高鷲私立学院1
美由紀と小夜と一緒に食料探しをしてる訳だが成果は著しくない。荒れ果てた無人のスーパーにはセール品の激辛カップ麺かアニメキャラとコラボしてる缶詰くらいしかない。然もそれだけが山積みで放置されてるのだ。
「あ、俺これ知ってる。クッソ不味いと酷評されまくったラーメンだ。こっちの缶詰も同じく酷評されてたな」
「うげ〜。慧さん、自分もっと美味いもの食べたいッス」
「こんな状況でも残されてる食べ物って一体…」
確か話題の中ではとても満足に食べれた物ではないとか。コラボ缶詰に関しては完全にオタクを舐めてるとめっちゃ叩かれてたな。まさかこんな時に話題の商品に出会うとは。
「ほら空腹は最高の調味料って言うじゃん?それじゃあダメかな?」
「いやッス。これは男子でも無理ですよ」
「うわぁ、形容し難い匂いがする〜。これ絶対無理!」
小夜がカップ麺を開けて中身の粉袋も開けてみたのだが確かに形容し難い匂いだ。これ何の材料の匂いだよ。
「此処は無理ッスね。やっぱり別の場所に行くしか無いッスね」
「行ってどうすんの?奴等に見つかって襲われるだけじゃん。やっぱりこの激マズラーメンで我慢するしか…」
「食べ盛りの高校生にこの仕打ちはキツイな。俺ならガチで泣くわ」
取り敢えず店の外に出る。辺りを見渡す限り奴等は居ないが誰かが最近漁った形跡はチラホラ見受けられる。この辺りには生存者が結構居るのだろう。生存者が多ければ多い程食べ物の取り合いは激しさを増す訳だ。
生きてる人が居るのは嬉しい事だが食べ物が無くなるという負のジレンマに陥る訳だ。
「仕方無い。お前達はバイクに乗って此処で待機。俺は車を探して適当な店で食料調達して来る」
「何言ってるんスか。そんな危ない事一人でさせる訳ないじゃないッスか。バカなんですか」
「慧さん。気持ちは嬉しいですけど無理がありますよ。例え銃が有っても奴等は襲って来ますし」
「良いから。直ぐに戻るから大人しく待ってろ。こう言う時は有難く好意を受け取っとけ」
バイクの鍵を美由紀に投げ渡して再び店内に入る。事務所なら営業車用の鍵くらい有るだろうと思う。案の定事務所には車の鍵が幾つか残っていた。それを適当に取り裏口から出る。
裏手の駐車場には営業用のワゴン車が2台停ってるので鍵が合うか確認する。すると1台のドアが開いたのでワゴン車に乗り込みエンジンを掛ける。
そのままワゴン車を走らせて奴等が集まってる店に向かう。奴等が集まってるなら生存者達は近付けない。つまりまともな食料が残ってる可能性は高い訳だ。
数分程ワゴン車を走らせると奴等が彷徨ってる区域に入る。そして適当な店にワゴン車を横付けにして停める。急いで降りてサッサと食料を集める。
(今の状態を誰かに見られたら次から次へと助けを求める声が来る。最悪外は安全だと勘違いする輩も出そうだし)
買物カートに米やインスタントスープの素を入れて行く。他にはチョコ菓子や飴も適当に詰めて行く。
食料を強奪してれば必然的に音は出る。その音に引き寄せられる様に奴等は近寄って来るが襲って来る気配は無い。俺は奴等にとって何なんだろうか?考えても答えが出る訳ではない。それでも考えてしまうのは仕方無い。
「食料を集めてギャルっ子達を学校まで送り届ける。そして其処でお別れだ。これ以上寄り道してたら北海道に行けなくなる」
唯、本当に北海道が大丈夫なのかが分からないのが現状だ。ネットでは北海道は比較的治安が維持されてるとの書き込みが多い。それならそれで問題は無い。だが未だに政府関係から連絡が無いのが不安だ。少なくともユーツーブのコメ欄には何処にも書かれては無かったし、某チャンネルにも返事は無い。
「まさか北海道が無事なのはデマか?だとしても安地のコメントは多いし。やっぱり直接行くしかないか」
結論は変わらない。北海道に行き血液を提供する。そしてワクチンを作り世界が救われる。
