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一回戦 2

「ほんならお二人さん。うちらもそろそろ慣れてきたんで、決着つけさせてもらいますわ」


  ユズとアシュリーがそれぞれ敵の一人に狙いをつけて走り出す。


「来るぞ!」

「わかってる!」


  兄弟たちも自分にめがけて走ってきた方をそれぞれ相手どろうとする。


「それじゃあ遅いわ」


  ユズは見事な身のこなしとそのスピードにより敵の防御や反撃をいとも簡単にすり抜け、そのまま目の前の敵を戦闘不能にした。


「兄貴!」

「よそ見している暇はないぞ」


  自分の兄が簡単にやられてしまったことに思わず驚いてしまった弟は、自分のほうに来るアシュリーへの対応に後れを取ってしまった。


「やられてたまるか!」

「もう遅い。すでに流れは決してしまっている」


  弟も並の実力者ではない。そのため遅れながらもなんとかアシュリーの初撃は止めることはできた弟であったのだが、残念ながらアシュリーもそれで終わってはくれなかった。


  初撃を止められたアシュリーであったが、彼女はそれを予期していたかのように追加で連撃を与えていく。初撃に遅れてしまった弟は追加できた連撃を防ぎきることができず、やがてその波に耐え切れなくなってやられてしまった。


「二人がいとも簡単に!!こうなったら後ろと合流して……」

「逃がすと思うか?」


  前線で一人になってしまった魔法使いは後ろに下がり後衛の王子たちと合流しようとするのだが、戦況はそう都合よくは動かなかった。


「なぜ縛られている!?」

「二人が戦うんだ。当然俺だって突っ立ったままではいられないさ」

「ようやってくれたでほんま」

「俺がここで終わるなんて……」


  優斗は魔法使いが前線の四人に気を取られた一瞬を見計らい魔法を用意して、彼が後衛に下がるタイミングでその魔法を使った。

  優斗が使ったのは拘束系の魔法であり、その魔法使いでもすぐに解除できるものではない。そしてその隙を前線にいる二人が見逃すはずもなく、離れている後衛の王子たちが救援するよりも早く魔法使いはリタイヤさせられた。


「まあしょうがない。勝負というのはそういうものなのだ」


  優斗はなんの活躍もできずにやられた魔法使いに同情する。とはいえあくまで敵の話だし、そもそもそうさせたのは自分たちである。

  こういう複数体複数の戦闘では、立ち回り方によって今の魔法使いのように複数に囲まれて何もできずに終わるということは珍しくない。


  優斗は魔法使いには軽く同情しておいて、この大会に限らずこれからの戦いで同じようなことにならないように、そして敵を再び同じような状況に追い込めるように戦略を立てていこうと心に刻んだ。


「後は後ろの三人か……」


  ユズとアシュリーは前線の三人を倒したそのままの勢いで後衛の三人を狙うことはせず、魔法使いを倒した後は一度下がって敵の様子を見ながら軽く息を整えていた。

  正直二人ならそのままいって倒せるだろうが、あまり強さを見せつけすぎないため、そして万が一を考えて自分たちの数の優位を生かすために一度下がることにしたのだ。


「あいつに雇われた冒険者のくせにやるじゃないか。だけど残念だったな。残りの二人はお前たちでは太刀打ちできない程の強者だ」


  後ろから第十三王子とその配下が出てくる。王子はともかくその傍にいる二人が発する雰囲気は確かに歴戦の強者のそれであり、彼の言が嘘ではないことを証明していた。


「ここにいる二人は、お爺さまが特別に選んでくれた冒険者の最高位にあたる白金級にも匹敵する力の持ち主だ!お前たちのような名の知られていない冒険者に倒せる相手ではないぞ!!」


  そう。優斗たちの名前はこの国では全然知られておらず、その上第十八王子が秘密裏に交渉したため敵である第十三王子の側も調べが回っていなかった。

  優斗たちはルクセンブルクはもちろん今ではブルムンド王国でも有名な冒険者なのだが、まだ活動時期が短いとあってか他国にはあまり名が知られてはいなかった。そして優斗たちが第十八王子の側についたと発表されたのが試合直前であり、観客たちも同様に彼らのことをよく知らないのだ。


