反省会
今日は二話投稿です。
王位継承戦の一回戦がすべて終わってから二時間後、優斗たちは宿には戻らずに転移魔法でダンジョンに一度帰り、晩御飯を食べながら今日の試合の反省やこれからの展開について話をしていた。
「とりあえず一回戦敗退はしなくてよかったな。敵は思ったよりも強かったが、あくまでもこちらの許容範囲内だったから助かった」
「せやな。向こうの素の実力は想定内やったけど、まさかあんな武器が出てくるとは思わへんかった。SRに匹敵する装備を出してくるなんて反則やで」
「そうでもないだろ。あれくらいは想定しておくべきだったんじゃないか?」
「それも一理あるな。とは言えそのことについてはもうよそう。問題は次の試合でどうなるかだ。ほら、これがあいつらの書いてきてくれた報告書だ」
優斗はそう言って文字の書いてある紙を見せる。これは優斗の配下が準決勝で当たる相手の決まる第三試合を見て取ってくれたデータであり、四人はそれをしばらくじっくりと見た。
「見たところ今日の相手と同じぐらいか?こいつらも隠し玉を持っている可能性はあるが、それを踏まえても大丈夫そうだな。それどころか、人数的な問題で言えば今日よりも楽になりそうだな」
「せやな。敵の人数が半分になるのはでかいよな」
優斗たちが次戦うのは今大会最年長の第一王子だ。そのため敵の配下の数は二人、王子本人も含めると合計で三人になるので、第十三王子の合計六人からは半分になる。
「ただ面倒なのは王子本人が強いことだな。乱戦になってこちらの王子を狙われると分が悪くなる。それに王子本人が強いせいで、今日のような王子を狙うことで相手の注意をそらす作戦が使いずらくなるな。下手したら王子を狙おうとした隙を突かれてやられてしまうかもしれん」
第一王子の力は今日戦った第十三王子、そして優斗たちの依頼人の第十八王子と比べて段違いの力を誇る。今大会最強の第四王子に比べると弱いようなのだが、それでも王子本人の実力だけで言うと今大会ナンバーツーである。
そのため王子同士で戦うとどちらが勝つかは明白であり、実力的に王子を守らざるせざるを得ない優斗たちと王子が守られる対象どころかむしろストロングポイントである第一王子たちでは、乱戦になった際に王子にある程度注意を向けざるを得ない優斗たちが不利になるのだ。
また乱戦にならなかったとしても、今日優斗たちが相手にやったように敵の王子を狙うことで敵配下の注意をそらすということをやられる可能性もある。
数の差が倍あるのでその点では優位にあるのだが、大事な王子の力に差があるということでそういう意味では今日の相手よりも厄介であった。
「明日の相手が今日と同等以上に厄介であることはわかってもらえたと思う。一回戦で力を隠している可能性も考えれば、下手したら今日の相手よりも数段強い可能性もないわけではない。そこで提案なのだが、今日の反省を生かして明日戦う武器のグレードを少し上げないか?」
「グレードを?」
「そうだ。今日俺たちが装備していたのはRだったが、敵はSRに匹敵する武器を使ってきた。ユズにいつも出している以上の力を出してもらうことで勝つことができたが、このままだと明日もそうする必要があるかもしれない。
まあ今回のプラン的にはユズに頑張ってもらうことに支障むしろ望むところなのだが、毎試合それでは芸がない。俺たちだってもう金級冒険者なんだ。そろそろもう少しグレードの高い武器を使ってもいいんじゃないか?」
優斗たちはルクセンブルクに来て冒険者になってから、常につけている装備はRに相当するものであり、街で買ったマジックアイテムもR以上のものは身に着けてこなかった。
優斗たちはこの二年間でVRに相当するアイテムを外からいくつか入手はしていたのだが、それらはすべて研究用ということでダンジョンに、もっと言えばエリアスの研究室に送られている。
普通の冒険者なら手に入れたアイテムは使える物なら使い、使えない、もしくはそれ以上のアイテムを手に入れたため使わなくなった物は商人や知り合いの冒険者に売ったりする。
しかし優斗たちはその高い実力から装備を更新するつもりはなく、珍しいアイテムがあればエリアスのために渡していた。他の冒険者は優斗たちが元からある程度高位の装備をしていたためあまり不審がってはいなかったのだが、それでもさすがにそろそろ装備の更新をしておかないと不自然ではあった。
「たしかにそろそろ装備の更新をしてもいいころかもしれんな」
「ほんならVRの装備をいくつか出すんか?」
「僕はマジックアイテムがいいです」
四人が自分の装備するVRのアイテムを話し合う。さすがにいきなりすべてのアイテムを変更したりSR以上の装備を使ったりするのは不自然なので、新しく使うのはVR一つとR以下の範囲内で二、三個までということになった。
「これで明日は勝てそうだな。後、言うまでもないかもしれないがユズはいつでも頑張ってくれていいぞ」
「わかっとるで。まったく、うちに面倒な役目を押し付けるもんや」
「そうかもしれんが……だとしてもお前にとっていいことだってあるだろ?」
「そりゃそういうのがないとやりたないわ!てか、うちだってそんな金ばっかに惹かれるわけやないで。確かに金は大好きやけど、うちが好きなのはそれだけやないんやからな!?」
ユズは笑顔を浮かべながら軽く怒鳴る。
「悪かったな。だが、ダンジョンのためにも頼むぞ」
「わかっとる。まあそのためにも、明日はちゃんと勝たんとな」
四人は食事を終え、転移魔法で宿に帰ってから各々好きな時間を過ごし早めに就寝する。明日の試合のため早めに就寝した優斗たちは、そのおかげで翌朝しっかりと起きることができた。