表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Z of the Day  作者: 吹雪
13/38

上坂中央ドーム6

西蓮寺さんの手を握り走る。今此処でトップアイドルの西蓮寺 澪とのツーショットの写真でも撮られれば色んな意味で一躍有名人になるのは間違い無い。けど悲しいかな。現実は奴等を転ばしたり叩いたりしながら上坂中央ドームから脱出しようとしている。


「もうすぐですよ。頑張って下さい!」


「は、はい。あと…あと少しで出れるんですよね」


「そうですとも。だから全力で走るんだ!」


近くに居た奴等を蹴り飛ばしながら血塗れの通路を走る。目の前にかつてのアイドルだった奴等が見えた時、西蓮寺さんの手に力が入った。


「止まるな。止まったらああなるんだ。だから行くぞ」


「……」


返事は無い。それでも走る事は止めない。最後の曲がり角を曲がって裏口のドアまで走る。

そして勢い良くドアを開けて外に飛び出す。目の前にはまだマイクロバスが停まっていた。此方に気付いた生存者達は此方に手を振る。中には同じアイドル仲間も居て喜び合っていた。


「さあ、中に入って!」


「はい!慧さん本当に有難う御座います!」


西蓮寺さんは同じMSSアイドルの仲間達が居るマイクロバスに乗り込んで行く。


「澪!無事だったんだね!」


「心配したんだよ〜!本当に本当に!」


「良かった。澪が生きてて…本当に良かった!」


「皆…私も皆に会えて嬉しいよ!」


喜びを分かち合う仲間達。その間に連絡先を交換した人に話し掛ける。


「他の生存者は?」


「お二人が最後です」


そう言って彼は力無く首を横に振るう。他のマイクロバスを見ると座る席には余裕があった。つまり…そう言う事だ。


「そっか。それじゃあ避難先はどうなんだ?」


「此処から大通りに抜けて5キロ程走った所に警察署が有ります。其処は避難場所として指定されてました」


スマホを見せて貰い確認する。確かに一番近い場所の高鷲警察署は避難場所として指定されていた。後は上坂国立大学、上坂南市民ホール、高鷲私立学院が載っていた。但し高鷲私立学院は現在奴等が敷地内に現れてる状況なので危険だと警告も出ていた。

それと同時に両親が居る筈の西上坂市立小学校は避難場所に指定されて無かった。


(分かっていた事だ。今は目の前の事に集中だ)


せめて此処にいる人達は助ける。せめて両親が胸張って行ける様にする。今の俺にはそれしか出来ない。


(それにまだ死んだと決まった訳じゃない。もしかしたら生徒を連れて他の避難場所に逃げてる可能性だって…)


目を閉じて深呼吸する。意識を切り替えてから目を開けて周りを見る。今は両親の事は忘れる事にした。今はそれしか出来ないからだ。


「成る程な。なら早速警察署に…クソ、マジかよ。奴等が結構居るな」


窓から警察署の方を見ようとするが駐車場側には曲に引き寄せられた奴等が集まっていた。


「このまま奴等を轢き殺せば良いんですかね?」


「駄目だろ。もし横転したらどうすんだよ。俺達全員喰い殺されるぞ」


「じゃあどうすんだよ!此処まで来て死ぬとか嫌だぞ!」


バスの中では人々が話し合い現状をどうにか打開しようとする。しかし俺にとっては余り深刻な状況では無い。

再び外に出ようとドアに手を掛ける。すると誰かに腕を掴まれる。振り向くと西蓮寺さんが心配そうな表情で此方を見ていた。


「外に…行かれるんですか?」


「そうですよ。奴等は俺が引き寄せる。その間に脱出して欲しい」


「駄目ですよ!そんな事したら慧さんが死んでしまいますよ!折角生きて此処まで来れたんです。だから」


「大丈夫大丈夫。そんな深刻な表情しなさんなって」


「でも!」


彼女は俺の腕を強く握り真っ直ぐに目を合わせてくる。やはりと言うべきか、こんな状況だが西蓮寺 澪は綺麗だ。正直言って平時の時にこんな風な状況になれば一発で恋に落ちただろう。そしてMSSアイドル関連のグッズとかを買い漁って満足したのかも知れない。

だが今はそんな時では無い。俺は彼女の手を握りながら話す。


「誰かが行くしか無い。なら俺が行くべきだ。幸い俺はバイクがあるし奴等とのやり取りは慣れてる。だから大丈夫だ」


それでも心配なのか嫌々と首を横に振る。そんな彼女を見ながら良い事思い付いた。


「あのさ、こんな状況で申し訳無いんですけどね?MSSグループの人達と写真撮って良いですか?」


俺はスマホを出して他のMSSメンバーに言う。彼女達は顔を見合わせてから此方に向いて頷いてくれた。


「それくらい構いませんよ。何せ命の恩人ですもの」


「そーそー。一人ずつ撮ります?それとも全員かな?」


「なんなら抱き着きましょうか?」


冗談半分な台詞も聞こえたから軽く苦笑いしながら首を横に振る。


「抱き着いて貰うのは非常に魅力的だけど平時に戻った時に君達のファンに殺されるから勘弁な。取り敢えず全員でお願いします。あ、スマホ頼む」


俺は近くに座っていた男性にスマホを渡す。その間にMSSアイドル達は俺の周りに集まってくれた。


「いやー、こんな写真取れるなんて贅沢だよな。しかも無料だし」


「あはは〜。このー、罰当たりめ」


「私達を手玉に取るんですか?駄目ですよ?」


「ふふ。じゃあ、私は少しサービスして上げようかな?」


「ちょっと瑞樹くっ付き過ぎじゃ無い?」


「だって狭いんだもーん。だからくっ付くのは仕方ないもーん」


なんやかんやで全員俺に密着してくれる始末。最早殺されても仕方ない状況だ。


「じゃあ撮りますよ。ハイチーズ」


カチャリと言う音と共に写真が撮られる。俺はスマホを返して貰い写真を見る。

写真だけ見るなら何処かのハーレム野郎に見えなくも無い。尤も、現実はハーレムとは程遠いがな。


「じゃあ、写真も撮れたし。行ってくるよ」


「でも危ないですよ!」


不安そうに此方を見る彼女達にスマホを見せながら言う。


「報酬は貰ったからね。奴等が離れたら直ぐに移動してくれ。それじゃあ行ってくるよ」


返事を待たずにドアを開けてマイクロバスから降りる。再び裏口に入り別の所から駐車場に向かう。流石にあれだけ集まってる奴等の中に入って行くのは無理だ。最悪身動きが取れなくなるだろう。


