第二十二話 地獄のような生活
顔の知らない人ばかりが集められている。
6人のうち、近くに座っていた1人が
「あんたらもあの男に誘われてきたのか?」
と聞く。
おっちゃんが話し始める。
「そうだ。実は行きたくなかったが、いろいろと理由があって・・・」と話しかけたその時
「お互い理由があるが、話さないのが関の山」と言って横になった。
おっちゃんが彼に
「こんなことになって済まない」
と謝った。
彼は黙っていた。と同時に「施設」に入っていたことを思い出していた。
そして程なく男が弁当をもって戻ってきた。
「ほれ、飯だ」
と言いながら弁当を玄関に置いた。
みんながまるで犬のように集まってくる。
弁当を取りまた元居た場所へ戻る。
この部屋にいる人たちの表情は沈んでいた。
何とも言えない空気が部屋を包む。
皆来ている服はホームレスをやっていた時と同じで、汚れてくすんでいる。
もちろん彼らも着替えていない。
普通、アパートに入る時「替えの服」を用意しててくれるのだが、ここは用意してくれない。
「ピンハネされた保護費」から買え・・・というのだ。
おっちゃんはいくらもらえるのか聞いてみた。
2~3万円もらえるのが関の山だ。
彼らにとって、十分「大金」のはずだが、ここは勝手に外出すると怒られるらしい。
基本的に「自由」がないのだ。
彼は
「俺が(途中まで)いた施設より酷い・・・」
と、小声で話す。
続けて彼が
「何とか抜け出せる方法はないのか」
とおっちゃんに言う。
その時、別の人が
「おい新人、タバコ持ってないか?」
と怒鳴ってきた。
おっちゃんが
「持ってないです」
と言うとその人が
「嘘言うな!保護費貰ったんだろう」
と怒鳴り返す。
おっちゃんは
「本当に受け取ってないんです」
と言ったが信じてくれない。
するとその人は立ち上がり、おっちゃんに襲いかかった。
すかさず彼が止めよう・・・とする。
その人は
「そこをどけ」
と言って彼を振り払おう・・・としたその時
「うるさい」
と言ってその人を黙らせた人がいた。
黙らせた人こそ、さっきおっちゃんと話した人だ。
襲いかかってないほうのその人は静かにひそひそ声で語る。
「こんなところは早く抜け出したほうがいいのだが、金を握ってるから、逃げ出そうにも逃げらせないんだ」
と。
おっちゃんは
「ではどうすれば・・・」と聞いた。
その人は
「何もできないからじっとしてるしかないんだよ」
と、ため息交じりに話す。
その時彼は
「逃げられないのか。耐えるしかないな・・・」とつぶやいた。
こうして一日が終わる。
彼らは無造作に敷かれたせんべい布団に寝転がる。
確かに部屋は寒くはないのだが、3DKの部屋に8人も寝るのは多すぎる。
おまけにいびきがうるさくて眠れない。
一睡もできぬまま朝が来た。
玄関の鍵が開いて、男が弁当を持ってきた。
「朝飯だ。食え」
と一言いてまた消えた。
朝食はコンビニのおにぎり2つだけだった。
早速配分でもめる。
昨日おっちゃんにタバコを持ってないか聞いた人である。
その人は3個食べようとしたのだ。
そして一番取りやすいおっちゃんのおにぎりが取られた。
その人は
「文句あるか」
と言い、食べだした。
おっちゃんのおにぎりが1つだけになったので、彼は半分分けてくれた。
しかしおっちゃんは
「こんなところに連れていたわしが悪いのだから食べる資格がない」
と言って、受け取ろうとしない。




