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受ける?受けない?

「まず結論から聞きたい。今回の依頼を受けることに対して、賛成の者は挙手してくれ」


  いったん交渉を終え優斗の部屋に集まった四人は、今回の依頼を受けるかどうかについて話し合うことにした。


「手を挙げたのは二人か……」


  手を挙げたのはアシュリーとクルスの二人である。二人は断る必要が全然ないと考えているようで、手を上げることに対して迷った素振りは一つもなかった。


「ならユズは反対ということでいいのか?」

「こういう聞き方されたら反対やけど、依頼を受けること自体には賛成やで」

「どういうことだ?」


  ユズ以外の三人が怪訝な顔を浮かべた。


「単純なことや。依頼を受けるのはええけどその条件、シンプルに言えば報酬が不満なんや」

「つまりもっと報酬が高ければ賛成ということか?」

「その通りや。さすがにあれっぽっちや少なすぎるやろ」


  ユズはさも当然といった口調で報酬の少なさを指摘する。


「ですが白金貨百二十枚以上はすごい大金ですよ。それに優勝しなくても依頼を受けるだけで四枚、それから勝つごとに増えていくんですから、そんなに報酬は悪くないのでは?むしろ僕としては高すぎるくらいに思えましたよ。だって最低一回最高でも三回試合するだけでそれだけもらえるんですから、報酬的には悪くないのではないですか?」

「そうだな。多すぎるとは思わなかったが、それでも報酬が少なすぎるとは思わなかったぞ。勝ち進むごとに報酬が増えていくのはトーナメント戦である以上しょうがないことだし、向こうは優勝して次期国王になるためにやっているのだ。ならば優勝できなければたくさん出したくないというのも当然なのではないか?俺も報酬が悪いとは思えなかったぞ」


  報酬が満足なものだと話す二人に対し、ユズはやれやれと首を振る。


「確かに二人の言う通り三試合して勝てば白金貨百枚以上もらえるのなら悪くないかもしれんけど、それは普通の大会やった場合や。うちらが今回出るのはこの国の次期国王を決める大会やで。しかもこの大会は単純に次期国王を決めるだけでなく興行も兼ねとって、公式に賭けも行われとる。

  賭けはどうやっても胴元が儲かるような仕組みやからな。国には賭けの胴元としての収入が入るわけや。しかもそれだけでなく、観客からとる入場料やそこで出店しとる屋台からの場所代なども入る。つまりこの興行によって次期国王が決まるだけやなく、国も潤すことができるんや」

「それが僕たちの報酬に関係あるのですか?」

「当然や。うちらへの今回の報酬、いわばファイトマネーっちゅうんはな、その選手が有名であれば有名なほど、そしてその興行が儲かるなら儲かるほど上がるもんなんや。

  この興行はこの国でおそらく一番ビックなもんやし、この大会で次期国王が決まる以上獅子王国はもちろん他国の人間、特に貴族や商人みたいな金持っとる奴らも大注目に決まっとる。しかもうちらはどこぞの無名選手なんかやなく、金級冒険者にまで上り詰めたそこそこ有名な選手や。ほんならうちらへの報酬がもっと高くてもいいんやないか?どうせこの興行で国は白金貨何千枚も稼いどるんや。せやったらもうちょっと報酬に色つけるべきやろ」


  優斗はユズの話を聞きながら、アメリカの格闘家がすごいファイトマネーで試合をしているというニュースを思い出した。


「ユズの言いたいことはわからないでもないが、あの王子には自分が好き放題使える予算がほとんどないのかもしれないぞ。それに、もしかしたら今回の興行で稼いだ金を俺たちに回すことも禁じられているのではないか?」

「王子、しかも継承戦に選ばれるほどの子なんやから、ある程度の予算くらいは与えられとるやろ。それに優勝したらあの王子は次期国王になれるんやから、優勝できんかったときはともかく優勝した時の報酬はもっとたこうできるやろ」

「前者はともかく後者は難しいんじゃないか?」

「なんでや?この国はそこそこ大きい国なんやから、出そうと思えばそれこそ白金貨一万枚くらい簡単なんやないか?」


  ユズは心底不思議そうな顔をする。この国の経済規模からいって、王や次期国王がそれくらいの金額を用意できないはずがないことは明白である。ユズもさすがに報酬として白金貨一万枚は望まないが、それでも先ほど提示された額の数倍は欲しいところであった。


