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Z of the Day  作者: 吹雪
10/38

上坂中央ドーム3

悲鳴により奴等が何処からともなく現れ始める。俺はM37エアウェイトの弾をリロードしながら部屋の中に居る人達に言う。


「さっきも言ったが好んで見捨てるつもりは無い。助けられるなら助ける。だが俺一人では出来ない事が多過ぎる。だから何かしらの案を頼む。それから、その人はもう…」


奴等に噛まれた腕を抑えながら呻くオッサンをチラリと見ながら言う。


「こ、この人はどうすれば?噛まれてしまいましたけど」


別の男性が此方に噛まれたオッサンについて聞いてくる。この状況で流石に知らない訳が無いだろうに。それでも聞いてくると言う事は奴等を殺す事が怖いのだろう。


「そんなもん誰もが知ってるだろ。どうするかは其方に任せる。オッサンの大声のお陰で奴等が来てるし」


彼等の引き留める声を無視しながら奴等に対しM37エアウェイトの銃口を向ける。


「お前らこっちに来いよ。鉛弾を喰らわせてやるからよ!」


奴等に向けて再び発砲。そしてそのまま部屋から離れる様に走る。当初の目的である西蓮寺 澪を救うのは当然として、他の人達を見捨てる理由は無い。色々脱出方法を考えながら西蓮寺 澪を探すのだった。


……


上坂中央ドームは東京ドームよりは小さい建物だが、収容人数は35,000人を誇る大型ホールだ。更に奴等が発生した当日は間違い無くほぼ観客は満員だっただろう。


(奴等の数が多いな。これじゃあ西蓮寺 澪を見つけても助けられんぞ)


裏方の通路を歩きながら探し続ける。


(そう言えばツインで助けを求めてたよな。どの辺りか分かるかも)


スマホを弄りツインから西蓮寺 澪のコメントを見る。



【MSS】西蓮寺❤︎澪2022.5.11

これからステージに行きます。皆さんの声援が私達の力になります。応援お願いします(^^)


【MSS】西蓮寺❤︎澪2022.5.11

信じられない。観客がいきなり襲ってくるなんて。然も朱里と茜が襲われた。

こんな事有り得ない。


【MSS】西蓮寺❤︎澪2022.5.11

誰か助けて!こんな場所に逃げ込んだけど危ない人達がずっとドアを叩いてる。

誰かに押されなかったらこんな所には来なかったのに。


【MSS】西蓮寺❤︎澪2022.5.11

助けも来ない。警察にも繋がらない。色々調べたけど信じられない。早く夢なら覚めてよ。


【MSS】西蓮寺❤︎澪2022.5.12

スマホの充電が切れそう。私は此処に居ます。誰か助けに来て下さい。お願いします。


【MSS】西蓮寺❤︎澪2022.5.12

多分これが最後になります。死にたく無い。お母さんとお父さんに会いたい。誰か助けて。



西蓮寺 澪のコメントは此処で途絶えている。多分だけどフォロワーからのコメントが多数来た結果、スマホの充電が早く切れたのだろう。一応西蓮寺 澪が現在地の場所が写真で見れた。但しドアの隙間から撮ったのだろう。非常に見にくい写真だが、辛うじて非常灯の明かりと消火器が置かれてる赤いランプが確認出来た。


「ヒントはこれだけか。何も無いよりマシだけど」


取り敢えず非常灯と消火器を探す。それから奴等がドアを叩き続けてる場所もだろう。暗い通路をLEDライトで照らしながら西蓮寺 澪を探す。奴等の呻き声と俺の足音だけが通路に響き渡る。

暫く一階辺りを探しヒントの場所を続けると、奴等の呻き声が多数聞こえた。其方に足を運び様子を見に行くと備品室と書かれた場所のドアを奴等が叩き続けていた。周辺を見渡せば丁度非常灯と赤いランプも確認出来た。


「そろそろフライパンの出番かな」


奴等の背後に回り込みフライパンを取り出す。そのまま振り被り奴等を倒して行く。しかし一発二発では倒れる筈も無く、何度も叩き付ける。それでも倒し切れないので近くにある消火器で思いっきり叩き付ける。

奴等を叩く度に結構な音が鳴るが、幸いにも他の奴等が近寄って来る事は無かった。


「これで全部か。さて、そろそろ西蓮寺 澪とのご対面と行きますかね」


奴等が叩き続けた結果、血塗れのドアをノックする。だが反応は無かった為ドアを開ける。ドアはあっさり開き中を確認するも電気が点いて無かった。直ぐ近くのスイッチを入れると薄明るい光が備品室を照らす。棚が三列縦に並んでる為中の様子は見えない。静かに部屋に入り西蓮寺 澪を探す。


