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一回戦 決着

今日二話目です。

「「「「「「「「「「うおぉぉぉぉ!!」」」」」」」」」」


  ユズが騎士を二人倒した瞬間、観客たちがこの試合最大の盛り上がりを見せる。厳密にはまだ第十三王子が残っているのだが、どう考えてもここから彼が敵全員を倒して挽回するのは不可能であり、観客たちは九十九.九パーセント以上決まった勝者を褒め称える。


「くそっ!あの役立たずどもめ……。まったくふがいない奴らだ。そもそもお爺さまもあんな弱い奴らじゃなくて、もっと強い奴らを用意できなかったのか?僕が優勝すればお爺さまの持つ権力も大きくなるんだから、もう少しちゃんとした奴らを雇ってほしかったよ」


  王子はやられてしまった配下たちと、今回自分の配下たちを雇ってくれた祖父に対して文句を言う。その祖父も自分のコネで雇える範囲で最高の騎士二人と魔法使い、そして相応の高額を使って冒険者を二人雇ったのだが、孫である王子からすればそれらが負けてしまった時点で、彼らを雇った祖父に対して文句が自然と出てきた。


「そもそもなんであいつがあんな奴らを雇えるんだよ。僕より金も権力もないくせに、なんであそこまでの強者を雇えたんだ。もしかして、何か卑怯な手でも使ったのか?」


  王子は思考の渦に自ら入っていこうとするが、それもすぐに外部から止められてしまった。


「何やらぶつぶつ言っているところ悪いが、もう終わりにさせてもらうぞ」


  アシュリーが王子に対して剣を向ける。


「降参してもらえるかな?」


  王子は自分に向けられている剣を見て状況を完全に把握し、そして自分が勝てないことも理解した。


「これで終わりなのか……?」


  王子はうなだれそうになったが、「まだだ!まだ僕は負けてないぞ!!」と言ってまた立ち上がった。


「確かにまだ終わっていないな。降参してもらえなかったのは残念だが、今度は俺の手でとどめを刺させてもらうとしよう」

「まっ、待て!僕が戦うのはお前ではない!!」


  近づいてきたアシュリーによって戦闘不能にされそうになった王子が、アシュリーが剣の届く範囲にこないよう慌てて口をはさむ。


「僕が戦うのは第十八王子のあいつだ!おいお前!僕と一騎打ちだ」


  配下がすべてやられ敵が全員ピンピンしているという絶望的状況に陥っている王子だったが、暗闇の中でも一筋の希望を見つけることに成功する。それはこの大会のルールで、配下が何人残っていようが総大将である王子がやられればその時点で試合終了であり、最終的な勝者は配下の数ではなく王子がやられるかどうかで決まるというルールだ。

  これに基づいて考えると一対六の今の状況では普通にいけば負けだが、なんとか敵の王子さえ倒せれば敵の配下が全員残ったとしても自分の勝ちになるのである。


  彼の考えた作戦はルールに則ったものであり、その作戦が成功すれば彼の勝ちは決まる。非常に虫がいい考えではあるが、それも間違ってはいなかった、のだが……


「そんなバカなことが通ると思うか?」というアシュリーが放った当然の一言ですべておじゃんになる。そもそもすでに勝ちがほぼ決まっている第十八王子側が、そんな利益どころかリスクしかない提案を受けるはずがなく、普通に考えて彼の要求は到底呑まれるようなものではなかった。


「諦めろ。王子同士の一騎打ちなど、今の状況で受け入れられるはずがない。もしそれをしたかったのなら、せめて開始直後に要求すべきだったな」

「なんでだ!なんで僕があんな奴に負けるんだ!?」


  追い詰められた王子は敵の王子をにらみつけ、吠えるように叫ぶ。


「この臆病者め!僕の高貴さに恐れをなして逃げるのか!?お前はこの試合何もしてないじゃないか!悔しいならかかってこい!!」


  王子が吠えるが、それを受けた第十八王子はまるで動く様子がなく反論する様子もない。観客たちにしてもすでに負けが決まっているのに喚いている王子は見苦しく、彼のことを白い目で見ていた。


「何を黙っているんだ!?悔しいのなら反論してみろ!!」

「リア、もう倒してしまってよいぞ」

「了解」


  アシュリーの剣が王子に向かってくる。


「なんでだ。なんでよりによってあいつにやられるんだ」


  彼、第十三王子は第十八王子のことが大嫌いであった。王子たちは皆兄弟姉妹ではあるのだが、全員の仲がいいかといえばそうではない。そもそも普通の兄弟姉妹でも仲がいいところもあれば仲が悪いところもあるのだ。これが腹違いが普通にいてお互い王を目指すライバルでもあるような所だとどうなるか。そう、当然のごとく仲がものすごく悪い者たちが出てくるのである。


