私立高鷲学院4
夕陽に照らされてる教室の中は沈黙が支配している。誰一人として動こうとする者は居ない。誰かが生唾を飲み込む音が大きく聞こえる。
「残念だよ。此処まで来て君に出会う事になるとはね。本当に残念で仕方ないよ」
「あの時は仕方なかった。ああしなきゃ俺達が死んでた。だから…」
「やるならやるで生かして帰すのは間違いだったな。結果こうなってるからね。俺も今後こうならない様に気をつけるとしよう」
「俺を…殺すのか?」
相澤の質問に無言で頷く。
「当たり前だろ。今後の憂いを無くす。現に君はミスをしたから今から死ぬ事になってる。今の俺が同じ轍を踏む奴に見えるか?ん?」
相澤は恐怖に怯えて後退りする。俺はゆっくりと一歩ずつ足を踏み出し相澤を追い詰めて行く。
「安心しろ。俺は奴等にも生きてる人にも銃で撃って来た。今更学生1人を殺す事に躊躇なんてしない。しては駄目なんだ。したら今度は俺が死ぬからだ」
最後の言葉は自分に言い聞かせる様に言う。相澤が後ろのガラス窓に打つかる。俺は相澤の胸辺りに狙いを付ける。今や相澤の激しい息遣いしか聞こえない。
そして引き金に掛かる人差し指に力を入れた瞬間、1人の生徒が相澤の前に立つ。
「あの!その…俺、俺も同罪です!相澤がバットで殴った後そのまま貴方を見捨てました!だから、だからごめんなさい!」
男子生徒が相澤の前に立ち俺に向かって謝る。更に続けて気弱そうな男子生徒も続く。
「ぼ、僕も貴方を見捨てました。本当にごめんなさい。ごめんなさい…ごめんなさい!!」
「西岡、加藤…俺だけだ。俺一人がやったんだ。此奴らは関係ねえ」
「馬鹿野郎!!俺達は仲間だろうが!!仲間を見捨てる程俺達は薄情じゃ無い!確かにお前は色々勝手してるけどな。それでもな…俺は何回もお前に助けられてんだよ」
「そうだよ。僕達は仲間だよ。だから僕達は相澤君を見捨てないよ」
「お前ら…馬鹿野郎共がよ」
彼等の間にはこの過酷な世界を生き抜いてこれたからこそ作られた確かな絆が出来ていた。以前ならお互い無干渉でいた関係だった筈だ。だが今は違う。仲間を越えた戦友とも呼べる存在が彼等の間には出来ていたのだ。
そしてそんな固い固い友情を見せ付けられた俺はと言うと。
(別に本当に撃つつもりは無いけどさー。精々ビビらせまくって半泣き姿でも拝んでやろうとは思ってたけどさー。こう、何て言うの?仲間との深い友情の絆を見せ付けられるとかさー。俺って一体何なんだよ。アレか?引き立て役か?)
大体元はと言えば此奴ら悪いんではなかろうか。なのに教室の空気は相澤達の友情パワー一色だ。これで退かなかったら完全に俺悪者じゃん。
だったら最後に一発ぶちかましてやんよ!