「最後の仕上げだな。一気に終わらせるぞ」


自分のバイクに向かって走りながら今後に付いて考える。彼等が警察署まで行くのを付いて行くのは当然として、その後はどうするかだ。

一番良いのは直ぐに警察署に入れて貰う事だ。だが警察署に居る人達も良い顔はしないだろう。何故ならこの状況で他人に気を配る余裕が有るだろうか?答えは否だ。ならどうするかだ。


「簡単な事じゃないか。余裕を与えれば良い」


俺に出来る事。少なくとも食料くらいなら取ってきて渡す事が出来る筈だ。大量の食料を渡す事が出来れば受け入れてくれるだろう。


「後は趣向品とかも有れば良いかも」


俺なりに考えながらバイクに向かって移動する。上坂中央ドームには奴等が沢山居るものの、外周辺りの通路にはチラホラ居るくらいだ。そんな中時々悲鳴が聞こえてくる。残った生存者達が奴等に襲われてるのだ。その悲鳴に引き寄せられるかのように奴等は移動する。

助ける事はもう出来ない。彼等の命とマイクロバスに居る人達と天秤に掛ければ直ぐに答えは出てくる。それでもだ。


(辛い事に変わりは無い)


助けたい気持ちを抑えながら先に進んで行く。奴等を全て無視して漸くバイクがある場所に到着する。バイクに跨りキーを回す。エンジンは直ぐに掛かり景気良くマフラーから音が鳴り響く。それと同時に近くに居る奴等が寄ってくる。


「追い付ける筈も無いのに御苦労さんな事だな」


アクセルを回し走り出す。スピードを緩める事はせずクラクションを鳴らす。奴等は此方に視線を向けて近付こうと腕を伸ばす。だがバイクの速度に追い付ける筈も無い。

だが奴等は何処からともなく現れる。それは徐々に周りに集まって来てバイクの走れる場所を奪って行く。


「まだか。まだ移動出来ないのか?」


そう呟いた時、他のエンジン音が聞こえた。其方に視線を向けると3台のマイクロバスが奴等を轢きなが走って行く。マイクロバスが走って行くのを確認してから此方も警察署に向かう。

俺は最後に上坂中央ドームを振り返る。彼処には奴等が大量に収容されている。中に残って居る生存者達は最早絶望的だろう。


「本当、何でこんな事になってんだろうなぁ。まあ、いずれ遅かれ早かれ元通りになるか」


俺はそう呟きバイクを走らせる。この時、俺は多少なりとも楽観視していた。どんな状況になろうとも必ず元の生活に戻れると。今すぐとは言わない。だけど時間を掛けて元通りになると。


そんな甘い考えを奴等は許す事は無かった。そして、それは同じ人間さえもだった。






太平洋中央付近 アメリカ海軍ジェネラル・R・フォード級航空母艦 ジョン・F・ケネディ


西暦2022年4月に就役したジョン・F・ケネディはアメリカ海軍にとって最新鋭航空母艦と言えた。多数の艦載機に大量の人員と物資。更にジョン・F・ケネディを守るようにタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦、アーレイ・バーグ級ミサイル駆逐艦、多数のタンカー、揚陸艇が随伴していた。


大統領(プレジデント)、空母の乗り心地には慣れましたかな?」


「うむ、最初に比べれば慣れたものだ。今では実に居心地は良いよ。ありがとうフランク大佐」


「いえいえ。所で…例の動画は見られましたか?」


フランク大佐は大統領に動画について尋ねる。大統領はオーバーリアクションを取りながら話す。


「実にナンセンスな映像だったよ。あの忌々しいアンデットの近くで音を立てる?更に自分は平気?然も、それが極東に居る日本人(ジャップ)と来たものだ」


「大統領、暴言はやめて下さい。貴方は誇りあるアメリカの大統領です。極東の日本は我々と盟友ですよ?」


「ふん。奴等は金蔓と防壁の役割を果たせば良い。尤も、今でも防壁の役割はあるがね」


「それで作戦の認可は頂けますか?」


「……」


フランク大佐の言葉に沈黙で返す大統領。そしてゆっくりと口を開く。


「希望は必要か」


「そうです。その希望は今生きてる人々には欠かせない物となっています。今尚核戦争が起こってないのも確かな希望があるからです」


「…そうだな」


そして大統領はペンを取り出し書類に自身の名前をサインする。


「細かな手配は君達に一任する。しかし表立っての行動は許可出来ない。未だに日本という国は機能している」


「心得ております。それでは準備がありますので。失礼します」


フランク大佐は敬礼をして大統領の居る部屋から出て行く。残された大統領は葉巻に火を着けて思いっきり吸う。


「希望の光は我々が保持しなければならない。世界の覇権を握るのが…こんな奴とはな」


書類に目を通しながら大統領は葉巻を吸い続ける。其処には織原 慧の写真と個人履歴が有ったのだった。

空母とかは予想です。ご注意下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