第四話 彼女の秘密
彼女が取ってきた残飯を「調理」するという。
魚市場から近くの公園に移動してきた。
台車から荷物を降ろす。
その中にカセットコンロと網が入っていた。
これで魚を焼こう・・・というのだ。
彼女は手際よく魚をさばく。
さばいた魚を焼き始めた。
しばらくして魚が焼けた。すると同時に荷物から賞味期限切れのおにぎりが何個か出てきた。
今度はコンロの網を取り外し、鍋を出してきて、それに水を入れた。
これでおにぎりを煮込もう・・・というのだ。
味付けはおにぎりの具から染み出てくる味と少量の塩だった。
こうして今日のご飯ができた。
お茶碗は二つしかなかったが、私は自前の茶碗を持っていたので、おにぎりを煮込んんだ雑炊は無事三人分用意できた。
さぁ、食べよう・・・と思っていたら彼女が食べる前に小さな茶碗に雑炊と焼き魚を入れていた。
そして、大事そうに台車から取り出したものを立てていた。
なんと「位牌」である。
そばにあった石の上に位牌を立て、小さな茶碗に入れた食事を並べて祈り始める。
私は驚いた。まさか彼女の母親が亡くなっているなんて、信じられない思いだった。
彼女の母親とは高校時代に一回だけ会った事があるのだが、優しくて芯が強い方だったのを覚えている。
私が知る限り、高校生の時には親戚から煙たがれていることを彼女は言っていたようで、唯一の肉親を亡くした彼女は「天涯孤独」になってしまったのである。
私は彼女と一緒に祈ろう・・・と思い
「祈らせてください」
と言うと彼女は一言
「うん・・・」
と静かに頷いた。
お香代わりにシケモクに火をつけ、位牌の横にそっと置いて祈っていた。
その時、横から
「早く食べたい」
と彼が言った。
たまらず私が
「故人を偲んでいるから少し待って」
と、思わず言ってしまう。
私の心の中では
(なんて身勝手な奴だろうか)と思ってしまった。。
私も彼女も祈り終わったので、これでやっと食事にありつける。
彼女は位牌を大事そうにしまう。この位牌こそが彼女がここまで生きてきた「証」であるからだ。
食事が終わった。空はもう暗くなってきた。
(いい加減生意気な)彼は、
「量が少ないから(コンビニの廃棄の)食べ物を拾ってくる。お前、ついてくるなよ」
と言って、公園からいなくなった。それを見送った彼女は
「あたしね、彼がコンビニの前で廃棄の品を探したんだけど、もうみんな持ってったみたいで、私が取った(廃棄の)お弁当を渡したの。それから、もう三年の付き合いになるのよ。彼は天涯孤独で孤児院で生活してたのだけど、そこででいじめに会って、逃げるように路上生活を始めたのと聞いたわよ」
と、彼との付き合いを教えてくれた。
(なるほど、すさんだ生活で心が乱れたのが良くわかった・・・)
私はそう思った。
何も後ろ盾がない人は、自分を強く見せるためにとんがった態度を見せることがある・・・との話を聞いたことがある。彼がそうであると確信した。