  そしてこの二人は仲が悪い兄妹であった。というより兄のほうが一方的に嫌っており、妹のほうは自分から嫌ったのではなくよく嫌がらせをされたりするので嫌いになったという、兄のほうが妹を一方的に嫌っているという関係であった。

 

  彼が妹を嫌っている理由はいくつかある。まず二人は腹違いの兄弟であり、血が半分しかつながっていないことだ。これ自体はそう珍しい話ではない。実際彼らには同腹の兄弟姉妹より腹違いの兄弟姉妹のほうが多くいるくらいで、それだけでは敵視する理由にならない。


  二人の仲が悪いのは腹違いというだけでなく、お互いの母親同士には大きな身分差があったからであった。


  彼の母親は公爵家の出身であり、その家の現当主の娘でもある。つまりこの国の王である父親はもちろん、自分の母親も高い身分の女なのだ。実際母方の家が大きいおかげで彼には公爵家からの支援がたくさんあり、今回雇った配下たちも公爵の金とコネクションで集まった者たちであった。

  それとは反対に第十八王子の母親は平民出身であり、その家も金持ちではなく普通の一般庶民の家であった。しかも彼女自身も冒険者や騎士として実績を残したわけでもない。しかもその美しさも平均より少し上くらいであり、他の母親たちと比べても下から数えたほうが早いくらいである。


  一方は公爵家の出身で容姿も家柄もよくそれでいてプライドも高い母親で、もう一方は平民出身で自身も大した力を持っておらず、たまたま国王に見初められてその性格がよかったからか運良く結婚まで行くことができた母親だ。

  同じ男の妻とは言え二人のそりが合わないことは当然であり、二人はお世辞にも良好とはいえない仲であった。


  そしてそんな母親を持った彼は庶民出身でなんの力も持たない女を母親に持つ第十八王子を自然と見下すようになり、その結果彼女に対して嫌がらせなどもするようになった。


  またそれ以外にも現時点での実力が伯仲しているというのが気に食わない。二人の年齢差は三つだ。四十歳五十歳の三歳差ならともかく、十代前半の彼らにとっての三歳差というのは非常に大きな差になる。当然体の大きさは違うし、魔力や体力の成長も違うのが普通である。

  しかも二人は性別が違うのだ。筋力差ぐらい魔法やスキルで簡単にひっくり返せるのだが、小さいうちはまだそれらが未熟なので性別の差は自然と大きくなる。

  獣人たちも人間と同じように男子より女子のほうが成長期が早いのだが、それでも三歳差のためか今絶賛成長期の第十三王子とまだ成長期が来ていない第十八王子では、当然第十三王子のほうが成長しているといえる。


  つまり普通に考えれば彼のほうが強いはずなのだが、それでも二人の実力はほとんど変わらない。つまりあくまで現時点での話だが、才能という面では彼は彼女に負けていると言わざるを得ない。特に獣人らしく前衛タイプの二人にとって体の成長による筋肉や骨格の発達は重要な要素の一つであり、そこで大きなアドバンテージを持っているはずの彼が互角となるとその才能の差は決して小さくないと言えるのだ。


  彼からすると自分より家柄が悪くコネも金もない上に、戦闘力も優れた容姿も持たない母親を持つくせに、彼女本人の実力だけは自分と同格、しかも才能面でいえば明らかに自分より上だと考えられるような腹違いの妹の存在は非常に目障りであった。


  彼は組み合わせの発表を受けて金もコネもない彼女相手なら一回戦は楽勝であると確信していたし、何より目障りな奴を早々に叩き潰せるというのは非常に嬉しいことであった。しかし、それにもかかわらず今自分が反対に負けそうになっている。

  彼の心には大きな悔しさと共に、妹を勝利に導いた目の前の四人に対して理不尽な怒りを抱いていた。

 

「ふざけるな!僕があいつに負けてたまるか!!」


  王子は自分の武器を持って、目の前にいる者たちを無視して奥にいる妹に向かって全力で走る。


「それは無理だ」


  もちろんそんな破れかぶれの作戦が通用するはずがなく、アシュリーにあっさり追いつかれて戦闘不能にされた。


  アシュリーが王子を倒した瞬間、そこでこの試合の勝者が決まった。観客には不利だと目されていた第十八王子が勝ったことへの驚きと共に、その勝利の立役者となった四人への強い興味が抱かれた。



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