相沢銃砲店3
相沢夫婦との話し合い?をした結果、食料や日用品と交換でショットガンを手に入れる手筈になった。そして途中で純子ちゃんがぐずり始めたので朱美さんが別室に移動して行った。
「素人が散弾銃を撃つと肩を痛めたり脱臼するからな。それにポンプアクション式の散弾銃は素人には無理だ。だから最初はこっちの二連装式で慣れて欲しい」
「ショットガンをくれるんですか?」
「織原君は知らないだろうけど、この辺りは野盗になってる連中が結構居るんだ。現にウチの店に押し寄せて来た事も有るしね」
「野盗ですか。よく追っ払えましたね」
「此奴で連中の車を穴だらけにしてやったのさ。それに近場の店の食べ物はほぼ全滅してる。それで以前車で少し走って食料を調達したんだ。だが野盗共に車を奪われてな。更に銃声で連中が襲って来るもんだから」
「それは大変でしたね。ん?もしかして高鷲警察署近くのスーパーですか?」
俺はふと思い出す。あのスーパーはショットガンの弾痕が多数有った。もしかしてあの辺りまで来ていたのかも知れない。
「確かそうだったかな。尤も、集めた物を全部取られたから意味無かったけどな」
「よく彼処から生きて帰って来ましたね。初めて出会ってからのポンコツ具合からは想像出来ませんよ」
「ポ、ポンコツ…まあ、織原君と会う前の道中で鍵の刺さった車に乗って帰ったからね」
そして簡単だがショットガンの撃ち方を教えて貰い外出する準備を整える。しっかりとした防具に身を包み武装もかなり充実してる。見た目だけは一丁前になってるな。見た目だけはな。
「後は弾薬だ。取り敢えずコレだけ渡しておく。後、何度も言うがこの辺りには野盗が多い。奴等に手加減は要らない」
篤さんの忠告を聞きながら50発の弾薬を受け取りポーチの中に入れる。そして最終確認をしてからヘルメットを被りバイザーを下ろす。
すると朱美さんも戻って来てメモ紙を渡して来る。
「出来れば何ですが日用品も欲しいんです。あ、勿論無理なら全然構いませんので」
「取り敢えずメモは貰っておきますよ。それで可能なら持って来ます。多分夕方くらいには戻って来ますよ」
「頼むよ。それから沢山の食べ物を回収してくれたなら散弾銃の整備の仕方以外に良い事をしてあげるさ」
「良い事ですか?その台詞は是非朱美さんから聞きたかったですがね」
「え〜?駄目だよ。それはアッくんだけなんだからね」
「朱美は絶対に渡さんぞ!ゴホン、兎に角今は内緒だ。けど織原君的には嬉しい事だ。それに聞けば織原君は北海道に行くのだろう?コレから先は長い道程になる。だから役に立つのは間違いない」
「何かは知りませんが、篤さんがそこまで言うなら気合入れて取って来ますよ。それじゃあ行ってきます」
そう言ってシャッターを半分開けて外に出る。時間は昼前辺りなので何かしら食べながら食料を集める事にした。
「先ずは車を探さないとな。出来ればミニバンかワゴが良いな」
多分探せば見つかるだろう。災害時には車の鍵は挿しておく様になっている。唯、今の状況が災害と一緒なのかは不明だけどな。
……
慧が食料調達に向かっていた時、あるコミュニティーも行動しようと準備していた。その中でも腕や足にタオルやダンボールを巻いてたり鉄パイプや木刀を持つ集団が居た。
「良二さん。調達隊は準備完了です」
「おう、分かった。なら早速行くぞ。今回は車を使うぞ。もうこの辺りの食い物が殆ど無いからな」
彼の名は佐藤 良二。このコミュニティーのリーダーであり頼れる兄貴といった存在だ。
「まだ結構な人数がこの辺りには生きてるんすかね?」
「だろうな。もしかしたら俺達みたいなコミュニティーが有るのかも知んねえけど」
「もし其奴らとかち合ったらどうします?」
仲間の一人がニヤニヤした表情で聞いてくる。それを聞いた良二は不敵な笑みを浮かべながら答えた。
「んなもん決まってるだろ。服従するなら受け入れる。そうで無けりゃあ潰すだけだ」
そして20名の調達隊の準備が整う。
「お前ら行くぞ。此処に居る穀潰しの面倒も俺達が見なくちゃならないからな。食料は全て奪え。全てだ。例外は無い」
良二の号令の下、調達隊は食料調達に向かう。だが彼等のコミュニティーの周りには多数の奴等が居て普通なら出られない。だから彼等は塀の上に登り其処から民家に入る。更に其処から梯子を使い隣の民家に侵入して行く。
