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Z of the Day  作者: 吹雪
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私立高鷲学院2

空き教室にて美由紀と小夜と一緒に監禁されてる訳だが。微妙に空気が重い。因みに銃器は全て没収された。代わりに弾丸だけは全て此方で持っている。もし銃口を向けられたら洒落にならんからな。


「美由紀、お前は何で鍵持って逃走したんだよ」


「だって、直ぐにどっかに行くって言うんスもん」


「俺が此処に居てどうしろと?周りを見ても俺は余所者だ。それに俺は北海道に行くし」


「でも直ぐに別れるのは寂しいじゃないッスか」


「そうですよー。折角此処まで付き合って来た仲ですし。まさか私達の事は遊びだったんですか」


「お前ら言ってる事が一々可愛いな。まあ、何でも良いや」


俺は窓から見える景色を見る。下を見れば多数の奴等が徘徊してるのが見て取れる。また向かいの校舎にも奴等が居る。正直こんな状態で良く此処を守り切ったなと感心するくらいだ。

程無くするとドアが開く。どうやら安全だと確認が取れたのだろう。若干やつれているがメガネイケメンな男子生徒が近付いて来る。


「こんにちわ。自分は生徒会副会長の山岡 (のぼる)です。お手数ですが生徒会長とお会いして下さい」


「別に構わないが先に銃を返して貰うよ。話はそこからだ」


「いえ、先ずは会長と話して下さい」


「おいおい。誰があの食料を取って来たと思う?然も無償でだ。その幸運が何時迄も続くと思うな。二度も同じ事は言わん。さっさと銃を返せ」


足を組み直しながら男子生徒に指示を出す。美由紀と小夜は知り合いの部下?だから良いとして他は関係無いからな。それにあの学生服には見覚えがある。もしかしたら此処で会えるかも知れん。それなら尚更銃は返して貰わないと困る。


「少し待ってて下さい。会長と話してみます」


「どう結論が出ても構わんよ。最初に銃は返して貰う事に変わりは無いからな」


一瞬山岡は苦い表情をするが直ぐに無表情に戻り出て行く。自分達の思い通りにならないのがさぞかし気に入らないのだろう。だがこっちが彼等に従う理由は無い。例え今迄此処を守り続けてたとしても俺は出て行くから関係無いからな。

それから少し待つとレミントンM870とM37エアウェイトを返して貰った。特に変な風に弄られた様子も無いので弾を装填してから銃を背負う。


「それでは自分に付いて来て下さい。高鷲会長の元へ案内します」


「構わんよ。尤も話す事は殆ど無いだろうけど」


「それを決めるのは高鷲会長です」


「あっそ。何でも良いけど。じゃあ二人共また後でな」


山岡に着いて行くがお互い無言のままだ。流石にそれではつまらないので話し掛けてみる。


「山岡君は副会長なんだね。普通は教師の方が来ると思うんだが」


「先生達は皆感染者になりました。僕達を守る為に最後まで…」


「そ、そうか。大変だったね」


(しまったぁ!早速地雷踏んでるやないかーい!)


山岡君の沈んだ表情を見てヤバイと思った。まさか教師全員がやられたとは思わなかったし。


「そ、それにしては女子だけで探索に行かせるのは如何なものかと思うんだがね。そこんとこはどうのさ?」


「最初は勇気ある男子達が率先してました。でも段々と帰って来なくて。何人かは自宅に帰ってるとは思います。後は最終的に感染者となって戻って来てますけど」


(アカーン!この質問も地雷やんけ!)


それからお互いだんまりを決め込む。正確に言うなら俺が話すのをやめたのだが。だってこれ以上話すと更なる地雷を踏みそうだったし。


(でも考えたらそうだよな。普通の人は襲われるのが当たり前。そんな中食料調達に行くのが命懸けの行動なんだよな)


だが俺は襲われない。その辺りの違いをしっかりと認識しないと駄目だよな。でないと同じ様に地雷を踏むだろうし。

それから山岡君の後に続き生徒会室に向かう。その間に多数の生徒達の視線を感じる事になる。何せこの状況での外部との接触だからな。気になるのは仕方ないだろう。そして生徒会室に着き山岡君はドアをノックする。


「高鷲会長、お客様をお連れしました」


「入って貰って頂戴」


「では自分はこれで失礼します。では中へどうぞ」


中から女性の声が聞こえる。どうやら生徒会長は女性の様だ。俺はそのままドアを開けて部屋の左右を確認する。部屋の中には正面に座ってる女生徒しか見当たらないので、そのまま中に入る。


「初めまして。高鷲私立学院生徒会長の高鷲 (あおい)と申します。以後お見知り置きを」


最初に思ったのは若いのに偉くしっかりとした自己紹介だった。

葵さんの第一印象は日本人形だ。艶のある黒髪が腰の辺りまで伸びており前髪は眉毛の辺りで綺麗に整っている。若干疲れた雰囲気は出ているが紅い唇にパッチリとした目。更に色白と来てるから尚更だろう。

