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Z of the Day  作者: 吹雪
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高鷲警察署10

西暦2022年5月17日


高鷲警察署への避難誘導は全て完了した。食料の備蓄も問題無く、管理された配給制度なら三ヶ月以上は保つ事も分かった。此処に来て西蓮寺さん達も漸くしっかりと休める場所に来る事が出来てホッとしてる様子だった。

また人数は増えた結果、人手不足も幾分か余裕が出来た。これで高鷲警察署の更なる補強活動が可能となる。特に周辺警戒の人員が増えた事で警察官の負担が幾分か楽になるのは行幸だろう。

勿論今迄も一般人が手伝いをしていたが、あのオバさんを筆頭に文句だけを言う連中が何人か居たの事を此処に追記しておく。追々彼等に対する対応も色々変わって来るだろう。

今の状態で以前の様な生活は出来無い。つまりそう言う事だ。


「もう少し残っても良いと思うのだがな」


「そう言う訳には行きませんよ。誰もが以前の様な生活を望んでます。それは自分も同じですから」


「そうか。なら無理に引き止めるのは野暮と言うべきかな」


俺は署内で身支度を済ませて野々原警部補と話をしていた。野々原警部補としては残って貰いたい気持ちはあるだろう。けど今の問題は此処だけでは無い。世界規模で被害は拡大し続けてるのが現状なのだ。


「彼女達は婦警さん達と同じ部屋に寝泊まりさせている。流石に外で寝泊まりさせたら目も当てられんからな」


「あの連中は早いとこ対処した方が良いですよ。まあ、警察官の立場としては難しそうですけど」


「いや、そうでも無いさ」


その時の野々原警部補の表情は非常に晴れやかだった。


「新しく避難して来た人達は皆我々に非常に協力的だ。恐らくだが此処まで来るのにずっと君におんぶ抱っこだったのでは無いかな?」


「あー、まぁそうかも。けど数人は戦ってくれましたよ」


「それでもだよ。織原君が一生懸命に頑張って此処まで連れて来た。その姿をずっと見続けて来た訳だ。特にMSSのお嬢さん方は率先して我々の手伝いをしてくれてる。きっと君に嫌われたく無いからだろうな」


「最後のは無いと思いますが。けど、それなら俺が頑張った甲斐が有った訳ですな」


「ああ。特にあの、さ、さ…女性を怒鳴りつけた時が印象的に残ってるのかも知れん」


「今、名前忘れましたよね?」


あのオバさんの名前を言おうとしたが結局思い出せず女性と言って逃げたな。けど野々原警部補は素知らぬ顔で話を続ける。


「さあ、此処から先は我々警察官の役割だ。それからいつでも戻って来ても構わないからな」


「あ、完全に無視する気ですね。まあ、良いんですけど。それから銃の弾薬と防具有難う御座います。銃に関してはなるべく人には向けない様にしますから」


「そうして貰えると助かるよ。だが勘違いするな。自衛の為なら止む得ない時はある。その時は決して躊躇しては駄目だ。そして誰かを守りたいと思った時もそうだ。良いね?」


野々原警部補は真剣な表情で此方を見る。だが本当に良いのだろうか。仮にその状況になったとしても、俺は生きてる人を撃てるのだろうか。

確かにブルドーザーの社長さんには銃を向けて撃った。けど本人には当たらない様にしたつもりだ。


「これは一般人には言えない事なのだがね。あの日、本庁からの最後の通達は『出来る限りの市民を守れ。但し自分達の身を最優先にする事』だったよ。つまり我々は自分達を優先し、その後に民間人を救う事を命じられた。僅か二日も経ってないにも関わらずな」


「それって…」


野々原警部補は玄関まで歩き此方に向き直る。


「織原君。我々は君の行動を無駄にはしない。だからこそ間引く様な事はしたくは無い。だがこの調子で行くなら何れそうなる未来が有るかも知れん。早く現実に目を向けて欲しいもの何だかなぁ」


その時の野々原警部補の表情は何も写してはいなかった。悲しいとか辛い等の感情は一切無く、唯職務を全うする人の様に見えた。いや、その事を顔には出さないだけなのかも知れない。今の俺には判断は出来そうに無かった。


「さて、暗い話はこの位にしておこう。折角の門出だ。笑顔で織原君を見送りたい。それに外では他の人達が君を待っているよ」


「はい。野々原警部補、お元気で」


「君もな。武運を祈る」


野々原警部補はしっかりとした敬礼をする。俺も見様見真似で敬礼するがイマイチな感じがする。

正面玄関の自動ドアを出ると沢山の人達が見送りに来ていた。誰もが見覚えのある人達だ。共に上坂中央ドームから脱出を果たした者達ばかり。その中心にはMSSアイドルが揃っていた。


