表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Z of the Day  作者: 吹雪
37/38

私立高鷲学院3

「祖父はこの学院の理事長をしております。私がこの学院に入学すると知った祖父は私財を投じて様々な施設整備を行いました。その中には災害用の備蓄などもあります。有事の際には高鷲家の権限で使用出来る様にと」


「つまり其処にある備蓄を使えば生き残れると?」


「少なくともこの地域の人々を三日程飢えさせない程度にはと記憶してます。しかし現状では私達しかいません。少なくとも数ヶ月は生き延びられるかと」


更に非常用の発電機も備えており停電対策も万全だと言うのだ。葵さんの話を聞いて一つ気になり質問をする。


「それで備蓄は何処に?今使ってないと言う事は使えない場所にあるって事か?」


「…そうです。鍵は私が持っています。しかし場所に問題があるのです」


場所は第一校舎の備品室だ。しかし第一校舎は奴等が多数占拠しており取りに行くのは現状では不可能だった。更に奴等の中には生徒や教員らしき人物も居る。いざ学友や先生を倒せるかと問われれば躊躇する者もいるだろう。そして躊躇してる隙に襲われたら元も子もない。


「ですので遠距離からなら多少はマシになるかと。己の手で直接倒すのとでは幾分は精神的に楽でしょう」


「まあ確かに。因みに遠距離用の武器はあるの?」


「あればもう実行しているんですけど…」


此処まで八方塞がりな状況でありながら生き続けているのはある意味関心する。人を導く手腕が高いと言う事なのだろう。


「遠距離武器と言うと弓とかアーチェリーか。後は手投げ?」


「そうです。幸い弓道部、アーチェリー部の生徒は何人か居ます。後は砲丸投げの生徒が1人ですね」


「砲丸投げねぇ」


別に手投げを馬鹿にする訳では無いよ?でもねぇ、現実的に考えて物を投げた所で奴等を倒せるとは思えないし。それに俺自身協力するとは言って無いけど。

そんな考えが表情に出たのか葵さんはワザとらしく手を目元にやり呟く。


「勿論織原さんに協力して欲しいと思っています。ですが拒否して頂いても構いません。代わりに私達は全員野垂れ死ぬだけですから。お父様、お母様申し訳ありません。私は誰一人救う事なく散って行きます。どうか先立つ親不孝者をお許し下さい。よよよ」


「その言い方やめてよ。俺が完全に悪者になっちゃうじゃん。そして嘘泣き下手だな」


先程までの凛々しさは無く、唯の大根役者が其処に居たのだった。


……


結局俺自身の答えが出ないまま話は終わった。そして外は夕方になっていた為学院に泊まって行く事を勧められた。だが俺は今学院に泊まる事を少しだけ後悔していた。


「外はやっぱり危険ですか?大分静かになってると思うんですが」


「南高下町の方に家族が居るんです。連中は居ますか?」


「警察はどうして助けに来てくれないんですか!私達はいつまで此処にいないと行けないんですか!」


「家に帰りたいんです。お願いします。家まで送って行って下さい」


生徒会室から出て少しだけ他の教室の様子を見に行ったら次々と生徒達に囲まれてしまった訳だ。

俺だって人恋しい時はある。美由紀と小夜のギャルっ子達との会話は楽しかったし何だかんだで助けてやりたいとは思う。けど誰かを助ければ不公平だと言われる。近くに居るから助けるべきだと言われる。現にユーツーブ、某掲示板のコメントにはそう書かれてる。幸いツインには何も書き込みしてないから来てないけど特定されそうで少し怖い所もある。

皮肉な事に今の俺にとって奴等より生存者の方が厄介になりつつあるのだ。だからこそだろう。早く北海道に向かい血液を提供して然るべき処置を行って貰うのだ。勿論必要な機材や道具を取って来て欲しいと言われれば喜んで取りに行こう。それで世界が救われるなら安い物だ。


「えっとな。取り敢えず落ち着いて聞いて欲しい。今外に出るのは危険だ。確かに奴等の数は減っている。けど居ない訳じゃないんだ。物陰や民家の中に潜んでる可能性は高い。だから」


