一回戦 3
今日は二話投稿です。
「「これが我々に与えられた最高の力だ!!」」
二人が魔道具を使用した結果、彼らの手には先ほど使っていたものとは比べ物にならない程大きな力を持った剣が握られていた。
「なんやえらい強そうな剣やな。確かに武器だけでいえばさっきよりやばそうやで」
「だな。あの剣はVR、いや下手したらSRに匹敵するかもしれないぞ」
「僕は下がったほうがいいでしょうか?」
三人は突如出てきた強力な武器に驚きをあらわにする。これは推定でVRやSRに匹敵するという力だけでなく、彼らのほかの装備のグレードやこの国及びその周辺の情報からして、まさかここまでのものを用意することができたのかという驚きもある。
彼らの装備はおそらくほとんどがRに匹敵する装備で、そんな中いきなりあれほどの武器が出てくるとは優斗たちにとっては想定外であった。事前に王子から聞いていた情報でも、あれほどの武器を敵が所持しているという情報はなかった。
その王子にとっても予想外だったのだろう、優斗の後ろで王子が非常に驚いた顔をしていた。
この国で出回っている武器の質はブルムンド王国とさほど変わらないくらいで、ほとんどがC、UCである。そして一握りの強者かたくさんの金を持っている者がRを入手することができ、さらにその上のVR以上となると持っている者が極端に限られてくる。
そんな状況にもかかわらずVR以上の武器を二つも持っているのは異常であり、これには優斗たち当事者だけでなく観客たちも大騒ぎしていた。
「(今の魔道具はどこかで見たことがあった気が……)」
彼らは小さな箱のような魔道具からそれぞれ武器を取り出した。その箱は武器の大きさに比べて小さすぎることから、魔法的な手段で武器を収納して持ち運びできる魔道具であることは確定である。しかしその魔道具を見た優斗は、どうもそれだけしか能力がない気がしなかった。
どこかで見た覚えのあるその魔道具は優斗の記憶通りなら収納以外の能力があり、詳細に思い出せないまでも何かしらの追加効果を武器に与えることができるものだった……ような気がしていた。
「(どんな魔道具だったか……。俺よりアイテムに関する知識が豊富で鑑定能力も高い、錬金術師のエリアスがここにいてくれれば一発でわかっただろうに)」
優斗は箱の魔道具についてじっくり考察したい気持ちがあったが、それでも時間はそう都合よくは流れない。優斗の考えがまとまる前に騎士たちは動き出しており、ユズたちがそれを受け止めているところだった。
「(そうだよな。敵の能力を考えるのも大事だが、今はそれ以上に目の前の事態に対応しなければならない。魔法で強化するのは当然として、あとはどんな援護をするべきか)」
ユズとアシュリー、そしてクルスの使っている武器装備はすべてRであり、騎士たちの持つSR級の剣と比べればその力は格段に落ちる。この二段階の差はかなり大きく、それによって多少の実力差なら簡単にひっくり返せてしまうほどだ。
ユズとアシュリーはステータスやスキルなどの面で騎士たちを大きく上回っているため、本気を出せばその程度の装備差くらいすぐにひっくり返すことができる。
しかしそれをするとなると結構頑張る必要が出てくるのだ。そしてクルスの場合は武器だけでなく素の実力でも劣っているため、割と簡単にやられてしまう可能性がある。これまで通り実力を偽るのならば、早急に何かしら動く必要があった。
「(くそっ!こんなことならもう少しましな武器装備を身につけていればよかった。って、今こんなことを言ってもしょうがないか。こうなったら俺ももう少し前に出て戦うか)」
優斗は先ほどよりも少し前に出て、騎士たちに対して攻撃魔法を放った。
「後ろも来たか!」
優斗のあいさつ代わりに放った魔法を難なく防いだ騎士たちは、後衛の優斗に対しより一層警戒心を向けた。
「我々の剣の力を見せてやる!」
騎士がそう言うと、彼の持っている剣がまとっている火がより一層強くなった。
騎士たちの持っている剣は一つずつ、そのうち一つは先ほど言ったように火をまとっており、もう一つは強い冷気をまとっていた。
「くらえっ!」
騎士が剣を振ると、その剣から火をまとった斬撃が優斗に向かって飛んできた。
「ちっ!」
優斗はそれを戦士さながらの動きでかわす。
「やるじゃないか!」
飛んできた斬撃をかわした優斗だったが、それに追い打ちをかけるかのように今度は冷気をまとった剣を持った方の騎士が接近してきた。
「そう簡単にはやらせへんで」
しかしその騎士の前にはユズが立ちはだかる。
「〈氷炸裂〉」
騎士がそう言って剣を振ると、そこから強力な冷気攻撃が繰り出された。
「まじか!」
ユズは冷気をまとった剣だから冷気攻撃位は当たり前だと思っていたが、まさかこんな範囲魔法的なものを使えるとは予想しておらず、いきなりの攻撃、そして後ろに優斗がいることによりかわすこともできなかった。
「ユズ!大丈夫か!?」
アシュリーはクルスと共にもう一人の騎士と闘いながらも、ユズに声をかけた。
「大丈夫や。まだまだいけるで!」
ユズはそう言って自分に攻撃をしてきた騎士に対して攻撃を仕掛ける。騎士のほうもあれほどの攻撃をした後だったためか少し疲れており、ユズの攻撃を捌くので精一杯であった。
「あの攻撃を受けてなぜやられない!」
「そんなこと敵にいうわけないやろ!あんた、アホちゃうか!?」
ユズが敵の攻撃を食らってもやられなかった理由は簡単だ。なにも特殊ことをしたのではなく、ただ単純に彼女の体力や防御力が優れていただけである。極論を言えば何のマジックアイテムや装備を付けずとも、あれくらいの攻撃ならダメージを受けこそすれ戦闘不能になることはない。
ユズは軽装備とはいえまぎれもなく防御力を持っている装備と何種類ものマジックアイテムを身に着けていたのだ。そう考えると、ユズがあの攻撃でやられないというのは驚愕ではなく当然であった。
「なあ優斗、確かうちはもうちょい力を出してもええんやったよな?」
「……しょうがない。だが、せめて魔法はかけさせてくれ」
優斗はそう言ってユズに対して支援魔法をかける。
「ほんなら、これで終わりにさせてもらいますわ」
「なんだと!」
ユズの気楽に自分たちを倒せるという口調に激怒した、ように振る舞っている騎士が彼女に向かっていく。
「悪いな。もうそんな細かい駆け引きをしとる次元じゃないんや」
ユズは激怒しているように見せて相手の油断を誘おうとしている騎士の思惑はすぐに理解できたが、そんな演技が無駄になるほど騎士は簡単に戦闘不能にされた。
「なに!?」
「悪いな。もうこの勝負は終わりやねん」
ユズはそのままもう一人の騎士に向かっていく。
「やられて……!」
「しまうで」
そしてユズは残った騎士すらも簡単に倒してしまう。こうして第十三王子の陣営は王子一人となり、舞台にいる優斗たち、そして観客たちもどちらが勝つのかを確信することができた。