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Z of the Day  作者: 吹雪
18/38

高鷲警察署5

西暦2022年5月16日。


朝。それは誰もが朝日と共に起きて活動し始める。しかし例外もある。朝だろうが夜だろうが社畜以上に立ち続け人に襲い掛かる存在。奴等は今日もいつも通りに活動し続けている。


「リロードしてシリンダーを戻す。サイトに頭を合わせて引き金を引く。構える時は」


あの後も色々尋問…もとい、質問を受けた。田所さんからは感謝はされたがそれはそれ、これはこれと言った感じに言われた。それから後に銃の扱い方や整備の仕方を教えて貰ったのだった。

本来なら一般人である俺に教えるのは御法度だろう。しかし今の状況では致し方が無いと田所さんは言い切った。


「それに危険を承知で救助しようとする人を見殺しには出来ない」


この時の田所さんは間違い無く警察官としての職務を全うしていた。


「準備は出来てるかね?」


「野々村警部補。はい、大丈夫です。いつでも行けます」


如何やら野々村警部補は俺の見送りに来た様だ。


「意外と様になってるじゃないか。これから先は大変だろうが頑張ってくれ」


「有難うございます。必ず成功させて見せます」


「そうか。そう言えば避難してる人達には今回の作戦は伝えては要るのかな?」


「昨日の夜に伝えています。恐らく運転手を除いた全員が一台のマイクロバスに乗ってるかと」


そこそこの大きさがあるマイクロバスだ。多分乗り切れてる筈だ。

作戦の大まかな流れは先ず最初にマイクロバスをスーパーまで案内する。そして大量の食料を確保する。一応手伝っては貰うが慎重な行動が必要だ。

次に少々距離が有るがブルドーザーの整備工場まで行く。工事現場だと馬力のあるブルドーザーが無い可能性もある。だから整備工場まで行く事にした。この時にはマイクロバスは奴等が居ない場所で待機して貰う。

そして最後の山場になるが、ブルドーザーを先頭にそのまま高鷲警察署に向かい強行突入する。そして強行突入してる間に正門前のバリケードにしている消防車を少しだけ動かして貰う。そして其処に出来た隙間にマイクロバスを止めて全員が降りる。

最後に消防車のハシゴを使い残り2台のマイクロバスの運転手だけを回収して取り敢えず完了になる。食料は後々回収する手筈になっている。

もし此処でブルドーザーが壊れたり止まったりしたら俺を除いた33名の命は無いだろう。


「それでは行ってきますよ」


「ああ。死ぬんじゃ無いぞ」


お互い握手する。そしてスマホを取り出し電話をする。電話の相手は上坂中央ドームで交換した人だ。電話には直ぐに出てくれた。


「もしもーし、おはよう。良い朝だね。作戦開始するよ」


「おはようございます。分かりました。全員に伝えておきます」


「宜しく。それじゃあ作戦開始!と言う訳でお願いします」


「分かった。放水用意!」


野々村警部補が無線で指示を出す。そして俺は消防車まで走る。消防車は外に置いてあるが門の直ぐ側にあるので直ぐに乗り込める。消防車の上に乗りハシゴの方まで登って行く。


「さあ、捕まって!」


「高木さん、有難うございます」


「頑張れよ。無事に戻って来るのを待ってるからな。放水始め!」


消防車から奴等に向けて放水が始まる。勢い良く出た水は瞬く間に奴等を吹き飛ばし倒して行く。そして放水によって出来た空間に飛び降りる。


「織原さん!御武運を!」


高木さんの声に手を上げて答える。そして奴等の合間を縫ってバイクが置いてある場所まで走って行く。高鷲警察署の方へ振り向くと再び奴等が立ち上がり腕を伸ばし生者を求める。放水によるダメージがあるかどうか分からない。それでも吹き飛ばされる訳だから、それなりのダメージは有る筈だ。


「今日も一日頑張って行こうか!て、掴むな掴むな」


やはり奴等は音には反応するが襲って来る訳では無い。其処に有る物を掴もうとしてる感じだ。

バイクが置いてある場所に到着してエンジンを掛ける。奴等の呻き声しか聞こえない爽やかなとは言えない朝にエンジン音が鳴り響く。


「よし行くぞ」


バイクを走らせマイクロバスの方まで行く。高鷲警察署から離れ始めると奴等の数は減って行く。


「この調子だと他の避難所も似たり寄ったりの状況なのかもな。全くどうしろってんだよ」


愚痴を零しながら暫く走りマイクロバスに合流する。手を振り運転手に合図を送る。すると他の人達も手を振り返す。特に瑞樹さんは投げキッスまでしてくれた。気合いが嫌でも漲ってくる。