「慧さん、私達を此処まで助けて頂き本当に有難う御座いました。この御恩は一生忘れません」


「そんなの気にしなくて良いよ。あ、でも全部元に戻ったら是非是非テレビ出演とかお願いしますよ。いやー、これで俺は超有名人になるのは必須だな!」


俺のウィットな冗談に周りから小さな笑いが漏れる。


「昨日色々話し合って決めたんです。私達はMSSを続けて行こうと思ってます。まだ苦しんでる人達の希望になれたらと思いまして」


「本当に?良いんじゃ無いかな。絶望視してたMSSアイドルが復活するなら良い宣伝だよ。あ、そうだ。俺の事はサバイバルスレ主で紹介して欲しいな。流石に実名は勘弁だし」


「フフ、勿論ですよ。所で、慧さんは北海道に向かうのですか?」


「そうだ。相変わらず政府機関からの連絡は無いからね。代わりに怪しい研究会や宗教からの連絡は来るけど」


尤も全て無視してますけどね。流石にそんな所で事態を解決出来るとは到底思えない。

それから少しだけ話を続ける。これから暫くは会えないから仕方ないと思う。けど彼女達も不安なのはあるだろう。本当に行ってしまうのか?出来れば残ってて欲しいと。


「それじゃあ、そろそろ行くよ」


「えー!もう行っちゃうんですか!て、もう結構時間経ってますね」


「本当だ。此処も少し寂しくなりますね。特に澪の機嫌が」


「べ、別に寂しくなんか…やっぱり寂しい」


「素直な澪は可愛いなぁ〜」


彼女達のやり取りを見てると残り続けたいと思ってしまう。もしかしたらMSSアイドルの一人くらいは付き合えるかも知れない。それくらいの自惚れを感じるくらいに好感度が高く思う。だからこそこの人達を死なせたくは無い。だからこそ早く然るべき場所に行く必要があるのだ。


「残念だけど此処には残れない。早く元の日常に戻りたいからね」


俺はヘルメットを着用する。それを見て少ししんみりした雰囲気になる。


「そうですよね。分かりました。慧さん、どうかご無事で」


「無理な行動はダメですよ。あ、でも私達は無理な行動があって助かったんだよね…」


「ちょっと、何一人で自己完結してるのよ…その通りだけど」


「危ないと思ったら逃げて下さい。今はその選択が正しいのですから」


「慧さん、また会えますよね?」


「勿論さ。次は北海道で会おう。その時までお互い元気でな」


俺は一人一人に握手する。握手する度に有難う、元気で、死なないでと言葉を受ける。だからしっかりと力強く握手して返事をする。

そして門に向けて歩き出す。俺の周りには誰も付いては来ない。それでも歩みを止める事は無く歩き続ける。

門の前に来て振り返る。高鷲警察署の玄関や窓から沢山の人達が此方を見ている。だから俺は安心させる様に深く頷く。


こうして俺は高鷲警察署を後にする。好奇心と下心で上坂中央ドームに向かって早くも一日が経つ。思えば当初の予定とは違うだろう。それでも後悔の感情は無く寧ろ良かったと思える。

奴等の合間を縫って歩きバイクが置いてある場所に向かう。これから向かう北海道への道程は長い。高速道路も電車も使えない。主要道路も軒並み渋滞や事故で塞がってるだろう。