「そうかそうか。じゃあ全員横に並べよ。一発で仕留めてやんよ。無駄弾を使いたく無いしな」
するとどうだろうか。他の生徒達もゾロゾロ並び始めるではないですか。
「お前ら…何で」
「アンタが死んだら多分私達も遅かれ死ぬし。だったら今死んでも変わんないわよ」
「何気に相澤がこの中で一番多く食べ物持って来てるしな」
「それに俺達は仲間だろ?」
「たっくよ。本当に…お前ら馬鹿ばっかだな」
何青春してんだよコノヤロー。巫山戯やがって。
「素晴らしいよ。本当に素晴らしい友情だよ。だったら纏めてSAYONARADA!」
レミントンM870を大袈裟に動かす。そして銃口を相澤に向けて。
「バアアァァン!!!」
大きな声を出す。すると相澤達は目を閉じてビクッと体を縮こませる。中には男子が隣の女子に抱き着きそのまま倒れるし、後ろに居る奴を巻き込み倒れる連中も居る。
そして元凶でもある相澤君と目が合う。レミントンM870を肩に担ぎ言い放つ。
「さっきの貸し一つはコレで終わりだな。良かったな。俺に貸し作っといて」
そう言って俺は教室を出て行く。それから少し廊下を歩くと教室から女子の悲鳴とビンタする音が聞こえる。多分押し倒された女子が男子に向かって引っ叩いたんだろう。
「はぁ。本当にやれやれだよ」
俺は賑やかになった教室を後にして別の空き教室を探すのだった。
……
あの後、相澤達が再びやって来て謝って来た。俺はそんな彼等にもう良いと軽く言いながら一言だけ忠告した。
「今回だけだからな。二度目は無い」
その言葉に相澤達は神妙な表情でしっかりと頷いてくれたので良しとしよう。
結局適当な教室に泊まる事になった。幸い他の生徒が空気を読んでくれたのかサッサと出て行ってくれて誰も居ない状態になった。
教室の窓から見える景色は街の灯りがあり、まるで今迄と同じ様に普通に生活している様に見える。だが下を見ると奴等が月明かりに照らされ呻き声を上げながら彷徨っている。正に学校の怪談状態だ。
因みに第一校舎の方だけ明るくなっている。理由は語るまでもないだろうが。簡単に言うなら誰も消灯出来ないだけだ。
「備蓄が第一校舎にあるねぇ。あの生徒会長もタチが悪いぜ。きっと俺が簡単に見捨てる性格じゃないのを見抜いてたに違いない」
でなければ備蓄の事を話す事は無かっただろう。確かに銃を持ってるし扱える人間は貴重だ。だが全てを解決出来る力は無い。更に言えば銃声は奴等を引き寄せる諸刃の剣だ。
「本当、奴等に襲われない立場で良かったよ。お陰で沢山の人を救えた訳だし」
上坂中央ホールや高鷲警察署の出来事を思い出しながら独り言を呟く。あの華々しい救出劇は間違いなく今後映画化されたらノミネートされるだろう。まあ、主役はイケメン俳優に入れ替わるだろうけど。
暫く明日の事で色々考えているとドアがノックされる。
「どうぞー」
特に拒む必要も無いので許可を出す。するとドアから2人の人影が現れた。そして此方に近付くと月明かりで正体が分かった。
「美由紀に小夜か。こんな夜更け…とまでは言わないが。どうしたん?」
「…えっとスね。何て言ったら良いんスかね」
「あー、私もどうしようかなって思ってるんですけど」
「いや俺に聞かれても困るよ」
タハハと軽く笑うギャルっ子達。それから少し間を置いて聞いて来た。
「相澤達と何かあったんスか?何か妙に連帯感的なのが出来てたんスけど」
「んー、まあ有ったには有ったな。けど一応解決はしたよ。後は無駄に熱い友情を見せ付けられたけどな」
「熱い友情?富田の左頬のビンタ跡にも関係が?」
「んー、まあ有ったには有ったな。唯、富田君かな?ラッキースケベだったとしか言えんな」
「ラッキースケベですか。何が有ったんですか」
「色々だよ。色々な。それで聞きたいはそれだけか?確実なのは相澤達に聞いた方が早いぜ?」
すると美由紀と小夜は顔を見合わせて頷く。何なんだ?
「あのですね。その、私達を助けて欲しいんス」
「勿論タダで助けて欲しいんですけどね。流石に無理かなって思いましでね」
「いやまあ、今その事で色々考えててな」
「だったら丁度良いっスよ」
「丁度良いって何が?」
俺は美由紀と小夜を見続ける。すると何故か制服の第2ボタンを外し始めるではありませんか。更に手は止まる事なく次々とボタンを外して行く。
俺は余りに非現実的な光景を目にして完全に止まってしまう。
「その、前払いみたいな感じでですね。私達でどうかなーて思いましてね?」
「ほら慧さんの好きなギャルの生着替えっスよ?それに慧さんなら良いかなって思ってるんスよ」
余りの急展開に俺の思考は完全に止まる。目の前で起きてるストリップショーは本当に起きてるのか?それともコレがラッキースケベなのかと。
動けない自分を放ってその間に制服に手を掛け続けるギャルっ子達だった。




