アポカリプスの始まり
「う、うぅ…ん、んあ?あれ?」
徐々に意識が戻って目が覚めたらカーテンから明かりが漏れていた。俺は立ち上がり玄関の棚に置いてあるデジタル時計を見る。すると西暦2022年5月12日のAM5:30と表示されていた。
「嘘だろ?俺、二日以上も寝こけてたのか?然も玄関で」
自分の状況に唖然とするもお腹から大きな音がする。それはそうだろう。何せ丸二日も何も食べてない状態だ。
「一旦風呂に入ってから朝食だな。あー、俺の休日がー」
がっくりと落ち込みながらシャワーを浴びる。しかし身体の痛みも頭痛も無く極めて健康的と言えるだろう。しかしあの時の痛みは何だったんだろうか?
「朝食食べたら課長に連絡するか。流石にこの状態で出勤は無理だな」
またあの痛みを味わいたいとは思わない。俺は手早くシャワーを浴びてスッキリした後、朝食の用意をするのだった。
……
簡単な朝食を食べると丁度良い時間になっただろう。俺は課長に連絡する為にスマートフォンを弄る。すると会社の同期や先輩、友人からも連絡の履歴が多数来ていた。更にツインや他のコミュニティの所からも色々なコメントが出ている。
「何だこりゃ?」
俺は頭を捻りながら取り敢えず友人の田中 三郎に連絡をしてみる。何度か着信すると電話にが出た。しかし様子が何時もと違う様だった。
「慧か!慧なのか!生きてるのか!」
「そんなに慌ててどうした?何か有ったのか?」
「有ったも何も知らないのか?今日本中が、いや…世界中がとんでもない事になってるんだぞ」
「とんでもない事って何だよ。アメリカの大統領が暗殺でもされたか?それかハリウッドスターのスキャンダルとかか?」
俺はテレビのリモコンを弄りながら三郎と話す。
「馬鹿野朗、そんな訳あるか。お前この二日間何してたんだよ」
「実は火曜日の夜に倒れてな。それでついさっき目覚めた所なんだよ。折角の休みがパァだぜ。まあ、今から課長に事情を話して病院に行く予定だよ」
テレビを付けて天気予報を見ようとする。しかしテレビは砂嵐になっていた。俺がチャンネルを変えてると三郎は話し始める。
「慧よく聞くんだ。今は何処の病院もダメだ。それどころか危険な場所だよ」
「危険な場所?一体何が」
リモコンを操作してると無事な番組が出る。そしてその内容はとんでも無く非現実的な内容だった。
「現在"感染被害者"と呼ばれている彼等は非常に危険です。絶対に近付かないで下さい。現在も外出禁止令が発令されており外出は控えて下さい」
某国営テレビがオカルト的な内容を話してあるのだ。更に三郎からも話は続く。
「簡単だよ。皆狂っちまったのさ。個人が狂っただけならまだしも全員が感染する始末だ」
「狂う?感染?一体何の話だよ」
俺の背中から変な汗が出る気がする。しかしそんな事は知らないと言わんばかりにニュースは続いて行く。
「また現在我々報道陣の被害も多数出ており、これ以上の報道は困難な状況になっております。ですので本日午後6時より報道の方を一時中断させて頂きます。どうか御了承下さい」
「簡単だよ。B級のゾンビ映画みたいな世界に為っちまったのさ」
俺はニュースと三郎の話す内容に付いて行けず、暫く沈黙するしか無かったのだった。唯、何方も疲れた声に聞こえたのが印象に残った。
……
「嘘だろ?俺が寝てる間に大規模なドッキリでも仕掛けたのかよ」
「嘘な訳無いだろ。何ならネットで調べると良い。尤も、良い情報は殆ど無いけどな」
俺は三郎の疲労混じりの声を聞いて沈黙してしまう。
「兎に角、慧が無事で良かった。尤も知り合いで無事を確認出来たのは十人も満たないけどな」
「他の連中はどうだったんだ?」
「連絡が付かない。慧の場合は例外だったが、もう絶望的だろうな」
「そんな…」
信じられない現状に言葉が出てこない。それから暫く三郎と話して現状を理解する。
「今は外には出るなよ。少なくとも安全が確認されるまで大人しくしておいた方が良い」
「分かった。俺は今からネットで色々調べるよ」
「ああ。それが一番良いだろう。それじゃあ、気を付けろよ」
三郎との電話を終えてパソコンの電源を入れながらお袋に電話をする。何度かのコールが鳴って電話に出る音が聞こえた。
「お袋?俺だ。慧」
「只今留守にしております。ピーと言う発信音の後にメッセージをどうぞ」
しかしお袋は電話に出る事は無く留守番音声の無機質な声しか聞こえなかった。
親父の電話もお袋同様に留守番サービスにしか繋がらなかった。スマホの着信履歴には5月11日の9時頃に両親からの電話が来ていた。
「親父、お袋…」
暫くスマホを見つめる。そして溜息を一つ吐きながら一旦両親への電話は諦めてパソコンから色々調べ始める事にした。ゾンビと検索すれば某有名サイトやら個人動画が案内される。先ず某有名サイトをクリックして情報を調べる。
其処にはここ二日間でゾンビ、アンデットに関する様々なタイトルが沢山出ていた。その一つで【奴等の特性】についてをクリックする。
【奴等の特性】
このスレッドでは奴等に関する情報を共有する場所です。何でも構いません。生き残る為に皆さんが得た情報を提供して行きましょう。
*注意:全ての情報が正しいとは言えません。正しいかどうかの判断はしっかりと準備をした後に行いましょう。
*此処ではゾンビでは無く奴等でお願いします。ゾンビやアンデットだと現実感が湧かないので。
1:生存者名無しさん
取り敢えず奴等は意外と足が速い。と言っても早歩き程度だがな。
2:生存者名無しさん
時々走る奴等も居るな。動画で見た奴は両腕が捥がれた状態だったが速かったな。
3:生存者名無しさん
>>2
何そのホラー。いや、もう現実その物がホラーだけど。
4:生存者名無しさん
音にも反応するな。匂いとかはどうなんだろう?