王道で良いのだ。外伝的な話は必要無いし英雄的な行動も必要無い。勿論MSSアイドル達や高鷲警察署、更に言えば相沢家族を救った事に後悔は無い。寧ろ助けて良かったと思ってる。MSSアイドルは俺の存在を現実な物にしてくれた。高鷲警察署では銃の扱い方や弾丸に防具を貰った。相沢家族では改修仕様のハナマルを貰い受けた。どれもギブ&テイクだ。
それなら今助けてるギャルっ子達はどうだ?助けたとして何かメリットはあるのか?高鷲私立学院へ行ってどうする?強いて言うなら朱美さん繋がりで助けてるだけだ。
(学校か。親は生きてるのか?返信は未だに無い)
スマホの画面は暗く何も表示しない。つまりそう言う事だろう。
「それでも確認くらいはしたいよ。例え…死んでたとしても」
一瞬、奴等にと言い掛けたがやめた。もし奴等と化した両親に出会った時、俺はどうするのか。供養と称して銃を親に向けるのか。それとも度胸が無く何もしないのか。
「はあ、やめだやめだ。こんな陰険臭い考えはやめだ。今は沢山食料を集めてやろう。きっと学生達は大喜びだろうに」
もしかしたらJKとワンチャンあるかも知れへんしな!ちょっと前なら絶対に無理だと思ってたけど。
俺は問題を棚上げにして目の前の食料を次々と車に載せて行く。今の行動そのものが現実逃避だとしても。
……
適当に集めた食料を積め終えてワゴン車に乗り込む。奴等が周りに集まっては居るが関係無い。そのままエンジンを掛けて走らせる。だがエンジン音は静かな街にはよく響く。走る奴等がワゴン車に追い縋って来る。振り切ろうとするが辺りは事故車や放置車が多数あり中々速度が出せない。
1体の奴等がボンネットに乗り掛かる。そしてボンネットを滅茶苦茶に叩き付ける。急ハンドルで振り落とそうとするが中々落とす事が出来ない。
「無断乗車はお断りだ!」
窓を開けてM37エアウェイトを奴等に向けて撃つ。だが1発当たったくらいでは倒れる気配は無い。残り4発も全て撃つが当たったのは2発。残りは他の放置車両に当たり防犯ブザーを鳴らす。
結果としてそれが良かった。追い掛けて来た奴等は防犯ブザーに引き寄せられる。だがボンネットに乗ってる奴等だけはそのままだ。追い掛けて来る奴等の姿が遠くになったのを確認して車を止める。M37エアウェイトの弾をリロードして外に出る。
奴等と俺の目が合う。其奴は此方を認識してるのか分からない。だが確かに俺を見ていた。もしかしたら奴等にとって俺は仲間に近い存在なのかも知れない。だから襲わないし襲うつもりもないのだろう。
俺は銃口を頭部に向けて引き金を引く。そして赤黒い血液を撒き散らしながら動かなくなる。
「残念だったな。俺はお前らの仲間じゃ無いんでな」
そして再びワゴン車に乗り込み走り出す。今度は追い掛けて来る奴等は居ない。完全とは言わないが撒いた間違いないだろう。
何とか無事に合流地点に到着する。ギャルっ子達の姿は見えないがバイクだけは置いてある。車から降りて彼女達を探す。すると茂みの中から姿を現して来た。どうやら隠れていたようだ。
「うわー、本当に食べ物取って来たんスね。あ!チョコもあるッス!」
「マジでこんな大量にどうやって取って来たのよ。でも、本当に有難うです」
「感謝の言葉はまだ早いぜ。これを全部学院まで運ばないとダメだからな」
「そこは大丈夫ッスよ。こんだけ沢山の食べ物があれば手伝う連中は大勢居ますよ」
そして美由紀と小夜がバイクで先行して俺がワゴン車で追い掛ける。暫く走り続けると丘の上に建てられた高鷲私立学院が視界に入る。
確か高鷲私立学院は避難所に指定されてはいるが奴等が出現した為危険だと書かれてた気がする。そんな状態でも先生と生徒達は生き抜こうと必死で戦って今でも生きてるのだろう。本来の形で今の状況に適応してるのだ。俺が平然と奴等の中を歩いて行く事自体が異端なのだ。
