高鷲警察署9
食料も無事に短時間で高鷲警察署内に確保する事が出来た。何故なら消防車のハシゴから消防士数人が降りて来て荷下ろしを手伝ってくれた。然も屋上と警察署の上層から援護射撃も来ていたのだ。
俺も消防士を先にハシゴに乗せたのを確認したら正面入り口に入る。入ったのを確認したのかバリケード役の人員輸送車が動き出し入り口を塞ぐ。これで奴等も入っては来れないだろう。ヘルメットを取り深呼吸をする。
「はあぁぁ…しんどかったぁ」
いや本当に疲れた。最初は好奇心と下心が満載で上坂中央ドームに向かったが、生きてる人達を見捨てるのは忍びないので助ける事にした。それから奇跡の脱出劇を行い高鷲警察署に向かった。そこから先もブルドーザーに轢き殺されかけるわ、変異種には馬乗りにされるわで大変だったでござる。
「慧さん!慧さん!」
「はいはい?おっと、西蓮寺さん。中々熱烈な歓迎ですな」
名前を呼ばれ振り返ると西蓮寺 澪が抱き着いて来たではないか。更に他のMSSアイドルもやって来るではないか。
「慧さん、本当に有難う御座います。生きて此処に来れるなんて…本当に」
「やっぱり私達でハーレム作ります?もし出来たら間違い無く日本中が別の意味でパニックになりますけど」
「沙織、それ冗談になってないから。でもハーレムが欲しいなら私は入りますよ?」
「そうやって瑞樹は露骨に点数稼ぎするんだから。あ、私もハーレム作るなら入りまーす」
ワイワイキャッキャッと騒がしくなる女性陣。然も全員MSSアイドルの綺麗所でその中心に俺は居るのだ。更にハーレムOKまで来たのだ。
(俺は…この瞬間の為に生きてきたと言っても過言では無い!神様ありがとう!)
俺は青く澄んでいる空に向けて拳を上げる、この瞬間、俺は石油王に勝るとも言わんばかりに勝者となっていたのだ。
「慧さんなんかスッゴイ笑顔で泣いてますね」
「アレじゃない?私達に囲まれて嬉し泣きとか?」
「「「「「それだ!」」」」」
全員が直ぐに納得する。それくらい織原 慧の顔は緩み切っていたのだ。
俺達がイチャコラ?していると野々原警部補と高木さん達がやって来た。
「織原君、良くやってくれた。君は多くの人達を救っただけでは無く、我々の食料問題も解決してくれた。この高鷲警察署の代表して感謝を言わせて欲しい。本当に有難う」
「野々原警部補。俺も警察の協力が出来て良かったです。あ、もし全てが元通りになったら賞状とか貰えますかね?」
「勿論だども。賞状だけでは足りないならウチに来ると良い。今後は警察官の数が足りなくなる」
「ははは!警部補からの推薦なら直ぐに警察官になれそうですね!」
笑顔と笑い声が辺りに響く。今や世界中に絶望と諦めが蔓延してる。その中で小さくとも希望は芽生える。その一番の役割は人々の笑顔では無かろうか。
警察官の人達と一緒に避難した人達が次々と俺を褒め称える。良くやった。凄かったぞ。有難う。この恩は一生忘れない。
(やっぱり助けて良かった。見捨てたら沢山後悔してただろうな)
全ての人を救えるとは思っては無い。それでも俺は好きで誰かを見捨てるつもりは無い。
少しだけ感傷に浸ってると甲高い声が響き渡った。
「野々原警部補!その人は感染しているのでしょう!私は見ましたよ。あの変な風になった感染被害者に襲われてる所を!」
その人は嘗て野々原警部補に配給量を増やして欲しいと言っていた女性だった。更に周りにも数十人の大人が集まっていた。
「そんな危険人物を受け入れるなんて。然も私達に何も相談せずにですよ!これは警察官の横暴です!独裁者と何も変わりませんよ!ねえ皆さん?」
「そうだぞ!大体こんなにも増えるなんて聞いてないぞ!」
「あれだけ騒音を出したら感染被害者の人達が集まって来るじゃないか!」
「今直ぐ其奴らを追い出せ!勝手に受け入れた警察は謝罪しろ!」
次々と不平不満を口にする人達。それを聞いて黙っていられる程逃げて来た人達は冷静には慣れない。
「巫山戯んなよ!お前達に何の権限が有るんだよ!」
「それに聞いたぜ?お前ら感染被害者を救済するとか言ってたらしいじゃん。なら今直ぐ手当して来いよ。出来るもんならなあ!」
「ならこの食料は俺達と警察の人達で分けるよ。手前らには米一粒足りとも譲らねえよ!」
一気に対立し空気が悪くなる。そんな中先程の女性が堂々と前に出て来て言い放つ。
「大体英雄気取りも良いところです。一歩間違えれば私達は全員死んでましたよ?その事について野々原警部補は如何お考えでしたか?お答え下さい!」
その言葉を聞いて野々原警部補も一歩前に出る。
「織原君は信用出来る人間だ。彼は自身がこの状況を打破出来ると言い切った。彼の考えた計画をしっかりと聞き許可を出した。私は一警察官として何も間違った選択はしてはいない!」
「野々原警部補…」
やだ…ちょっと胸キュンしちゃったじゃない。でも顔と態度には絶対に出さない。絶対にだ!
