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家族みたいなホームレスたち  作者: びでばき
やはり家族にはなれない?
14/30

第十四話 元居た公園へ戻ったが


 そして、最初の公園に着いた。

 まずは、食事である。

 メニューは、いつもの料理である「(廃棄された)おにぎり煮込み」だった。

 この公園には噴水があるが、水飲み場がなく、公衆便所の手洗い場から汲んでくる。

 おっちゃんと彼女が汲みに行く。

 そこで、問題発生である。

 彼女が使っている1,5リットルの容器が洗面台に当たって蛇口から水が漏れてしまう。

 それを見ていたおっちゃんが

「噴水の水を汲もう」

 と提案したのだ。

 彼女は

「こんなことになるなんて・・・来るんじゃなかった」

 と怒りをあらわにした。

 そしておっちゃんに

「噴水の水は飲めるの?」と聞いた。

 おっちゃんは一言

「もちろん。わしは毎日飲んでる」

 と言って彼女を移動させた。

 水を汲み終わった後、私のもとへ帰ってきた・・・が、何か違和感を感じる。

 彼女は機嫌が悪い。

 こんな彼女を見るのは久しぶりである。

 それは高校時代にさかのぼる。

 高校の修学旅行でいじめられて反発していた時以来である。


 高校卒業後のの彼女の事は知らない。

 しかし、おそらく困難な人生を歩んできたのは確かである。それだけは私が感じとれる唯一の点である。

 私はその様子を遠巻きに見ながら、シケモクを曇らせていた。

 おっちゃんと私は喫煙者である。しかし、タバコを買うお金がないため、シケモクを拾うしかない。

 しかしおっちゃんは、シケモクをあまり好まないようで自販機の下などを(のぞ)いて何とかたばこ代をねん出しよう・・・としていたのだった。

 私がシケモクを吸い終わると彼女がタバコを吸いだした。

 これにはちょっと驚いた。彼女は喫煙者だったのだ。

 高校時代は他人のタバコの煙を吸うと、くしゃみをしてしまうくらいタバコが苦手だったのに、17年間でずいぶん変わってきたな・・・と感じた。

 私はおっちゃんに

「何かあったのですか」

 と聞いてみた。

 そうするとおっちゃんは

「水が汲めないから急に不機嫌になったんだ」と、信じられない表情で私に話した。

 それを聞いた私は、すぐさま彼女のそばに行って

「ここまで気が付かなかった。すまない」

 と謝った。

 それに対して彼女は

「私も少し悪かったわ。ごめんね」

 とお互いの非を認めるように言った。

 きょう1番目の飯は「コンビニの(廃棄の)おにぎりを煮込んだもの」だった。

 彼女はいつも通りに鍋を出す。

 そして先ほど汲んできた水を入れ、おにぎりのご飯と具を入れ、少量のしょうゆと塩を入れて煮込む。

 食事ができた。

 彼女は昨日、興奮して忘れていた「位牌」を取り出し、亡き母に食事をささげる。

 彼女と私は祈る。

 おっちゃんはこのことを知らなかったようで

「あら・・・ご冥福をお祈りします」

 とつぶやいた後、一緒に祈る。

 彼は黙ってそれを見ていた。相変わらず祈らない。

 それを知ってか彼女は(木崎君はなぜ祈らないのだろうか・・・と)思った。

 私は相変わらず食欲がない。

 今日も茶碗半分ぐらいの量しか食べれなかった。

 その様子を見て彼女は

「大丈夫?」

 と聞いてくる。

 私は

「何度も心配かけてすまない」

 と、後ろめたさを感じて答える。

 彼女は言う。

「何回もって・・・まだ2回目じゃない」

 と。そして

「お金があったら病院に行けるのに」

 と言う。

 私はこう答える。

「病院なんて大げさな・・・」

 と。すると彼女は

「まだホームレス生活に体が慣れきってないからよ。無理してるんじゃないの?」

 と尋ねてくる。

 私はその返答に困った。彼女の意見はおおむねあっているからだ。

 彼女は

「図星でしょ。返答に困っているのがその証拠よ」

 と強い口調で言う。

 私は半分怒りながら

「無理していないよ」

 と言う。

 彼女は(言いすぎたかな・・・?と)思っていたのか、私に

「私も経験があるけど、その時はじっとしているのが一番よ」

 って、謝るように言ってくれた。

 それを聞いた私は複雑な気持ちになった。

 確かに「慣れてない」のはわかっているが、それをどうする事も出来ない訳で、こんな私自信が情けなく感じて気持ちが余計に落ち込んでしまった。

 しばらく彼女の言うように横になった。

 しかし、気持ちはもやもやした気分だ。

 それを見ておっちゃんは、ふらりと出かけてしまった。

 こんな私を見て彼は

「何ごろごろしてるのだ?早く起きないと」

 と言われた。

 私は

「しんどいからかまってくれなくで」

 と彼に言う。

 彼は何か言いたそうだったが、彼女に

「松田君はしんどいから、そっとしてくれない」

 と言われてしまったため黙ってしまった。


 そうしてるうちに、おっちゃんはタバコを拾って戻ってきた。

 しかも、新品が2つもあったのだ。

 そのうち1つは街で配られた「試供品」で、もう一つは誰かが封を開けた状態で落としてしまったもので、20本のうち16本が新品として入っていたのだ。

 実は彼もタバコを吸うようで、新品のタバコに一同興奮していた。

 私は久しぶりに新品のタバコを吸う。

 やはりシケモクとは違い満足な水ごたえだった。

 公園の中は禁煙である。

 しかし、守っている人は少ない。

 私は「禁煙」の看板の目の前でタバコを吸ってることに対して罪悪感を感じた。

 しかし、彼ら3人に禁煙を呼びかけることはしない。

 服から携帯灰皿を出そう・・・としたその時、破れたポケットの中から携帯灰皿がストンと落ちた。

 私はそれを拾おう・・・としたが、体を曲げると痛みが走る。

(やっぱり体に異変を感じるな・・・)

 そう思ったのは、彼女の「ホームレス生活に体が慣れきってないから」という言葉が身に染みたのだ。

 私は吸い終わったタバコを携帯灰皿に入れた。


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