  今四人は実況の紹介により他国の冒険者とだけわかっている謎の強者という扱いであり、彼らが活躍することで観客の興味はどんどん四人に注がれていた。


「やってみればわかるだろうが、そこの二人でも俺たち四人には勝てないと思うぞ」

「ほざけ。お前たち、あの不快な奴らを叩き潰せ!」

「「はっ!」」


  王子の声に従って二人が動き出す。どうやら二人は騎士のようで、どちらもスピードは遅くなかった。


『カンッ!』

『カキンッ!』


  金属のぶつかり合う音が二つする。ぶつけ合っているのは前衛のユズとアシュリー、そして出てきた騎士たちである。


「ほう。女の身で我が剣を受け止めるとは。やはりあの兄弟を倒したのはまぐれではないな」

「いつまでも余裕こいとってええんか?」

「なんだと……。!?いやそういうことか!!」


  騎士が慌てたのと同時に、ユズとアシュリーの力が強くなる。それによって騎士たちの剣を押し返し、今度は彼女たちが反撃に出る。


「後ろにいるのが厄介だな」

「ああ。先にあいつから潰すべきか」


  ユズとアシュリーが急に強くなった種は簡単で、後ろにいる優斗が二人に強化魔法をかけたためその力が増幅されたのだ。

  騎士たちも馬鹿じゃないから当然そのことには気づく。そしてそれに気づいた騎士たちは何とかして前衛の二人を足止めして、その間に優斗を打ち取ろうと考えた。


  魔法使いは時間を与えれば与えるほど、魔法で自分や味方を強化することができる厄介な存在である。時間をかければかけるほど不利になると判断した騎士たちは、早急に後衛の優斗を打ち取ろうと考えた。


「頼む!」

「任された!!」


  二人の騎士たちは歴戦の強者であり、なおかつお互いに同じ戦場で戦ったことも少なくない。そのため戦いになればお互いのアイコンタクトである程度相手の考えがわかり、頼むの一言で自分が二人を足止めしろと言われているのだともう一方の騎士は理解することができた。


「行きたければ行けばいいで」


  そう言ってユズは簡単に騎士の一人を後ろに通すが、その後すぐに二人が行った行動を見て騎士は急いで引き返した。


「やらせん」


  騎士はすぐ戻ってきてユズの攻撃を防ぐ。


「おや?ずいぶん早いお帰りやな」


  ユズがそう言って楽しそうに笑う。


「性悪な女たちだ。それをされてはこちらが困るということをよくわかっている。味方なら頼もしい位だったろうな!」

「まあこれが戦いだ。相手の弱いところを責めるのは当然だろ?」

「その通りだよ!」


  騎士たちは敵の策略が合理的で厄介なものだと瞬時に理解し、それと同時に自分たちの勝機が薄いことを確信する。


  ユズたちがとった作戦は簡単だ。彼女たちは騎士の一人を通しておいて、自分たちは二人でもう一人の騎士ではなく敵方の王子を狙い撃ちにしたのだ。

  この戦いは王子がやられると負けになる。そのため騎士たちは王子がやられてはいけず、敵の魔法使いと自分たちの王子では優先順位が圧倒的に王子のほうが上であった。


  王子も決して弱いわけではない。しかしまだ少年である王子は二人の騎士と『インフィニティーズ』の戦いに入るには実力不足であり、狙われれば簡単に負けることは騎士たちも重々承知していた。


  ユズとアシュリー、そして優斗が強いのは言うまでもなく、その仲間であるクルスも三人ほどではないがそれでも銀級(金級冒険者としては少し力不足)程度の力は持ち合わせている。そして騎士たちも白金級という評価に違わぬ力を見せており、彼らの戦いは高レベルであることが窺える。

  そんな中にまだ銀級にすら及ばない王子が入っても足手まといになるだけで、狙われてしまえばその時点で負けの可能性が高くなってしまうのだ。


  騎士たちはユズたちの策によって満足な働きができない。なぜなら隙あらば王子を狙う二人の相手をしながら、後ろからは優斗が魔法でサポートとしてくる。そのため騎士たちはどうしても王子に意識を割かざるを得ず、戦況はどんどん悪くなっていくばかりであった。


「僕も行きますよ!」


  クルスが四人の戦いに入ろうとする。これまでは四人に比べて実力が劣ることと念のため魔法使いである優斗の護衛をしているということで戦いには参加していなかったのだが、相手が疲れてきたのを見てそれに追い打ちをかけるために前線に出ようと考えた。


「緊張はもういいのか?」

「はい!もうすっかりこの雰囲気には慣れました」

「なら反対することもないな。向こうの騎士たちにとどめを刺してこい」

「わかりました!」


  そしてクルスが援軍として戦いに参加する。もちろん彼女は魔法も使えるので自分に魔法をかけ強化したうえで、さらに優斗から魔法をかけてもらった状態でだが。


「また来たのか……」

「まずいな。なにかしないと」


  騎士たちはクルスが来たことで焦りが強くなる。このままだといつかやられるのはわかっていて、どうにかして戦況を覆す方法を探っていた。


「あれしかないか……」

「そうだな。できれば決勝まで取っておきたかったが、ここから逆転するには閣下にもらったあれを使うしかないだろう」


  騎士たちは隙を見て一度距離を取り、一斉に色違いの同じ魔道具を手に取って使用した。


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