第一章
そうして、いつも通りに学校は終わり、僕は帰路に就いた。いつの間にか、あたりはもう真っ暗だ。
帰りの電車は、たいして混んではいない。それもそのはずだ。大半の人は朝東京方面に向かい、帰りは東京から去っていくのだから…。
でも、僕はその反対で、朝は東京から去っていき、帰りは東京に向かう。つまり、人の流れとは完全に逆に登下校をしている。だから、反対側の電車はとても混んでいる。
僕は、ふと反対方面の電車を見た。
…気持ちが悪いほどの数の人が乗っている。こうしてみると、現代人はとても大変そうだ。
毎日満員電車につぶされ、ストレスを溜めて会社に行く。そしてその会社でも、ストレスを溜める。今は、確かに物は豊かになっている。でも、それとは対照的に、「心の豊かさ」は失われていく。そんな風に、僕は思う。
毎日、無機質な機械を操作し、人との会話も機械。もはや生活のほとんどが、機械任せになっている。正直僕は、機械なんかが今ほど発展していなかった時代のほうが、今よりも何倍も楽しく生きられたのではないかと思う。そう思うと、なんだか皮肉だ。人間の生活を豊かにするはずの機械が、逆に人間の生活を非充実的なものにしているのだから…。
…そうして考え事をしているうちに、僕の町が見えてきた。
僕は、いつものホームに降りた。
「新小町~新小町~。」そう、無機質な自動音声の音が聞こえてくる。ここまでは、いつも通りだ。
…でも一つ、いつもと違うところがあった。それは、「ホームにあの少女がいる」というところだ。
いつもなら、帰る時間も学校の距離も違うので、駅で会えることなんてほとんどない。なのに、今日はこうして、改札階に降りることもなく、ホームに一人で佇んでいる。しかも、どこかいつもよりも落ち着きがない気がする。
…僕は、少し、寒気のようなものを感じた。
そして、いつの間にか、僕を乗せていた電車の電球が、小さく見えるようになっていた。
…それから何分か経ち、またも無機質な自動音声の音が聞こえてきた。
今度は、この駅を通過する予定の特急列車が来るらしい。
…するとその少女は、小さな溜息を一つつき、その電車が来る方のホームに向かった。
僕は、その一瞬で、これから起きる出来事を察してしまった。
“フォアアァァァァァァァァァン!!!!!!!…”
夜の気味が悪いほどに静かなホームに、突然とその静寂を破るかのような警笛の音が響き渡った。
その少女が、線路に向けて駆け込んでいるのが、少し眠たくなってきた僕の目に鮮明に映った。
…そう。いやなほどに、くっきりと。
僕は初めて、「自殺」というものをこの目で見た。その瞬間ふと、さっきまでの眠気はとうに、どこか遠くに行ってしまったかのように感じた。その時、自分がどうすればいいか、なんてことはわかっていた。
…でも、僕の脚は、まるで地面に接着剤か何かで固定されたかのように、ただただじっと動かずに、ブルブルと震えているばかりだった。
…でも、「僕が彼女を助けなくて、誰が彼女を助けるというのだ!僕が愛した少女を、僕の目の前で殺してなるものか!」そんな思いが、ふとこみあげてきた。だから僕は、その少女の腕を、僕の出せる最大限の力で思いっきり掴み、ホーム側に引っ張った。
「何をしているのよ!離してよ!」
そう、彼女は必死に叫ぶ。
…その直後、僕の近くを冷たい風が吹き抜けた。僕は、少しヒヤッとした。そうして、何事もなかったかのように、駅を特急列車は通過した。
…そう。彼女の行為は、ただの“未遂”へと化したのであった…。
そうして彼女は、泣き崩れた。そして、泣き崩れて、しゃくりあげながらも、擦れた声で叫んだ。
「どうして、引き戻してしまったの…?
あと少しで、こんな地獄ともおさらばできると思っていたのに…!もう少しで、解放されるところだったのに…!
なぜ、私をこんな地獄に引き戻したりなんてしたの…!?」
「それは、あなたが僕の目の前で自殺をしようとしていたので、放っておくわけにもいかないと思って…。」
僕は、冷静に答えた。…つもりだ。
「どうして…!どうして…!あなたは、私のことをまるで知らない筈なのに、どうして平然と、こんな真似ができるの…!」
「そ、それは…。」
「じゃぁ、どうして、こんなことをしたのよ…!あなたに私の何かわかるっているの?あなたに私の辛さがわかるっていうの…?」
そう、苦しそうに叫んだ少女に対して、僕は何も答えることができなかった…。
少々文字数は「そうしてまた、繰り返す。」と比べると少ないですが、いかがだったでしょうか…。
まだ始まったばかりですが、いきなりショッキング?な内容になりましたね(笑)
…まぁ、タイトルからして予想で来ますが。←
何はともあれ、次回投稿予定も、たぶん「自殺」の二話です。
「そうしてまた、繰り返す。」、そろそろ更新されないかな…(←他人事)