「だったらその銃で倒して下さいよ!本物なんでしょう!」


「銃を使えば奴等が寄って来る。そして生存者も寄って来る。その生存者が悪人の可能性だってあるんだ」


「じゃあ警察は?高鷲警察署は安全だってMSSアイドル達が言ってました」


「警察も現状維持で精一杯なんだ。彼等も好きで民間人を見捨てた訳じゃない。助けたくても助けれないから出来る事をやってるんだよ」


「…レミントンM870だ。本物だよ。然も少し改造されてるっぽい?うん。凄いなぁ」


「そうだよ。装弾数は5発。完全に違法物だ。けど生き残る為には必要な物なんだよ。分かってくれ」


次々と質問や助けを乞う声を聞いては答えて行く。しかし学生達は止まらない。徐々に囲いが増えて行く。それどころか銃を寄越せと言ってくる始末だ。

ゆっくりと後ろに下がる。けど学生達との距離は離れる事は無い。そして学生の1人がレミントンM870に手を伸ばした瞬間。


「お前ら!!いい加減にしろや!!其奴が迷惑してんだろうが!!」


何処かで聞いた事のある声が大声で怒鳴る。声が聞こえた方に視線を向ける少し凹みが目立つバットを肩に担ぎながら中々凄みのある目付きで睨む生徒がいた。


「大体よう?助けて下さいと言う前にお礼を言うべきじゃねえのかよ?あぁ?」


「い、伊澤…くん。それは」


「何だよ。なんか文句あんのか?あ?」


「……」


「チッ。何も言い返せねえなら最初から黙ってろ」


伊澤は今度は此方を睨みながら言う。


「アンタもアンタだぜ。無闇やたらに銃を見せびらかしてたらこうなるわな。自業自得だぜ」


「そ、そうだな。すまなかったよ」


「ケッ。ま、久々にまともに食いもん食えたのは感謝してるけどよ。ほらこっち来いよ。此処に居るとまた囲まれるぜ」


そう言ってサッサと歩いて行ってしまう。俺は慌てて後を付いて行く。後を付いて行くと伊澤はポツポツと話し始めた。


「まあ、あれだ。皆現実逃避したいんだよ。ゾンビとかパラサイトとか映画や漫画の世界だしな」


「そうだね。でもそれは仕方ない事だと思うけど?」


しかし伊澤は鼻で笑い断言した風に言い放つ。


「ハッ!それで死んだら元も子も無えんだよ。現実見ろよって言っても聞かねえし。けど俺は生き残るぜ。何がなんでもな。アンタもそうだろ?」


「…君は強いんだな」


「俺は他の連中より運が良いんだよ。親や兄弟が居ねえからな。だから現実を見れた」


そして一つの空き部屋へ案内される。


「此処ら辺りの教室は基本的に回収班が使ってる。他の連中より多少は広く使える。尤も回収班の人数も減って来て余計に広くなってるがな」


「そうか…辛いな」


「…別に。死んだ連中の分も生きれば良いんじゃねえの?」


教室の中には他数人の生徒達が居た。けど先程の生徒達と違って随分と落ち着いている様子だ。


「伊澤か。その人が食べ物持って来た人?」


「おうよ。それからさっきまで他の連中に囲まれてた所を助けてやったんだ。なあ貸し一つだぜ?」


此方に振り返りながら言う。そして確信した。この少年で間違いないと。


「なあ、伊澤君。一つ聞きたいんだが良いかな?」


「あん?何だよ」


「君は本当に強い子だと思ったよ。だからこそだろう。他の人なら躊躇する事も難無くやる事が出来る。現実を見て生き残る為にだ。そうだろう?」


「まぁ…そうだな。でないと此処に居る連中も死んじまうしな。一応俺達の班も結構食いもん取って来れてんだぜ?なあ」


「ま、摘み食いは回収班の特権だけどな」


「言えてる。少しくらい美味い思いしないと本当無理だし」


静かな笑い声が出る。だが決して不快な笑い方では無く唯の子供の笑い声だ。


「で、それがどうしたんだよ?」


「凄く立派な事だよ。今の状況では社会的モラルは無いに等しい。その中で此処まで来れた事は立派な事だ。唯…問題が無い訳では無い」


ジャキン


俺はレミントンM870のレシーバーを動かし銃口を伊澤に向ける。その瞬間、教室に居る誰もが凍り付いた。


「1週間位前の話だ。君は他2人と一緒にコンビニで食料を集めていた。その時黄色のヘルメットを被った人を見ただろう。そして…黄色のヘルメットの人の後頭部をそのバットで殴り倒し囮にした。そうだろう?」


「な、なんで…ッ!まさか、嘘だろ?」


「察しが付いたかな?そうだ。あの時、君が殴って囮にしようとした奴が今目の前に居る。唯、それだけの話だよ」


そう言った時の伊澤の表情は絶望感溢れる表情をしていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