相沢銃砲店4
道中丁度良さげな軽バンを発見。運転席を見れば鍵が挿しっぱなし状態で放置されていた。
「これは幸先良さそうだな」
運転席のドアを開けて運転席に乗り込みエンジンを掛ける。軽バンは問題無くエンジンが掛かりそのまま運転して行く。今は見える範囲には奴等は見当たらない。だが奴等は必ず何処かに居る筈だ。
放置車両や死体を避けてながらラジオを弄る。すると雑音混じりだが音楽が聞こえるではないか。
「お!マジか。まだラジオ流してる酔狂な奴が居たんだな」
ラジオの波長を合わせる。だが余所見運転は非常に危ない。それは例え今も昔も変わらない。
交差点に入る。しかし左側からスクーターが飛び出す。俺は別の音に気が付いて顔を上げ慌ててブレーキを踏む。スクーターに乗ってる人も慌てた様子でブレーキをする。そして何とかギリギリ人身事故を起こす事は無かった。唯、スクーターとの距離は30センチも無かったけど。
お互いの目が合うが言葉は出ない。まさか生きてる人が居て然も交通事故に遭い掛けるとは思っていなかった。なので軽く手を上げて軽バンを動かす。スクーターの人はただ見送るだけだった。
……
「もしもし村松です。良二さん今大丈夫ですか?」
先程事故に遭い掛けたスクーターに乗っていた村松はスマホで佐藤 良二に連絡を入れる。
『どうした?何かあったか』
「たった今軽バンに乗ってた生存者と遭遇しました。しかし妙に防具などが揃っていましたが」
『他に脅威になりそうな物はあったか?』
「ショットガンらしき物が有りました。唯、エアガンの可能性が高いです。恐らくサバゲーマニアかと」
『分かった。お前は其奴を追跡するんだ。もし物資を調達する様なら連絡しろ』
「了解しました」
村松はスマホを切りスクーターを軽バンが向かった方へ移動させる。彼は何度もスクーターで奴等の合間を走り抜けてたり囮を行ってきた人だ。最早ベテランと言っても過言では無いだろう。
「運が無かったな。俺に目を付けられた時点でお前の物は俺達のもんだ」
村松はそう呟き楽しそうな笑みを浮かべるのだった。
……
軽バンを走らせ辺りの店を探す。コンビニはシャッターが閉じられてたりスーパーは完全に略奪された後が残っていた。然も何度か誰かが訪れたであろう場所には奴等が集まっていた。
「こうして見ると奴等が集まってる場所には生存者が近くに居るのかも知れないな」
何となく辺りを見渡すとマンション五階の窓から此方に手を振ってる人が数人居た。けど見なかった事にして軽バンを動かす。悲しい事だが全ては救えない。それが現実だ。
そして業務用の商品が売られてるスーパーを見つける。店内には奴等が結構居るが商品は残されてる様に見える。
軽バンを入り口にバックでベタ付けにして停める。途中で何体かの奴等を轢くが無視する。そして軽バンの鍵を抜き降りる。流石にエンジン音で奴等が引き寄せられているが此れも気にしない。
カートを押して店内に入って行く。店内は結構荒らされていたが商品自体はまだまだ残っていた。俺は集めて欲しいリストを見ながら集めて行く。
「えっと風邪薬や傷薬各種、赤ちゃん用のミルク粉、水、オムツ、哺乳瓶、生理用品、映画のDVD、勝負下着サイズはD…おい、後半真面目なのが無いじゃねえか」
もしかしたら朱美さんなりのサービス精神なのかも知れん。何せ後半が今必要な物じゃ無いし。とは言うものの適当に集めれる物は集めて行く。
カートに商品を次々に入れて行く。気分はちょっとした大人買いだ。
「あら奥さんも買い物?私も沢山貰って行くわ。然も今なら大出血サービスで全部タダですもの。それにほら、あの辺り血塗れでしょう?正に大出血よね〜オホホホノホ〜」
余りに暇だったのでオネエ口調で奴等と化した中年女性に話し掛ける。尤も反応はするものの返事は無いけど。
大量の食料や日用品を軽バンに詰め込んで行く。途中奴等が前を通って邪魔して来るから蹴飛ばして退かす。そしてまた同じ事を繰り返す。
「しかし食料集めも大分様になってるよな。こう、手慣れてる感が出始めてる気がするし」
次々と商品をカートに入れて行く。序でにアイスを一つ開けて口に咥えてそのまま食べる。咎める人は居ないので最早やりたい放題だ。カートに乗って遊んだり買い物籠に商品を投げ入れたりと正に気分は悪ガキだ。
そして悪ガキ気分の勢いのまま女性の奴等のスカートを捲る。それはそれは何人ものスカートを捲る。花柄、スケスケ、清純系、色っぽさ系なと様々なパンティ〜を鑑賞する。それはそれはテンション高く捲って捲って…ふと気付いたのだ。
「違う。これじゃない」
反応しない奴のスカートを捲って何が楽しいか?いや違う。反応が有るからこそ価値が有るのではないか。恥ずかしがったり怒ったりするからこそ遣り甲斐が有るのだ。
反応の無い奴等から一つ学ぶ事が出来た。これは人類にとってとても大きな事なのは間違い無い。
俺は一つの真理に辿り着いた事で再び作業に戻るのだった。
……
村松は自身の見てる光景が信じられ無かった。感染被害者の中を平然と歩き尚且つ食料を確保しているのだ。
直ぐに良二に連絡を入れようとする。もし彼を味方に引き入れれば、この先生き残れるのは確実とも言える。だがスマホで佐藤 良二の通話ボタンを押す時に手が止まる。
(もし奴が仲間になったら、俺は…俺達はどうなる?)
今の世界になってから村松は好き勝手に生きている。それこそ多少の危険を犯しながらも以前よりずっと充実した生活を送っているのだ。
食料を持ち帰れば賞賛され好きに女を抱ける。感染被害者を倒せば同じ様に賞賛されストレス解消にもなる。特に偵察役は他の連中より優遇されている。つまり村松は今の自分の立場を非常に気に入っている。
だが奴を引き入れれば俺の存在価値は駄々下がりだ。名声も女も全て奪われるのでは無いか?いや、絶対に奪われる。
村松は通話ボタンから指を離す。そして再び偵察姿勢に入る。次に連絡を入れる時は奴がスーパーから出る時だ。
……
食料、日用品の調達も終えて軽バンに乗り込む。そして軽バンを相沢銃砲店へ向けて走らせる。ラジオからは今時の曲が流れていた。唯、悲しい事にラジオパーソナリティーが居る気配は無い。もし同じ曲がずっとリピートされてるだけなら余計に現実を直視する事になり虚しさが広がるだけだろう。
道路は相変わらず放置車両や死体が多数放置されてる。その間を抜けたり避けたりしながら運転して行く。時間も確認すれば15時を回る頃だろう。
「しかしショットガンか。結局撃つ事は無かったな。どっか適当な場所で試し撃ちした方が良いか」
運転しながら辺りを見渡す。そしてスクーターと打つかりそうになった交差点に差し掛かる。だが小さくだが違和感を感じた。この交差点には放置車両は無かったと思う。少なくとも3台は無い筈だ。だが今は何処の道路にも事故車や放置車両は有る。だが特に気にする事は無く交差点に進入しようとする。
そして、一本の矢がフロントガラスを突き破って左腕に突き刺さるのだった。