高鷲私立学院は小高い丘の上に建てられてる学校だ。元々は女子校だったのだが少子化の煽りを受けて共学となった。
施設自体は中々に整っており共学に伴い部活動にも力を入れている。特に制服のデザインが一新され男子生徒は非常に洗練された格好良さ、女子生徒は女子校時代の流れを組み入れた上でフルリ等のお洒落なデザインを付け加え可愛らしくなっている。故に私立と言えども中々に人気の高い学校となっている。
だが今や此処が人気の高い学校だとは信じられないのが現状だ。正面入り口の頑丈そうな門は破壊され中に奴等が侵入していた。美由紀と小夜は学校から少し離れた形で徐行運転になる。そして裏門に到着すると理解した。何故彼女達が奴等が居る敷地から出て来れたのか。
裏口から裏門に続く道は机、椅子、教卓などが左右に積まれて防壁代わりになっていた。更に裏門もしっかりと机や椅子を積まれた形で補強されていた。無論奴等は防壁により侵入出来ず唯呻き声を出すしか出来ない。
幸いな事に裏口に奴等の姿は殆ど無く2、3体が彷徨ってるだけだ。バイクが裏門の前に止まったので続く様にワゴン車を止める。すると見張りと思われる剣道部員の生徒が2人が警戒した様子で此方を見ていた。
「戻ったわよ。早速だけど食べ物運ぶのも手伝ってよね」
「そんな勝手な事は出来ない。それに他人を連れて来るのは規則違反だ」
「だったらこの食べ物は要らないんスね。あーあー、勿体ないッスねー」
「それは…分かった。少し待ってろ。今から会長に話をしてみる」
「おいおい、そんな勝手な事して良いのかよ」
「唯の確認だ。それで許可が下りれば良いだけの話だ」
見張りの生徒一人はそのまま立ち去る。その間俺は手持ち無沙汰になったのでチョコ菓子を取り出し見張りの子に見せ付ける様に食べる。序でにお茶も遠慮なく飲みまくる。美由紀と小夜と見張りの子が物欲しそうに見てたのでチョコ菓子を差し出す。だが見張りの子には僅かに手が届かない。
「な、投げて下さい」
「投げる力が無いんだ。ごめんねぇ」
チョコ菓子を食べながらいけしゃあしゃあと適当な事を言う。それに続く様に美由紀と小夜も美味そうにチョコ菓子を食べる。見張りの子が生唾を飲む音が聞こえる。ちょっと可哀想な事したかな?
「仕方ねえな。ほらよ」
板チョコを見張りの子に投げ渡す。渡された子は面と籠手を外して板チョコに齧り付く。やはり空腹には勝てんものだ。まあ、目の前で見せびらかしながら食べられたら堪ったもんじゃ無いんだろうけど。
暫く待つと数十名の生徒がやって来た。そして男子生徒の指示の元テキパキと動いて行く。
「荷物は僕達が運び出します。貴方は何もしなくて結構です」
「そう?なら周りを警戒してるよ」
ワゴン車から降りて周りを警戒する。その間に生徒達が裏門をよじ登り次々と食料を運んで行く。だがやはりと言うべきか数体の奴等は此方に気付き早歩きでやって来る。
「全く、少しは無視してても良いんだがな」
警棒を奴等の頭部に向かって振り被る。鈍い音と共に奴等は倒れて動かなくなる。それから暫く奴等を警戒しながら対処してると荷物は全て運び終えた様子だった。
「よう終わったか?」
「終わったスよ。ほら慧さんも中に入って下さいッス」
「まあ何も無いですけどねー。それでも少しは楽休めますよ」
「気持ちは嬉しいけどな。俺は此処までだ。残酷な事だが後はお前達だけで生き残れ」
俺はバイクに跨り鍵を回そうとする。だが鍵がバイクに刺さってない。運転していた美由紀を見ると校舎の中に走って行く姿が見えた。行動が早いな。
「あのギャルっ子め。おい!その鍵は俺のバイクのだ!返せ!」
こうして俺は高鷲私立学院に入る事になった。尤も生徒会の生徒に別室で一時間程監禁される形にはなったが。因みに監禁した理由は奴等になっても直ぐに対処出来る様にとの事だそうだ。




