特別な存在
ネットは便利な物だ。全く知らない人とでも同じ趣味が合う人を見つける事も出来るし、株や買い物だって出来る。勿論良い所も有れば悪い所も有る。詐欺やウイルスなど様々なデメリットも存在している。それでも人々はネット環境を受け入れ日常生活を歩んでいる。
奴等が現れた日からネットに縋る人々は一気に増えた。パソコン、スマホから助けを求める声は多数出ている物の殆どは無視されている。何故なら誰もが同じ状況だからだ。誰かを救う前に自分の命である。
しかし世の中には命知らずも居る。この状況を楽しみ動画サイトに自身の武勇伝を披露したり、奴等に対する実験など一週間も経たずに多数の動画が出ていた。
そんな中、一本の動画が投稿される。自身の紹介も無ければ面白い内容も無い。唯、街中を歩いてるだけの動画だ。だが奴等が近くに居るのにも関わらず音を立てながら歩いてるのだ。その音に引き寄せられるかのように奴等は追い掛けるが、撮影者には襲い掛かる素振りは無い。
動画は十分程度で終わってるが、その内容はどの動画よりショッキングでインパクトがあった。結果として動画をアップロードしてから一時間程度で上位に食い込む事になったのだった。
120:サバイバリストスレ主
今日動画を投稿したよ。大体こんな感じだな。
サバイバリストスレ主の散歩
http://××××.××××.×××
121:サバイバリスト名無しさん
これマジ？スレ主ヤバくね？普通音出した時点で死ぬし。
122:サバイバリスト名無しさん
スレ主が救世主になる一歩手前と見た。
123:サバイバリスト名無しさん
と言うかサバイバリストスレ主の散歩とかwwwまんま此処の名前じゃんwww
124:サバイバリストスレ主
>>123
名前考えるのが面倒でな。
125:サバイバリスト名無しさん
でもこの動画凄いな。あんな近くに居ても襲われ無いとか。音には反応してるのにスレ主ガン無視かよ。
奴等に嫌われる事したん？
126:サバイバリスト名無しさん
でもこんだけアピールしたんだから何処かしらからの研究施設から連絡は来るんじゃない？そうしたらスレ主は間違い無く救世主だよ。
127:サバイバリスト名無しさん
唯、国営機関の場所だけにしとけよ。他の場所なんて信用出来るか怪しいもんだし。
128:サバイバリストスレ主
動画のコメント欄がヤバすぎ。一気に増えてる。然も救助の内容が大半だよ。
助けてあげたいのは山々だけど物理的に無理だよ。
129:サバイバリスト名無しさん
パシリだけならまだしも、奴等を片付けて来いとか言われそうだな。
コメ欄見たら同じ内容有るわwww
130:澪たんファン3690
此処がサバイバリストスレ主がいる場所か。
頼む！澪たんを助けてあげてくれ！昨日からツインから連絡が無いんだよ！
131:サバイバリスト名無しさん
うわー、早速来たよ。もう諦めろよ。俺も知ってるけど澪たんはもう死んだと思えよ。
132:サバイバリスト名無しさん
正直どうでも良い。それよりスレ主さんはこの後どうするんですか？
133:サバイバリストスレ主
>>132
多分然るべき場所から連絡は来るだろう。その時に血液だけ渡しとくよ。
あ、でも俺の血液は参考になるのかな？実は俺の血液型が結構希少なんだよなぁ。
134:サバイバリスト名無しさん
>>133
ええー！？此処に来てそんなオチは要らんよ！
135:サバイバリスト名無しさん
>>133
おいおい。勘弁してくれよ。
136:サバイバリスト名無しさん
>>133
本当に頼むよ！抗体は全員に効果が無いと意味無いんだぜ。
137:澪たんファン3690
そんな事より澪たんだよ！今でも奴等に囲まれてる場所に居るんだよ。
場所は上坂中央ドームの倉庫の中だ。
頼む！澪たんを助けに行ってくれ！
138:サバイバリスト名無しさん
>>137
お前しつこい。良い加減にしろよ。
139:サバイバリスト名無しさん
>>137
どうせ澪が消えたら新しいアイドルに鞍替えするんでしょう？だったら別に無理に助ける必要無いじゃん。
140:サバイバリスト名無しさん
>>137
自分で助けに行けよ。スレ主をパシらせるとかお前何様だよキモオタが。
「上坂中央ドームか。行けない距離じゃ無いよな」
俺は考える。今や国民的アイドルグループで一番人気の西蓮寺 澪。彼女は魅力的であり圧倒的なカリスマを持ち合わせている。仮に彼女を助ける事が出来れば俺の存在は益々話題に上がるだろう。
それに人気絶頂の彼女を助ければ、生きてる人達は俺に対し好意を持つ筈だ。そうすればモルモット扱いをされる可能性は低くなるかも知れない。動画のコメント欄は相変わらず助けを求める声、罵声、果てには宗教勧誘まである。
更に蛇足だが俺は彼女達SMMグループのファンでもある。と言ってもCDとかを買う位で握手会とかは行った事は無いけど。運が良ければ他のSMMアイドルの人達と会えて無料で握手出来るかもしれん！
己の欲望を抱きつつ俺は再び外出する準備をする。今度は少し遠出をするからしっかりと準備を整えて行く。武装は相変わらずフライパンだが、道中でマシな武装を手に入れたい所だ。
そして準備を整えた俺は再び外に向かうのだった。
……
上坂中央ドームは電車で行けば15分位で行ける。なら今回はバイクで行こうと思う。音が鳴るから奴等を引き寄せてしまうが代わりに速く移動する事は出来る。
「早速行くか。唯音を立てる以上、徒歩より危険度は増すな」
ヘルメットを被り直しバイクに跨る。因みに今回からタオルと油は止める事にする。タオルは奴等を引き寄せ無い為だったが襲われる様子が無いのでやめた。油は毎度毎度洗うのが億劫でな。
バイクのキーを回しエンジンを掛ける。ハードな扱いしてるバイクは健気にも快調なエンジン音を出す。
「途中でガソリンスタンドに寄らんとな。もうガソリンが無いや」
バイクを走らせ上坂中央ドームへの道順を思い出しながら走る。国道へ出ようとするが車の玉突き事故で多数の車が停まっていた。その中には奴等がチラホラ居るのも確認出来た。
よって国道より離れた生活道路を走って行く。道路には所々誰かが倒れてたり血塗れの車が停まってる。近くの公園を通る時、小さな人影が多数見えた。だがアクセルを捻りスピードを上げる。本来なら近所の人達の憩いの場所。だが今はそんな場所とは程遠い場所になっている。
「本当、なんでこんな事になってるんだろうな」
俺の呟きはバイクの音によってかき消される。この状況に対してネットでは、何処かの国の生物兵器とか陰謀論が主流で流れてる。だがそんな物に意味は無いのだろう。誰かの所為にして怒りの矛先を向けたいのだろう。
俺は誰よりも運が良いのだ。奴等に襲われ無いからこそ達観した考え方が出来る。尤も、この幸運がいつまで続くか分からないが。バイクを走らせながら少しだけ感傷に浸ってしまうのだった。
