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王を目指す者たち

  レムルス獅子王国の誇る国最大の闘技場。現在ここでは、この世界でも上位に分類される程の力(冒険者で言う金級や銀級、中には白金級やそれ以上の力)を持つ者たちの戦いが余すところなく行われていた。


「決まったー!この国の次期国王を決める国最大の武闘大会、その記念すべき今大会第一試合を勝利で飾ったのはやはりこの人!この国始まって以来の天才とも名高い、第四王子様だー!!」


「「「「「「「「「「おぉぉぉぉー!!」」」」」」」」」」


  実況の声を聞き会場にいる者、そして入場者数の上限の問題で会場に入ることができなかったため、外で結果だけ聞こうと聞き耳を立てていた者たちが大歓声を上げる。闘技場を含め王都はすっかりお祭り騒ぎであり、各地では誰が優勝するかについて熱い議論が行われていた。


「あれがうちの王子の言っていた優勝候補筆頭の第四王子か。なかなかの力を持つことはわかるが、この試合だけで判断することは難しいな」


  優斗は闘技場の観客席で第四王子対第十王子の一回戦を見ていた。内容は終始第四王子側が圧倒しており、対戦相手の第十王子側はいいところが全くないといえるほどボコボコにされていた。

 

  そしてそんな試合展開だからか第四王子とその配下たちはまったく本気を出していた様子もなく、優斗から見ても明らかに手の内をまだたくさん隠しているようであった。


「兄上は白金級を超える力を持つと言われており、冒険者ランクに白金級以上、例えばミスリル級などがあれば間違いなくそれに分類されると言われるほどの実力者だ。そしてその配下たちも当然腕が立つ者ばかりなのは見てもわかるであろう。そこで聞くが、お主らは兄上とその配下たちに勝てそうかの?」


  優斗の後ろから話しかけてきたのは、今大会の参加者の一人でもある第十八王子だ。優斗たちはあの後交渉して条件をもう少しよくしたうえで、結局彼女の依頼を受けることにしたのだ。


  優斗たちは交渉によって彼女の使える資金を超える白金貨八百枚まで報酬に組み込ませた挙句、優勝した場合には次期国王の権限で優斗たちが指定する人物を一人男爵に引き上げることを要求した。

 

  彼女からすると元々爵位を与えることは裁量に入っており、そもそも国の法律で次期国王になった場合にはいくつかの爵位を好きな人物に与えられることになっていた。実際今代の国王もその制度を使って自分の勝利に貢献した者たちを数名新たな貴族に任じており、その者は今も国王の側近として働いている。

  配下側も王子を優勝させる代わりに報酬として爵位を要求する者は珍しくなく、特に相続権のない貴族の子供はそれに当てはまる者が多かった。割合的には大体一チームに二人くらいそういう者がおり、優斗たちにそれを要求されても彼女は何の動揺もなかったであった。

 

  しかしさすがに自分の払える限界を超えている白金貨八百枚は痛かったようで、それに関しては撤回を求めた。


  王子の資金源は主に三つある。まずは毎年王子に与えられる予算という名のお小遣いであり、その額は年を重ねるごとに少しずつ増えていき、その子が二十歳になるまで払われ続ける。このお小遣いは王子でなくなる、つまり自分の兄弟姉妹から次期国王が決まりもう王にはなれないといった場合に、王城を出る判断を下した王子の独立資金の役目も果たしており、二十歳前までの十九年間で白金貨五十枚、最後の一年でさらに白金貨五十枚払われることに決まっている。


  そして二つ目は、王子が個人的にやっている商売などが当たる。こちらにもさまざまな種類があり、単純に商会を経営して金銭を稼ぐ者もいれば、冒険者になって活躍することで金銭を得る者もいる。それ以外にも国の騎士となって活躍する者もいれば、王家直轄領の一部で代官として働くことを希望し、代官として働いた報酬をもらう者もいる。

  その者たちの中にはその仕事が楽しくて、他国との交渉や権力争いなどもしなくてはならなくなる次期国王になることよりも、王になるよりも気楽なそっちの仕事がしたいと言って継承権を放棄する者も毎回数人おり、今代もすでに三名がそういった理由で王位継承権を放棄している。


  そして最後が自分を支援してくれる貴族や商人からの金銭支援である。彼らからすれば自分が支援した者が次期国王になればそれ以上のリターンが望めるため、支持している王子への金銭的な支援を惜しまないのであった。

 