それでも行かなくてはならない。北海道こそが最後の砦なのだから。






アメリカ海軍ジェネラル・R・フォード級航空母艦 ジョン・F・ケネディ 作戦室


小綺麗な作戦室では数人の軍人が椅子に座って待っていた。彼等は第1特殊作戦部隊デルタ分遣隊、通称デルタフォースの一部のメンバーだ。


「なあ、何でまた俺達が呼ばれたと思う?俺は何処かの議員救出だと賭けるぜ」


「あぁ?なら俺はまた大統領の娘の救出に賭けるぜ。全く、デルタ小隊一つが犠牲になったってのによ」


「結局、GPS辿ったら別のアンデットだったからな。クソ…やり切れねえよな」


お互いが思い思いの話をする。しかし話自体は長続きはしない。そんな時作戦室のドアが開きフランク・アルバート大佐が姿を見せた。

フランク大佐の姿を見てデルタメンバーは全員起立をして敬礼する。それに対しフランク大佐も答礼して教壇に立つ。


「諸君、新しい任務だ。今回は喜べよ。日本への観光旅行だ」


「日本ですか?在日米軍に編入ですかい?」


一人が冗談半分で言うと何処からか苦笑いが漏れる。それに対しフランク大佐も苦笑いになりながらも話を続ける。

フランク大佐は手持ちのPCを操作してスクリーンに映像と動画を映し出す。


「諸君の中には知ってる奴は居るだろう。感染被害者の近くに居ながら襲われないクレイジーな奴が居る事を。今回はサバイバリストスレ主と呼ばれる人物の捕縛だ」


スクリーンにはユーツーブに上げられてる動画が出されていた。更に個人情報もだ。


「ウチの情報部は優秀でな。この動画を元にサバイバリストスレ主のスマホのGPSをキャッチ。現在も移動してる事が判明した」


「そのスマホが別人の可能性は?」


「無い。GPSの追跡結果は感染被害者の中を平然と移動している事が判明している。この結果から見ても目標の可能性は非常に高い」


フランク大佐はデルタメンバーを見ながら言う。


「この作戦は今後のアメリカ合衆国の世界的生存戦略の要となる。延いては国内で助けを求める市民を救える事になるのだ」


その中で手を挙げる者が居る。フランク大佐は目配せして許可する。


「捕縛は分かりました。それは日本政府の協力の元行われるのですか?」


「……我々は我々の装備のみで作戦を行う。他に質問は?」


質問の回答から得られた事。それは我々デルタが綺麗事で作戦を行う訳では無い事だ。そして作戦が失敗すれば最悪日本に取り残される事を。


「無いなら作戦準備だ。また本作戦は一回のみ行われる。此処で失敗すれば次は無い。仮に行えば最寄りの自衛隊から容赦無く質問を受け、最悪迎撃される可能性はある。今は何処も緊迫状態だからな。それは日本も例外では無い」


そして質問が無い事を確認してフランク大佐は言葉を続ける。


「作戦開始は明日06:00だ。既に他の装備の準備は整っている。後は貴様等の個人的な分だけだ。では解散」


「フランク大佐に対し、敬礼」


全員が一糸乱れぬ敬礼をする。フランク大佐が出て行くと彼等も準備に入って行く。


「要するに拉致しろって事か。毎度の事ながら貧乏クジは俺達の十八番だな」


「そう言うなよ。国内(アメリカ)だけで無く世界中探しても未だにサバイバリストスレ主以外は見つかっては無い」


「そうだな。そう考えると当たり前と言えば当たり前か」


「幸い邪魔な勢力はほぼ無いだろう。なら早いとこ終わらせてしまおう」


例え悪役になろうとも国家の為なら死力を尽くす。彼等の表情には躊躇は無い。何故なら彼等は誉高きデルタフォースなのだから。


……


高級ホテル


都心部より少し離れた高級ホテル。天然温泉を取り込む為に選ばれた場所であった。しかし、あの日宿泊客の一人が突然倒れた。そこから悪夢が始まる。

一人から二人。二人から十人へと奴等へと変わって行く人々。鳴き叫ぶ子供や怒声を上げる大人は皆等しく奴等に襲われる。今や高級ホテルとは名ばかりで僅かな生存者は部屋の中に引き篭もる事しか出来なかった。

そんな一室では一人の女性が着替えをしていた。その格好は黒一色で何処かの特殊部隊と言われても遜色の無い格好だ。更に日本では入手困難な銃器を所持していた。手にはH&K P2000、背中にはSR-25狙撃銃が背負われていた。

そのまま平然とした態度でドアを開けて外に出る。ホテルの廊下には数体の奴等が彷徨っている。そんな奴等を無視するか足を掛けて転ばせるかしてサッサと先に進んで行く。そして受付のカウンターに部屋の鍵を置く。


「それじゃあ、チェックアウト宜しくね」


誰も居ないカウンターに一言残して立ち去る。そしてそのまま外に向けて歩き出す。その様子は部屋の中で引き篭もってる人達からも見て取れてた。だが声を上げる事は無い。奴等は音に反応する。それくらいは誰もが知ってる常識になっていたのだ。

そして車の鍵を確認してからH&K P2000を構える。


「さて、早速だけど道を空けて下さらない?」


彼女は徐々に迫って来る奴等に向けて銃口を向け引き金を引く。銃声が鳴り響き奴等が倒れる。更に数体を撃ち殺し場所を確保して駐車場に向かう。そして車の鍵のスイッチを押す。すると一台の車が反応する。反応した車に向かって行きながら邪魔な奴等をH&K P2000で撃つ。そして車に荷物とSR-25入れて乗り込む。

エンジンを掛ければ高級車独特の静かだが重厚な音が鳴り響く。


「道を開けなさい。550馬力は伊達じゃ無いわよ?」


アクセルを全開にして車は一気に加速する。そして奴等を薙ぎ倒しそのまま高級ホテルを後にする。女性はスマホを取り出し情報を確認する。そして目標のGPS追跡を開始。


「全く、こんな街中に居るなんて常識外れにも程があるわよね。電話は…後で良いわね」


そのままスピードを緩める事無く街に向けて車は走る。


間も無く様々な思想が入り混じる。その時、彼はどの選択を選ぶのか。そして誰が選ばれるのか。まだ誰にも分からない。

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