こうなる前は間違い無く品行方正な生徒だと直ぐに分かるくらいだ。


「ご丁寧にどうも。自分は織原 慧です。此処に持って来た食料は全て其方にあげますので。だからと言って何かをしろとかは言わないから安心して欲しい」


「有難う御座います。それからそんなに警戒しないで欲しいですね。私は織原さんに何かをお願いするつもりはありませんので」


「あー、表情に出てましたかな?」


「それと態度にもです。ですが仕方ない事でしょう。今の御時世中々他者を信頼しろと言うのが無理な話」


葵さんは椅子から立ち上がりティーポットに茶葉を入れる。


「そこにお掛けになって下さい。今お茶を淹れますので」


「それはどうも。しかしこの状況下でよく此処を維持し続けれたね。正直言って凄いとしか言えないよ」


「私一人ではどうにも出来ませんでした。これも全校生徒一同が協力し合った結果です。尤も、多くの生徒達が犠牲となりましたが」


葵さんはお湯を入れてカップとティーポットを盆に乗せて向かいの方に座る。


「さあ、どうぞ。もう飲む事が出来ないかも知れない紅茶です」


「…また飲める様になるさ。此処以外にも生きてる人達は居る。それに軍隊だって直ぐに対処するさ」


「生きてる人達はギリギリの状態でしょう。そして軍隊は一部を除いて満足に機能出来てはいません」


優雅に紅茶を飲む姿は非常に様になっている。もしかしたら葵さんはお嬢様と言える人かも知れない。


「機能出来ていないか。何故そう言い切れる?確かに目に見える救助活動は無いかも知れんが」


「父が教えてくれました。私達の家柄は代々この地を纏める領主的な存在でした。その僅かながらな影響力を使い自衛隊内部の状況を知り得たのです」


「そうか。御両親は自衛隊と一緒に?」


彼女は無言で頷いた。置き去りにされてしまった彼女の想いはどうなのか。頼れる存在がいない状況で此処まで来たと言うのか。その苦労は俺が思ってるよりずっと重いだろう。

それから葵さんの口からは悪い話が聞けた。自衛隊はこのパンデミックが起きた当初では民間人の救助活動、及び暴徒鎮圧が行われていた。だが現在では北海道、沖縄の何方かに撤退命令が出ている。そしてその中には民間人は含まれては居ないと言うのだ。


「それなら救助していた民間人はどうなる?そのまま放置して行くのか?」


「中には命令拒否する隊員の方達も居るでしょう。ですが軍隊にとって命令は絶対です。恐らく殆どの部隊は撤退しているでしょう。後は私の両親の様に権力の有る者達の護衛をしているかと」


他人事の様に話しを進める。まるで自分達の事は最初から助からないと言わんばかりだ。だが彼女達は此処まで生き残って来ているのだ。まだ完全に諦めた訳では無い筈だ。


「実はですね。私は一つ嘘をついているんです」


「嘘?」


「私の両親が自衛隊に救援要請をしたと。そして数週間後に助けは来ると。可笑しな話ですよね。自衛隊内部ですら満足に機能してないのを知ってる筈なのに、無意味な希望を見せてるのですから」


ですが、と一言呟き紅茶を飲み話を続ける。


「こうしなければ大半の学友達は死んでいたでしょう。唯何も知らずに最初に死ぬのと、後から助からないと分かった上で死ぬのとでは何方が良いのでしょうか。織原さんは答えられますか?」


俺は彼女の質問に答えられる筈もなく沈黙するしか無かった。無論彼女も期待はしてなかったのだろう。さして気にしてる様子は無かった。


「私達は緩やかな死を迎えるでしょう。ですが間違い無く私は嘘を付いた代償を払う事になりますね」


「そんな訳…あるかよ。嘘を付いたのだって正当な理由からだ。それなら大多数が許すさ」


「以前ならいざ知らず。今は無理でしょう。最後に私が出来る事は屋上から飛び降りるくらいですね」


「態々自分から死ぬ事は無いだろう。それより生き抜く事を考えた方が建設的だ」


「そうでしょうか?明日の生存すら危うい状況。頼れる存在は居らず。最早生きる事に絶望視しても仕方ないでしょう。そして私は最後まで私で居たいのです」


彼女の言葉に何も言えなかった。どの様な慰めの言葉も意味を成すことが無いのだから。

暫しの沈黙が続く。聞こえる音は時計の針が動く音と奴等の呻きのみ。


「希望は無いのか…」


俺はポツリと呟く。この学校の生徒達は緩やかな死を迎える事になる。頼れる存在も守って貰える存在も失ったのだ。最早此処までなのだろう。

なら俺が助けるか?どうやって?食料集めだって楽じゃない。此処以外にも生きてる人達はまだまだ大勢居る。中には人殺しすら厭わない連中も居るだろう。そんな連中に俺が食料を学校へ集めてると知ったら?そして生徒達が生きてると知ったらどうなるか。想像すらしたくは無い。

嫌な考えしか浮かばない中、葵さんは一言呟く。


「希望はまだ残っています」


彼女は此方に視線を向けたまま力強く言う。その表情には確かな生命力がしっかりと出ているではないか。どうやら彼女はまだ完全に諦めた訳では無いらしい。

だから聞きたくなったんだ。高鷲 葵の持つ希望とやらをな。

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