  これらが合わさることによって、王族は一人一人がそれなりの資金を持っている。特に今回の大会に登録されている次期国王の候補者たちには三つめの支援がなされており、その資金を使って強い配下を雇った王子も何人かいた。

  また王位継承戦では特別に上記の三つ以外にも国から支援金がもらえる。その支援金は年齢が低い者になればなるほど多く与えられており、出場者の中で比較的年齢が低い第十八王子はそれなりの支援金を与えられていた。これは当然一つ目において年齢が低い者ほどこれまでもらった金額が少ないことと、二つ目においてその仕事ができる期間が短いこと、そして三つ目においても支援してもらえる可能性がある人に自分の力を見てもらう時間が少ないのでやはり不利になることから、できるだけその差を埋めるためそういった措置がなされていた。


  そういった措置をされているため、正直金貨八百枚だろうが大会に参加するほとんどの王子はそれを払うことができるのだが、残念ながら第十八王子はそれができない数少ない王子の一人であった。


  まず彼女は生まれてまだ十年くらいしかたっていないためもらっているお小遣いも少なく、彼女自身もまた商売などをして自分で稼ぐ方法を持っていなかった。さらに彼女は参加者の中でもまだ幼く、その強さもまだまだ未熟なものであった。

 

  王位継承戦に出られる最低条件は冒険者でいう銀級以上の力を有していること、もしくは将来的にそこまでたどり着けるだけの素質を持っていることである。

  例えば先ほど出てきた第四王子などは余裕で銀級以上の力を有しているのだが、第十八王子はあくまで将来大人になれば銀級は超えるだろうという評価であり、現時点ではまだ銀級にも届いていないだけの力しかもっていなかった。そうなると現時点での力は参加者でも下になり、本人の力だけなら絶対に優勝は不可能だと言える。


  そして彼女は力だけでなく、その母親の身分も低いのである。もし仮に母親の実家が大貴族であったなら、実家から力を借りることでもっとたくさんの金銭を使えただろう。しかし母親の身分が低いためそういった縁もなく、また彼女がまだ強くないことが重なった結果、彼女を支援してくれる貴族と商会は極僅かしかおらず、その支援金も他の王子と比べ微々たるものであった。


  そのため彼女には白金貨八百枚も払えるほどの資金力はなく、爵位はともかく白金貨に関しては頷くことができなかった。


「むこうは力を隠してたみたいだから、勝てるかどうかはやってみなければわからないな。だが報酬は結構良かったからな。やれるだけはやってみるさ」


  そう。優斗は結果的に王子からの依頼を受けているのである。もちろん彼女からすれば優斗たちの要求は呑めないものであったが、それでも優斗たちの要求が破格ではないこともしっかりと理解していたのだ。そもそも王位継承戦で優勝しても白金貨百枚程度だけというほうが逆の意味で破格であり、優斗たちの要求は決して間違っているものではなかった。

  彼女は自分の資金が少ないことだけでなく、優斗たちが他国から来たばかりでこの国の事情を知らないだろうと舐めてかかっていたのだ。実際クルスとアシュリーはそれにひっかかっていたし、その作戦も半ば成功していたのだ。


  その二人だけなら、いや優斗がこの国に商会を作ったりスパイを派遣していなければうまく騙せたかもしれない。そうでなくとも白金貨二百枚~三百枚程度で済んでいた可能性は高いのだが、あらかじめこの国の事情を知っていた優斗をだますことはできなかった。

  そして優斗たちに不当な契約で依頼を受けさせようとしていた彼女はその点も責められることになり、なかなか交渉で強気に出ることも出来なくなった。

 

  また優斗たちに断られれば自分の勝ちの目が完全になくなることも理解していた彼女は何としても優斗たちにこの依頼を受けさせなければならず、交渉を打ち切ることもできなかったのである。


  そして交渉の末最終的に合意した条件が、優勝した場合男爵二つと子爵一つを優斗たちが指定した者に与えるというものであった。

  これに合意してしまえば彼女が次期国王になった際にもらえる貴族の枠をほぼすべて消費することになり、将来国を治めるために貴族に任じ側近を増やすという策がほとんどできなくなる。しかし彼女が王になるためにはこの条件を呑むしかなく、絶対に王になりたい彼女はこの条件に合意した。


  優斗たちは貴族位を得るために、そして王子はこの国の王になるために、お互い納得できる条件で合意した二組は、勝つために全力を尽くすことを誓い合ったのであった。



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