第十六話 病気なのに医者に行かない
医療班の医師はまず私に症状を聞いた。
私は
「最近食欲がなくて、食べたものを吐き出す時があるんですよ」
と言った。
医師はそれを聞いて、鞄から聴診器を出して「上半身を見ます。来ている服を脱いでください」と言った。
私は指示に従い、服を脱ぐ。
たくさん着込んでいるので時間がかかったが、上半身裸で聴診器を当てる。
外で裸のため、私は寒く感じた。聴診器の金属の部分が当たると「ヒヤッ」とする。
そして右腕に血圧計を取り付けられ、血圧を測定する。
数値は低かった。
そして医師の診察結果が出た。
「これは胃と肺に異常がありますね。入院をおすすめします」
と言われた。
彼女は(やはり、無理していたんだわ・・・)と思い、おっちゃんも思わず
「休んだほうがいいな」と口走った。
私は
「お金がありませんからなるべく路上で養生します」
と言って、入院を回避する態度をとった。
しかし医療班は
「生活保護を使えば無料で入院できますよ。生活班に繋げておきます」
と言って最初に来た人たちを呼び止めよう・・・としたが、すでにいなくなっていた。
私は
「なるべく生活保護は受けたくありません」
と言い返したのだが、本心は別にあった。
それは「おっちゃん達3人と別れたくない」と言う思いだった。
私の気持ちを微妙に感じ取ったおっちゃんと彼女は
「ここは自分の体調を考えて」
「入院したらお見舞いに来るから」
と、入院をするよう説得を始めた。
しかし、私は(ここで分かれて1人で入院すると、絆が切れるのではないか・・・と)思い
(なるべく踏みとどまりたい)とも思って、今入院を回避する方向で決めていたのだった。
私は服を着終わると、医療班が困惑していた。
生活班と連絡が取れないのである。
すでに別の場所へ移動したみたいで、ここにはいない。
生活保護の申請は生活班の役割である。それがなかったら入院が難しくなる。
医療班は仕方なく、薬を渡して、診断書を書いて
「もし病院に行こうという気になったらこの診断書を見せてくださいね。来週の夜回りの時は来ませんが、生活班に報告しておきますのでその時に生活班と相談してください」
と言い、立ち去った。
彼は
「入院するの」
と聞いてきた。
それに対して私は
「しないかもしれない」
と答える。
彼はなぜ、入院するか聞いてきたが、私にはわからなかった。
しかし彼は「施設暮らし」が長く、施設内でいじめられた経験から、退院後施へ移動させられるのが心配だったからだ。
私は
「そうか。木崎君は施設育ちだったんだね」
とつぶやいた。
彼は
「そうだ。思い出したくもないけどな」
と言う。
そう言い終わると彼は寝てしまった。
おっちゃんと彼女は心配そうに私を見つめる。
彼女は
「死んでほしくないから早く医者に行って」
と言うが、私は
「人間は簡単に死なないから大丈夫だよ」
と言葉を返した。
もう夜も遅きなってきた。
すでに寝ている彼以外の3人も寝ようか・・・としていた。
その時、私の気持ちが悪くなったのだ。
幸いにも吐かなかったが「入院が必要」との医療班の指摘は当たっていた。
私は黙ったまま寝袋に入る。
この日は、なかなか寝付けない。
このとんでもない気持ちが、私の睡眠を妨害しているのだ。
翌朝。
私は浅い眠りの中から目覚めた。
おっちゃんら3人も目覚めていた。
昨日は食事を取りに行ってなかったので、量が少なくなってきた。
私の体調は相変わらず悪い。
薬を飲んだが気分に変化はなかった。
そして今日もおにぎり一個食べるのが限界だった。
彼女は
「無理しないで寝てなさい」
と言う。
私はその言葉に甘え、寝袋を片付けずに再び横になった。
しかし眠れない。
そうしているうちに喉が渇いてきた。
立ち上がり、洗面所に向かうその時、おっちゃんが
「喉が渇いたのか。これを飲むといい」
と言って、未開封の缶コーヒーを渡された。
私は起き上がり(どうやって手に入れたんだろう?)と思いながらも
「ありがとう。いただきます」
と言ってそれを飲みだした。
一気飲みするとくしゃみが出る。
くしゃみの力でコーヒーが飛び散る。
飲み終わった後おっちゃんに
「これ、どうやって手に入れたのですか」
と聞いた。
するとおっちゃんが
「自販機の取り出し口に会ったやつだ」
と答えた。
私は
「毒入りかもしれませんね。あはは」
と笑い飛ばしたためおっちゃんが半分あきれ顔で
「今度毒見しようか?」
と言ってきたので
「冗談ですよ。冗談」
と返事した。
すると
「少しは元気が出た・・・かな?」
と言って私の横に座った。