「だって考えてもみろ。もし優勝して次期国王になった時に払えるだけ払うということにしたら、優秀な選手にはそれこそ青天井に報酬が与えられることになるだろ?そうなると選ばれた選手たちが金貨何万枚、下手したら金貨何十万枚で優秀な選手を雇うことになるし、実際王になればそれだけの金銭を支払うことができる。

  王子たちにとっては自分が次期国王になれるのならそれくらい安いものだろうが、国からするといくら大会で儲けられるとはいえそれだけの大金が出ていけば当然痛手になる。王子の持つ個人的な資産で払われるのならばともかく、国費から出されるとなると大変だろう。もし雇った選手に払う金額が大会の儲けを大きく超えるものであった暁には、この大会自体が国にとって大きな負担になるはずだ。

  これはあくまで俺の予想だが、おそらく王子たちが配下を雇う場合に使える金額は限られているのだと思う。王子自体が持つ個人資産は好きに使えるだろうが、それ以外は王宮から一定の補助金をもらえるくらいじゃないか?だとすればあの金額でもおかしくはないと思うが……」

「なるほどー。その可能性は高いわな」


  優斗の意見をユズはうんうんと頷きながら肯定する。アシュリーもその話を理解できたようだが、まだ理解できていないクルスは首をひねっていた。


「せやったらあの女騎士みたいに個人的に忠誠を誓っとりそうなんはともかく、うちらみたいな外部の雇われは断るんも多いんやないか?」

「そうでもないだろ。ユズはあの金額で不満だったが、他の二人は満足していたんだ。単純な割合でいえば三分の二は受けてくれるということになる」

「ほんでもやっぱりおかしいやろ。国は潤うし、大会に参加する王子たちは優勝すれば次期国王になれるんやで。そんでもってうちらは自分が雇われた王子を次期国王にしたるんや。その対価が白金貨百枚ちょいはおかしいやろ」

「まあユズの言いたいこともわかる……」


  優斗は頷いて一泊置く。


「しかしこの国で活躍する、もしくは活躍しようと思っている者にとって、この大会は王侯貴族に自分の顔を売る大チャンスだ。しかももし自分が雇われた王子が優勝すればそのまま次期国王に恩を売ることもできる。それにこの国は強者を尊ぶ性質があるのだから、しっかりとした戦いを見せれば名が広まる速度も速くなる。 金銭面以外の報酬が大きくなることが魅力なんじゃないか?」

「それもそうかもしれへんな……」

「それだけじゃないぞ。俺たちにはあまり縁のない話かもしれないが、王子を優勝させれば爵位を与えてくれるかもしれないぞ。強者を尊ぶ国で王子の配下として活躍して次期国王にしたんだ。この国では名を挙げた冒険者が貴族になることも珍しくないのだから、この大会で活躍した者が貴族になってもそうおかしくはないだろう?」

「なるほどな。そう考えると受ける者も多いんかも知れへんな」


  優斗の話にユズが大きく頷く。今度の話はアシュリーとユズだけでなくクルスも理解できたようで、二人も大きく頷いていた。


「だから判断基準としては報酬も大事だが、それ以上に今後のことを考えて判断する必要がある。この国、いや来賓としている他国も含めた王侯貴族に顔を売りたいなら受けたほうがいいだろうし、この国でもっと活動するなら受けて損はないかもしれない。

  だが俺たちは普通の冒険者というだけでなくダンジョンの首脳陣だ。将来ダンジョンとして隣国にあたるこの国と関わることになる可能性もあるし、そうなった時の対応にどういう影響が出るかも考える必要がある。ダンジョンのことを考えれば、それこそ四人のうち誰かをこの国の貴族にしてもらい裏でダンジョンのために働いてもらうこともできるんだ。

  そう考えれば、この依頼は面倒なものであると同時にチャンスでもあるんだ。これらを踏まえたうえでもう一度聞くが、みんなは今回の依頼を受けることには賛成か?」


  優斗の問いに対して、三人はこれまで以上に真剣に考える。それからまた話し合ったり熟考したりした結果出した答えを持って、四人はもう一度第十八王子が待つ部屋に向かった。


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