「それは彼が救おうとしてるのは此処だけでは無い。全世界の人達を救えるかも知れんのだ。そんな彼を侮辱する発言は一人間として許しはしない!」
「っ!?ふ、ふん!警察官が聞いて呆れますね。皆さん聞きましたか?これが今の警察組織です!我々の税金で手に入れた物資を我が物顔で私物化している警察を許して置けますか?」
「そ、そうだ!許せる筈が無い!」
「今直ぐ食料を全て渡せ!我々が管理すべき物だ!」
「警察は俺達を守る義務を果たせ!それ以外はプライバシーの侵害だぞ!」
余りにも自分勝手な内容に俺達は呆れて何も言えなくなる。そんな時ふと有る物が気になった。いや、正確に言うなら無いのだが。
俺は西蓮寺さんの肩を叩く。すると此方を向いて首を少し傾ける。あら可愛い。
「あのさ、あの人って…独身かな?指輪着いてないし」
「え?あ、本当だ。あの人は独身ですね」
「因みに年齢は幾つに見える?俺は40代前半だ」
「う〜ん、私は40後半に見えますね」
俺達の失礼な内容に他のMSSアイドルも加わり始める。
「アレですよ。あの歳で独身。更に私達の様な若くて綺麗で可愛い子達が来たら精神的にキツイんじゃない?」
「ちょっと麗華失礼過ぎるわよ!例え本当の事でも!」
「瑞樹…アンタがトドメ刺してどうすんのよ」
「でもでも更年期になるとイライラが増すって言いますし〜。やっぱり私達に対する嫉妬ですかな〜」
「…あの人ハーレムに入れます?」
「嫌です」(キッパリ)
段々話が飛躍して行きとんでも無い事を言ってくる始末。俺にだって選択する権利はある。それにだ。
「流石に40代で独身は無いわ〜。どう考えても…いや、今見てても地雷臭半端ないっす」
俺達の会話に他の人達も徐々に加わり始める。
「それにあの面子だと全員何かしらの問題がありそうだよなぁ」
「うん。なんかこう普通の人とは雰囲気が違うよな」
「あの人達とは関わらんどこ」
「これから嫌でも関わるんだぜ?諦めろ」
「反面教師だな。ああなったら色々お終いだよ。色々な」
この内容は勿論彼女達にも普通に聞こえてる。彼女達は全員顔を真っ赤にしてギャーギャー喚いてる。
「あー、取り敢えず今日は解散しなさい。これ以上のクレームは受け付けない」
「クレームとは何ですか!クレームとは!私達は純粋に抗議を」
「良いから。解散しなさい。更年期は色々溜まるからね。運動でもしたら如何ですかな?此処にはやる事は沢山有りますけどね?」
野々原警部補は結構雑に彼女達を解散させる。無論彼女達は口では抵抗はするものの機動隊が近付くと一人一人と散って行く。それでも40代後半の独身女性はまだ文句を言う。
「だ、大体、あの改造したブルドーザーは何ですか?あれは間違い無く違法ですよ!あんな物を作るなんて本当に野蛮な人達ですよ!」
「…………あ?」
その言葉を聞いて俺は一瞬理解出来なかった。
「然もあんな物を使って感染被害者の方達を轢き殺した!犯罪ですよ!今直ぐその人を捕まえた方が私達は安心出来ます!今直ぐ警察官としての義務を果たすべき」
俺は西蓮寺さん達を退かし大股で女性に近付く。警官の人達は突然俺が動いたので一瞬反応が遅れてしまう。慌てて取り押さえようとするが俺の方が早かった。俺は無言でオバさんの胸倉を掴み言い放つ。
「あのブルドーザーを作った人はな、最後の最後まで守ろうとしたんだ。それが出来なくて、狂って、それでも従業員を…仲間達を守ろうとしたんだ!!!」
喚いてるオバさんの胸倉を掴みながら持ち上げる。更に甲高いヒステリックな声が聞こえるが無視して続ける。
「お前の様な自分勝手な自己中な奴に、あの社長さんの気持ちが分かるものか。悔しくて、辛くて、泣きたくて…それでも墓だけでも守ろうしてたんだよ!一人で守り続けてたんだよ!!それを壊したのは俺だ。俺自身だ!だから何も知らない奴が侮辱する事は絶対に許さ無い!!!」
「織原君その人を降ろしなさい。暴力は駄目だ。そんな事をすれば君は何の為にあのブルドーザーを取って来たのか」
野々原警部補が俺に語り掛ける。俺は暫くオバさんを睨み続けて放り投げる。オバさんは地面に滑り落ちながら此方を怯えた表情で睨む。
「二度目は無い。次同じ事言ったら無理矢理外に連れ出してやる。泣き喚こうが何だろうがな」
それを聞いて一気に青褪めた表情になり慌てて逃げ出す。俺はそれを冷めた気持ちで見続けた。
(何も見てないのか?此処に来るまで何も知らないのか?)
余りにも無知な人達に溜息も出ない。俺は空を見上る。
「今日の天気は現実逃避には打ってつけだなぁ」
青く澄んだ空は間違い無く何時もと変わらない様子だったのだから。