5:生存者名無しさん
匂いもある。五日間履きっぱなしのパンツには奴等は興味深々だったぜ。
6:生存者名無しさん
>>5
パンツくらい履き替えろよ!
7:生存者名無しさん
弱点とかは頭だな。ただ一発二発じゃよろけるけど倒せんな。耐久力は結構高そう。
後は腕力が半端無いくらい強い。多分脳味噌のリミッターが外れてる。
8:生存者名無しさん
警官が奴等に銃で撃ってたけど普通に歩いてたな。因みに当たってたのは心臓付近だった。
9:生存者名無しさん
やっぱりゲームや映画みたいに弱点は頭だな。
10:生存者名無しさん
視界はどうなの?奴等は元はその…人間じゃん?
11:生存者名無しさん
視界は分からんな。
12:生存者名無しさん
奴等は集団行動をする。正確に言うなら俺等を追いかけて来る過程でどんどん集まって来る。下手なバリケードは一瞬で終わる。
13:生存者名無しさん
国営メディアも今日で終わりか。よく粘った方だな。流石集金するだけの行動力のある所は一味違うな。
14:生存者名無しさん
>>13
まだラジオがあるしユーツーバーもある。無くてもへーきへーき。
15:生存者名無しさん
>>14
フラグ立てんなよ。冗談で終わらねえんだよ。
16:生存者名無しさん
>>14
昨日からお気に入りのユーツーバーの投稿が途切れてるんだよ!!!フラグ立てんな!!!
17:生存者名無しさん
と言うか俺の澪たんが今でも閉じ込められてるんですけど!?誰か助けてくれ!!!
18:生存者名無しさん
>>17
諦めろ。我等が澪たんは永遠に心の中で生き続ける。それしか自分を慰める方法が無いし。
19:生存者名無しさん
>>17
助けに行って来いよ。まあ直ぐに奴等に喰われるだろうけどな。
20:生存者名無しさん
>>17
引き篭もりが何言ってやがる。自分で何とかしろやボケが。
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350:生存者名無しさん
そもそも自衛隊は何しとるん?こういう時こそ自衛隊だろ?糞の役にも立ってねえじゃん。
351:生存者名無しさん
もっと重要な場所に派遣されてるよ。例えば発電施設。他はネットを繋ぐ施設とか。海自はほぼ領海派遣されてるだろうな。
352:生存者名無しさん
ネットが使えるのも自衛隊のお陰か。まあ、この状況も長くは続かねえよ。もう直ぐ夏になる。そうすれば奴等も腐って動けなくなるだろうよ。
353:生存者名無しさん
>>352
可能性はあるな。唯、確証は無い。
354:生存者名無しさん
そもそもこうなった原因は何?生物兵器とか?テロの仕業か?
355:生存者名無しさん
>>354
生物兵器やテロならまだ救いはある。必ずワクチンがある。だが自然現象なら?ワクチンなんて作るのにどんだけ時間が掛かると思うよ。
356:生存者名無しさん
取り敢えず纏めると。
・奴等の弱点は頭。但し一発で仕留めるのは厳しい。
・移動速度は早歩きが基本。走るタイプも居るが少数?
・匂いにも敏感か?清潔にする事を心掛ける事。
・腕力がかなり強い。掴まれる前に距離を取るべし。
・集団行動になる。集団を見つけたら逃げましょう。
・視界は不明。此れはユーツーバーか学者に期待。
・安全な場所は発電所か主要施設。尤も受け入れられるかは不明。
・澪たんにご冥福をお祈りします。
纏めてみたが意外と情報が少ない事にびっくり。
357:生存者名無しさん
>>356
乙。後最後の奴は認めねえ。絶対に認めねえ。
358:生存者名無しさん
>>356
乙ー。俺も最後の奴は絶対に認めないぞ!絶対にだ!
359:生存者名無しさん
>>356
乙。最後のコメに哀しさしか感じられんわ。
この後も色々調べたが何処も絶望的な内容ばかりだった。特に学校や病院などの集団で居る場所とかは近寄らない方が良いと言われてる始末だった。
そして俺の両親は共に小学校の教師だ。あの人達は生徒達を見捨てる様な性格はしていない。寧ろ怪我をしている子供を見つければ心配する人達だ。再度スマホを見ながら思う事。それはどう考えてもこの状況と両親の性格を考えれば最悪な結論しか出なかった。