くなったので寝袋を用意した。普段は寝袋と地面の間に段ボールを敷くのだが、それは1キロ離れた公園に置いてしまっているのに気が付いた。思わず
(そっか・・・段ボールがないのを忘れてた!)とつぶやいた。
公園のベンチで寝ることも考えたが、この公園のベンチは横になれないようにひじ掛けがついているので寝られない。私は彼女に
「段ボールを取ってくる」
と言ったが、彼女が
「段ボール、余ってるから使う?」
と言ってきたのでありがたく使わしてもらうことにした。
彼女は毛布を台車から取り出し、段ボールの上に敷き詰めた。彼女の寝具は毛布だけである。私は
「寒くないですか」と聞くと彼女は
「もう、慣れたわよ」
と答えた。
今日はさして寒くなかったが、彼女の寒さ対策に不安を感じて(これから冬を迎えるにあたって毛布だけじゃさぞかし暖かくないだろうな・・・でも少なくとも三年以上ホームレスで暮らしてるのだから慣れてるのかな・・・と思って)しまったのである。