第二十七話 新たなる生活。
こうして、アパートに入ることができた。
団体の人も
「今回は厳しめの人に当たったから、いつもより疲れました」
と言い、福祉事務所から1階へ降りてきた。
団体の人は、のどが渇いたようで、自販機で缶コーヒーを買う。
その缶コーヒーを私達2人におごってくれた。
飲み終えると「ほっ」とする。
これで、新しい生活の「リスタート」が切れた。
私たちは団体の人に
「ありがとうございました」
と頭を下げた。
団体の人は
「これが仕事ですから」
と言って、帰っていく。
そして数日がたった。
私達2人はアパートの契約を済ませ、鍵を受け取った。
ついにホームレス生活から脱却したのだ。
「結婚」と「住む家」が決まったことで、私たちを祝いに団体のリーダー格ら3人が来てくれたのである。
お祝いと言っても、特別な料理が出たわけでない。
質素だが、みな心からお祝いしてくれる、楽しい宴だ。
離れて暮らすおっちゃんと彼も来てくれた。
聞くと彼は「夜間中学」に通っているらしい。
おっちゃんは「清掃の仕事」で働くことが決まったみたいだ。
たいして広くないこの部屋に、7人もいるのは少し窮屈だ。
しかし誰も帰ろうとはしない。
日が暮れてきた。
団体の人は夜回りの準備があるため
「それでは失礼します。また来ます」
と言って去って行ってしまう。
おっちゃんと彼も帰る時間である。
しかし2人はまだ帰ろうとはしない。
おっちゃんは
「こうしてホームレス生活から脱却しても、こうして会えることが幸せなんだ・・・」
と。
そして
「いつかは4人一緒で飯でも食いたいな」
と言った。
彼も
「一緒に行きたい」
と言ってくれた。
「豆腐屋」で働きだした彼女の朝は早い。
いい加減寝る時間である。
私はおっちゃんと彼に
「ひとみさんは明日早いので、お開きにしてくれませんか」
と彼らに頼むよう言う。
おっちゃんと彼も
「こっちも明日は早いので帰ろうかな」
と言って立ち上がる。
今日の夜間中学は休みである。
しかし、豆腐屋は開いている。
彼女は
「まだいてもいいから」
と言うが心の中では
(これ以上起きてると明日の仕事に支障が出るかも・・・)と思っていた。
おっちゃんはそんな彼女の遺構を汲んだのか彼に
「もう帰ろう」
と言って彼に帰宅を促す。
それを聞いた彼は
「わかった」
と言い立ち上がる。
おっちゃんらは
「また会いに来ますから」
と言って、帰っていった。
そして、部屋は2人だけになった。
2人は布団をして横になる。
翌朝。
とはいっても早朝より深夜と言っていい午前2時30分。
彼女が豆腐屋へ向かうべく準備をする。
数日前に髪をカットしてもらいショートヘアになってイメージが変わったように見える。
彼女は、熟睡してる私に
「行ってくるからね」
と、そっとつぶやく。
そして「彼女の母親の位牌」に向かって線香をあげて祈る。
その後、玄関の鍵を閉め、中古の自転車をこぎだして豆腐屋さんへ行く。
10分ぐらい自転車をこいだだろうか。
豆腐屋に到着する。
彼女は豆腐屋の主人と妻に
「おはようございます」
と挨拶する。
豆腐屋の主人は
「彼は大丈夫かい?」
と問いかけたので彼女は
「だんだん体調がよくなってきています」
と答える。
すると主人が手を動かしながら
「それは良かった。早く回復するといいのにな」
と言ってくれた。
彼女は嬉しそうだ。
そして豆腐を作る手伝いを始めた。
豆腐作りは大量の水を使うため、結構重いものを持つことが多い。
しかし彼女はへこたれないで、淡々と作業をこなす。
そして豆腐が出来上がった。
あとは売るだけである。
彼女は主人に
「朝早くからご苦労さん。仮眠してもいいよ」
と言われ、2階の部屋に案内される。
彼女は眠いのか、すぐ寝てしまった。
一方の私は、朝8時に起きた。
起きてすぐに「彼女の母の位牌」に線香をあげ、お祈りするのが日課になった。
先にあげた彼女の線香は、まだ燃え尽きてない。
選考の香りが心地いい。
今日は「医者」に行く予定である。
その前に朝食をとる。
今日のメニューは卵かけご飯である。
一気に食べ終わると、身支度をして、歯を磨いてから出かける。
天気予報は午後から雨だった。
私は雨合羽を着て、長靴を履いて出かける。
長靴を履くと、ふとおっちゃんの事を思い出す。
初めて出会ったことや、一緒に残飯を漁りに行ったこと、そして今履いている長靴がおっちゃんが拾って来たものだったので余計にあの頃が懐かしくなった。
(おっちゃんは今頃どうしているのだろうか・・・)と心配する。
今度生活費が支給されたら電話を買うつもりだ。
「万が一」の連絡用として役に立つ。
そして、おっちゃんや彼と連絡するつもりだ。
そのためには、働かないといけない。
それにはまず「自分の体」を働けるように治療しないといけない。
病院の治療を受けて。
私は病院へ向かった。
電車に乗ると同時に雨が降ってきた。
最近の天気予報はよく当たる。
目的地に着いた。
いつの間にか外はザーザー降りの雨になっていた。
診察待ちの間につい最近買った本を読む。
「人権派弁護士の闘い」という、ノンフィクションの本だ。
結構読みごたえがある。
その本を2~3ページ読んだ所で
「松田さん、中へどうぞ」
と呼ばれる。
診察結果は
「徐々に回復しているが、まだ働けるまで回復していない」
とのことだった。