そのままバイクをUターンさせてマイクロバスを先導する。バイクでは奴等を避けるがマイクロバスは奴等を轢いて行く。時々嫌な音が聞こえるが仕方無い。

そしてスーパーに辿り着きバイクのエンジンを止める。同じくマイクロバスもスーパーに寄せて停める。


「勇気のある奴だけ手伝ってくれれば良い。それ以外は下がってくれ」


俺はスーパーの台車を引っさげて食料を次々と載せて行く。米、カップ麺、お茶、水等。兎に角沢山台車に載せて行く。


「これを頼む」


「ああ分かった。急ぐぞ」


男性が5人待機していた。其処に台車に載せた食料を置いて行く。それを次々とマイクロバスに押し込んで行く。そして次の食料を回収しに行く。

これを何往復もして行く。しかし台車の音や食料を載せて行く音や俺達が発する音に奴等が寄って来る。

警棒を展開して奴等の頭に叩きつける。それでも奴等が寄って来る。


「織原さん、先に食料をお願いします。此処は自分達で何とかします」


そう言って彼等は消火器や刺股を奴等に向ける。


「分かった。噛まれるなよ」


「大丈夫です。この位の数なら対処出来ます」


そう言って二人が刺股で奴等を取り押さえて一人が消火器で頭を叩き潰す。連携も出来ているし消火器は警棒より破壊力があるからほぼ一撃で倒せている。その姿を確認してから再び食料を集める為にスーパーの中に入って行く。早く終わらせる為に。

スーパーの関係者以外立ち入り禁止の場所にも入って行く。其処には店頭に並べられてない商品が沢山ダンボールに詰められていた。缶詰、カップ麺、インスタント、2Lペットボトルを次々に積んで行く。

そんな時だった。僅かだが複数の足音が聞こえた。意図的に足音を殺している。裏口のドアが開き顔を隠しバットやゴルフクラブを持った数人の男性が現れる。

お互い目が合うが無視してさっさとマイクロバスに向かう。彼等は何かを言いたそうにしていたが構ってる余裕は無い。


「これで終わりだ。他の生存者が居た。逃げるぞ」


「助けないんですか?」


「…全ては助けられん」


一瞬の間を空けて答える。それを察したのか無言で食料をマイクロバスに積んで行く。これで終わりと言うが1.8台分位積まれてるから大丈夫だろう。

彼等が積み込みをしてる時だった。背後から先程の人達が来る。


「よう、そんなに急いで何処行くんだ?」


「……」


俺は彼等を守る様に立ち塞がる。しかし男性達は気にした素振りは無い。


「なあ、こんな時だ。助け合いは必要だろう?何処に行くのは教えてくれよ」


「それ以上近寄るな。これは…警告だ」


そう言ってM37エアウェイトを構える。流石に銃口を向けられたからか狼狽え始める。


「おいおい待てよ。落ち着けって。な?別に取って食おうって訳じゃないんだ」


「悪いな。俺は以前学生に襲われてな。其処で食料を奪われたんだ。だからあんた達が同じ事をする可能性がある」


「だったら何処に行くかだけでも教えてくれよ。なあ?頼むよ」


暫くお互い見つめ合う形になる。しかしスーパーの入り口に人影が見えた。


「マジかよ。奴等はもう来たのか!」


人影が姿を現した。それはこのスーパーの常連さんだろう。買い物籠を持ったおばちゃんが男性達に襲い掛かる。


タアァン!!


1発の銃声が鳴り響く。それと同時に奴等が倒れる。男性達は驚いた様子で後ろを振り返る。その隙にマイクロバスに合図を送り自分のバイクに乗り込む。


「高鷲警察署。追い掛けて来るなら好きにしな。但し、命の保証はしない」


そしてバイクのエンジンを掛ける。それと同時にマイクロバスも動き出す。


「ま、待ってくれ!俺達も」


「……すまん」


一言残して走り去る。背後を振り返る事は無かった。正確に言うなら振り返る勇気が無かったのだ。そう見捨てると言う現実から目を逸らしたかったのだから。

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