「西蓮寺さん生きてますか?生きてたら返事下さい」


小声を出しながら部屋の奥に向かう。そして遂に目的の人物が居た。ボロボロの布に包まってる人物だ。体育座りしてるからか顔は確認出来ない。だが此処に来て外れは無いだろう。


「西蓮寺さん?西蓮寺 澪さんですよね?」


西蓮寺 澪が俺の声に反応してピクリと動く。そしてゆっくりと顔を上げて此方を見る。


「あ、あぁ助け」


「ひぃやあああ!出たああああ!?」


「…え?」


其処に居たのは確かに西蓮寺 澪だった。多少やつれてはいたが間違いなかった。整った表情でありながらパッチリ目で少しあどけない雰囲気。髪型はボブヘアーで非常に似合っている。だが涙や鼻水で化粧がぐしゃぐしゃになり、更に薄明るい埃っぽい部屋がホラーな雰囲気を作り上げていた。

とても失礼な事だと分かっていたが、余りに予想とは外れた状況での出会いだったので勘弁して欲しいと強く思ったのだった。


……


余り宜しくない出会いの俺達だったが、食料と水を渡したら幾分かマシな反応は示してくれた。


「確かに沢山泣きましたから化粧とかダメになりましたけど、けど!」


「だから悪かったって。後余り大きな声は駄目ですから」


「ふん。それで本当に貴方だけなんですか?警察とか自衛隊は?」


「多分無理だと思いますよ。ほら重要施設とかが最優先されてる筈ですからね」


「そう。ならどうやって此処から出るんです?と言うかどうやって此処に来れたんです?」


「まだ何も考えは無いな。取り敢えず先ずは奴等をどうするかだよな。来たのは表から堂々とな」


俺が事実を言うが西蓮寺は胡散臭い表情で此方を黙って見る。ちょっと、そんな表情やめてよー。君アイドルなんだよ?もっとこう、夢を見させて下さいな。


「却下します。今はアイドルとか関係無いでしょう」


「うん。まあ、そうなんだけどねー。あれ?俺喋りましたっけ?」


「顔に出てたわよ。因みに表から堂々なんて私には無理ですから」


「だろうな。さてと、取り敢えず一旦他の人達の所に戻るよ」


「え?戻るって?」


俺は立ち上がりヘルメットを被り直し、M37エアウェイトとフライパンを持ち立ち上がる。


「後で此処にも戻ってくるから。その時までには脱出方法を考えておくよ」


ドアに向かって歩き出す。しかしドアに辿り着く前に腰の辺りを抱き込まれる。


「お願い、此処から離れないで!もう一人は嫌。また奴等が来ちゃう!」


西蓮寺 澪の体は震えていた。それはそうだろう。何せずっと一人で此処に居たわけだ。然も俺が来るまでずっと奴等はドアを叩き続けていた。肉体的にも精神的にも追い詰められてた筈だ。そんな中漸く生きた人間が来た訳だから取り乱すのも無理は無い。


「大丈夫、大丈夫だから。必ず戻りますから」


「でも!でも!」


泣きながら此方にしがみ続ける。それでも何とかなだめる様とする。


「落ち着いてくれ。俺の目的は君を助ける事だ。だから簡単には見捨て無い。けど他の人達も居るんだ。出来れば彼等も助けたい」


暫く泣き噦る西蓮寺の背中を軽く叩き続ける。そして少し落ち着いてきたので再び話し掛ける。


「今は我慢どころだ。もう少ししたら此処から出れるんだ。だから行かせてくれ」


「……戻ってくる?」


「勿論さ。それにさ、俺は西蓮寺 澪のファンだからな。全部終わったらサイン貰うつもりだしね。後写真も頼むよ」


「良いわよ。全部終わったサインでも何でも上げる。だから絶対に戻って来て」


「分かった。必ず戻る」


西蓮寺の手がゆっくりと俺から離れる。泣き腫らした表情が痛々しいが同情する訳には行かない。


「じゃあ、行ってくる」


「無事に戻って来てね」


俺は再び奴等の居る場所に戻る。この上坂中央ドームに居る生存者達をどうやって救うか。色々考えながら先に進むのだった。

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