佐藤達はこの状況下に順応したのだ。武器を持ち奴等を潰し食料を調達する。最初は小規模なグループだった。だが民家に侵入する際に其処に居た人と会う事もある。その時から徐々に人が増え始めたのだ。そして今では80人以上が居る大所帯にまで膨れ上がった。
因みに此処までコミュニティーになるまで増えた理由の一つがスマホだった。家族から友達や知り合いへと連絡が続き塀の上を歩いて此処に集まって来たのだ。此処なら安全だと信じて。
だが其処は残念な事に安全な場所とは程遠い場所だった。何故ならリーダーや調達隊は全て一般人だ。つまり彼等を中心とした新しいルールが出来ていたのだ。
「あー、早く終わらせてヤリてえな」
「分かるわ。俺達が命懸けで食料調達してるもんな。やっぱり死ぬ危険性があるから遺伝子を残さねえとヤバイって下半身がフル稼働だぜ」
「ウチのコミュニティーの女も良いけどさ。唯、相沢銃砲店の奥さんめっちゃ好みなんだよな」
「分かる!一瞬見えたけどめっちゃエロかったし!然も子持ちだろ?ヤルなら最高じゃねえか!」
「バッカ、声を抑えろよ。奴等がこっちに引き寄せられたら良二さんにブン殴られるぞ」
「悪い悪い。名前も朱美て言うんだろ?マジでヤリてえわ。でもこの前ショットガン撃たれたけどさ」
「あのおっさん店主だろ?マジで撃って来た時は流石にビビったけどな。けど今なら行けるんじゃねえか?ほら良二さんクロスボウ持ってるし」
先頭で警戒しながら歩いてる良二の手には中々立派なクロスボウが握られていた。因みにこのクロスボウは民家に侵入した際に手に入れた物だ。本来の所有者は今頃奴等になり下がってるだろう。
「でもさ、コミュニティーの中にさ明らかに引き篭もりとか無職の奴居るよな。其奴らは警備役とかやらしてるけど」
「仕方ねえだろ。せっかく集めた食料を誰かにネコババされたら敵わねえよ。それに警備役なんてある意味一番下の役割なんだからよ」
警備役の連中は外に出れない臆病者が共通認識だ。然も武装も防具も最低限しか整って無い。だが何故かは知らないが調達隊が居なくなると偉そうにするのだ。尤も誰も相手にしてないのが悲しい現実である。
「自分が他の人より偉くなってると勘違いしてる連中だし。ほら元は社会不適合者だ」
「そして女に手を出そうとして返り討ちに遭って、更に集団でボコボコにされてんだろ?それでも未だに偉そうにするのは何でだよ」
「そんなの決まってるじゃん。せっかく手に入れた居場所だぜ?簡単に手放す訳無いじゃん。大体彼奴らに警備役以外に何が出来るよ」
そんな話をしながらも調達隊は周囲を警戒しながら進んで行く。そして車が置かれてる場所に到着する。
「道中でもう二台は車を回収するぞ。前に穴だらけにされたからな。スクーターはいつも通り先行して場所を確認しろ」
そして辺りに車とスクーターのエンジン音が響く。スクーター2台が先行して走り出し、それに続く様に車が走り出す。彼等は彼等なりに生きる為に行動をする。例え誰かを踏み台にしたとしてもだ。其処に罪悪感など存在しないのだから。
……
佐藤達が行動を開始した頃、慧は荒らされたコンビニで残っていた缶詰とカップラーメンを食べながら新聞を読んでいた。
「【意識不明の重体患者1000人超える】か。確認が取れただけだとして、俺みたいに独り暮らしの奴も居るとしたら結構な人数だな」
西暦2022年5月11日の新聞を読むと色々と情報が載っている。昨夜深夜から早朝に掛けて意識不明になる重体患者が増えていると言う。更に別の新聞では世界規模の可能性が出ていたと書かれていた。
まだこの頃は感染被害者と言われる奴等の存在はまだ書かれては無い。しかしこの新聞が出回る頃にはネットから次々と死者が立ち上がって襲って来る情報が出ただろう。
「今が5月17日だから、もうすぐ一週間経つのか」
新聞を畳みペットボトルのお茶を飲む。今でも電気は通ってるから冷たい飲み物が飲めるのは有難い事だ。
そして再び立ち上がり食料を集める為に歩き出す。歩きながら二連装式散弾銃を弄り、篤さんに教えて貰った通りに構えたりリロードしたりする。何だかんだでショットガンを手に入れた事は結構嬉しかったりするのだ。
「さて、頑張って食料集めやりますか!」
バイザーを下げながら二連装散弾銃を持ち探索するのだった。
レミントンM870をハナマルと読むのを知った時成る程と思いました。




